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龍の歌人  作者: 十六夜
プロローグ
1/13

 ──夢を見ることにