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龍の歌人  作者: 十六夜
第一章【前半】
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004 黒曜の門の伝承の地

そろそろストックを作っていきたいと思います。

頑張ります。

 寄宿舎は内装も素敵だった。エントランスホールには貝殻で装飾された灯りが天井からぶらさがっていて、太い木の梁が何本も通されている。

 二階部分の部屋は三人部屋で、アシエリスはロワノルドとフィリッパの二人と同部屋だった。小さめだがバストイレと文机があり、窓からは美しい海が一望出来る。


 荷解きをして、簡単に汗を流しさっぱりしてから皆で夕食をとる為、一階の食堂へと集まった。

 食堂は海に面した窓が一面ガラス張りで、ここでも外の海景色を一望できた。水平線の彼方に沈む夕陽を眺めながらの食事は、心が落ち着く。


 食後のデザートまですっかり堪能してから、その日は皆早くに解散となった。



 翌朝は日の出と共に起床するアシエリス達。朝食に集まった部員の中には、何人かまだ眠そうに目を擦る者もいる。


「皆さんおはようございます! よく眠れましたか?」


 ミス・ミドリが点呼を取り、全員が返事をした。


「結構です。それでは、一日目のボランティア先の場所と、グループ分けを言います。エリクソン、テカヴィニック。これを皆に配って頂戴ね」


 そう言って手渡された紙をグループ事に配りながら、アシエリスは今日やる事に目を通していた。



 ───えっと、何何? 私はロワンとフィンと三人で……これはいつものメンバーね。ええっと、大通り三件目の花屋のお手伝い…フムフム。



 それぞれの場所が書かれた紙に目を通していく部員達を一通り眺め、ミス・ミドリは話を続けた。


「指定されている労働時間が若干違うので、それぞれの場所で聞いてください。昼食は昼の鐘が鳴る頃、またこの宿に戻ってきて、皆で摂ります。何かあったら、配布した紙に書いてある場所へ来て下さい。分かりましたか? ──それでは、良い一日を」



 それからアシエリス達は紙に書かれている場所へ行き、その日の活動を行った。活動場所の花屋はミレンスの町でも人気の場所のようで、行列ができるとまでは行かないものの朝からひっきりなしにお客が来た。三人で代わる代わる店番をし、気が付くと昼を告げる鐘の音が耳に届いた。お店のオーナーである老夫婦に午後にもまた来ると挨拶をしてから、昼食を摂るべく寄宿舎へと向かう。

 他の場所へボランティアに行っていた部員達も、着いた順番から先に昼食をとっていった。


 同じく席に着いて昼食を食べようとしていたアシエリスは、他の部員達のしていた興味深い会話に耳を済ませることになる。



「そういえばさ、店の旦那さんから聞いたんだけどね。この町には、とある伝承があるらしいよ」

「あ、それ俺達も聞いたよ。黒曜の門の伝承だろ? 自由時間にでも観光してみると良いって、勧められた」


 ───黒曜の門?


「ね、エリー。私達もあの話、耳にしたわね?」


 隣でハムサンドを食べようとして口を開けたフィリッパが、そのままの格好でアシエリスに顔を近づけて質問する。

 アシエリスも、ミニトマトにフォークを刺しつつ頷いた。 


「うん。私も、気になってた」



 アシエリスとフィリッパは、じーっと部員達の会話に耳を済ませた。

 ロワノルドはその間もパクパクと昼食を食べ続けている。


「それが、どうかしたの?」

「そうよ。古い町だもの、伝承や言い伝えの一つや二つ、あるんじゃない?」


 別の女子部員に訝しがられた男子部員二人が、「いいや」と首を振り、声を潜めた。アシエリスは耳が良いので丸聞こえであったが。


「それがさ、そんじょそこらの伝承とは訳が違うみたいなんだよ」

「そうそう。なんでも、昔この辺りを治めていた領主がね? この地に来て館を作ろうとした時、地下から黒い石でできた門みたいな形の何かを見つけたらしいんだ」


 もう一人の男子部員が、話を引き継ぐ。


「それで、その領主は門のことを調べていたらしいんだけど。何年もしたある日、その門から人が出てきたんだ」

「え?! どうゆう事? だって、地下にあったってことは、埋もれてたんでしょ?」

「しっ!」


 男子部員が、大声を上げた女子部員を窘める。

 アシエリスとサリフィルは耳をそばだてながらも、ものすごい速さで昼食を食べていた。

 いつの間にか、食べ終わったのか、ロワノルドは席を外していたのだが、二人は気が付かなかった。


「何にもない空間から、いきなり綺麗な宝石と毛皮を纏った壮麗の男が、雪と共に出てきたらしい」

「えー。そこは、美女じゃないのー?」

「俺に文句言ったってしょうがないだろ。とにかく聞けって」


 別の女子部員が不満げな声を上げるが、続きを話したい男子部員に黙るように言われ口を噤む。


「えっと、どこまで話したっけ?」

「格好良い男が出てきた」

「そう、そうなんだ。それで、領主の姪が男を介抱して、それで…」

「そこは娘じゃない訳?」

「おい! 少しは黙ってろよ、話が進まないだろ!」

「何よ! 気になっただけじゃない!」

「それで、どうなったの? ねぇ!」

「だから、静かにしてろってば!」


 言い合いになってしまった四人は、丁度傍を通り掛かったミス・ミドリから叱られ、文句を言いながら活動場所へと戻って行ってしまった。


 正直、最後まで話して欲しかったと思うアシエリスである。しかし、何とも興味をそそられる話であった。


「黒曜の門かぁ。不思議な伝承だね!」


 食器を戻し、ミス・ミドリに挨拶してから宿を出る中、アシエリスは幼馴染二人にそうきりだした。

 フィリッパも、深く頷いて同意している。


「まったくだわ! あの話を最後まで聞いてみたかったのに……残念」

「でもさ。その噂の黒曜の門って、あの神殿にあるんだろ?」

「「え?!」」

「え?」


 二人で悶々としていると、隣で何でもない事の様にロワノルドが話し、思わず驚いてしまった。


「何で、ロワンがそんな事知っているの??」

「いや、あの、さっきミリーとペーターに会った時、丁度聞いたんだけど…。…フィン? あの、近い……」


 フィリッパがロワノルドに詰め寄り、たじろいだロワノルドがその分後ろへと下がった。

 そんなふたりを横目で見ながら、アシエリスは首を傾げている。


 ───さっき? 一体全体、いつの間に?


 ずっと一緒に行動していたというのに、いつペーター達と話す機会があったというのだろうか。鐘三つ分ほど考えて、アシエリスは思い出した。


 ─── あ! そういえば、昼食の時私とフィンがあの子達の会話を聞くのに集中してたから、ロワンが席を立っていたとしても気が付かなかったかも。その時かな? 


「昼食の時だよ! 先に食べ終わったから、御手洗に行こうと思って歩いてたら、その途中で偶然会ったんだってば」

「あら、そうだったの?」


 ───お、やっぱりそうだったみたい。ふふん。流石私、ホームズも吃驚(びっくり)の推理力だね!


 答えを聞く前に推理をするのは、最近のアシエリスの楽しみである。これは、毎週楽しみにしているシャーロック・ホームズのドラマの影響だった。



「それじゃ、戻ったら花屋のご夫妻に聞いてみましょう。何か教えて貰えるかもよ、神殿について」

「そうね。それが一番だわ」


 アシエリスが提案すると、フィリッパが一番に頷き、フィリッパに「ね?」と促されたロワノルドも恐る恐る頷きを返した。

 この時ロワノルドは、正直、この幼馴染二人が噂を聞くだけに留まれば良いが……と考えていた。


 けれども、得てしてそんな心配は当たるものである。



 三人が花屋のボランティアに戻って直ぐに、老夫婦から注文先に花の配達をしてくるようにと頼まれたのだ。何と、その注文先は件の神殿だった。


「ダーケンマルク神殿について? そうねぇ…毎日決まった時間に、お供えのお花を配達してくれって言われているのよ。え? 黒曜の門の伝承? ああ、その通りよ。あの神殿にあるらしいわ」


 そう言って、夫人はにっこりと微笑んだ。けれど、「ごめんなさいね」と夫人が続ける。


「私も詳しくは知らないのよ。あそこは私有地だから、村の人は入れないの。私達も入口で花を受け渡すだけだから、中に入ったことはなくって……。でも、外装もとっても素敵なのよ?」


「花の配達に来たといえば、神官の方がいらっしゃるから、その方達に渡してきてね。代金はもう支払っていただいているから、心配しなくていいわ」と言われ、アシエリス達は花でいっぱいになった荷車を押しながら、神殿へと続く道を歩いていく。


「私有地って、どういう事なのかしら?」


 フィリッパが荷車の後ろから声を張り上げた。崖に向かっていくにつれて緩やかに坂を登っているため、若干息が切れてしまっている。


「さぁ? でも、もしかしたら忍び込めたりするかな?」


 フィリッパの横で同じく荷車を押すアシエリスが、同じように声を張り上げて返す。

 アシエリスとしては、噂の門を見てみたい気持ちが多い。何せ、空間から人が出てくる門だ。ファンタジー小説や漫画に目がないアシエリスからすれば、興味津々なのである。そもそも、私有地に態々建てるのが神殿という時点で、怪しさ満天である。


「は?! 忍び込むって?! やめろよ、捕まったら怒られちゃうぞ!」


 荷車を先頭で一生懸命引きながら、ロワノルドが素っ頓狂な声を上げた。アシエリスの提案に「それ、良いわね!」とはしゃぐフィリッパの声で、益々焦りを募らせる。


 アシエリスもフィリッパも、別にバレなきゃ平気精神で万引き等の犯罪をする事は無いのだけれど、ちょっぴり怒られるくらいだったら興味を優先する気来がある。そして、大体それは怒られないことが多い。

 例を挙げればキリがない。



 学校の先生がお菓子を持ち込んでいるのを発見しては、うっかり見てしまった風を装って「内緒ね」とそのお菓子を貰ったりだとか。


 近所の気難しいお爺さんの家の庭からはみ出した林檎をわざわざ収穫して本人に届け、他の悪餓鬼は箒で追い返される中、ちゃっかり気に入られて何時でも食べに来るように言われたりだとか。


 美術館の関係者以外立ち入り禁止の所に堂々と入って行って、案の定見つかって怒られる直前、警備員の落とし物を拾ったからと渡し、ご褒美に展示前の美術品を先取りで見せてもらっただとか。



 これだけ見ると、そんなに問題がないように思う。

 ただロワノルドからすれば、自分や他の子供が同じようにやっても、成功するとは限らないぞと思うのだ。


 二人は、ギリギリ子供だからと許される範疇を読むのに長けており、また、それは本当に偶然に起こった事が原因なので、問題になった事も、問題を起こしたことも無い。愛嬌があって日頃の行いは優秀であることもプラスして、大人達には寧ろ可愛がられている。


 大人とは、優秀でもちょっと子供っぽさの残る子供を可愛く思うものである。



 既に、どうやったら見せてもらえるかという事に議題が移っている二人を後ろ手に見つつ、ロワノルドは小さく溜息をこぼした。

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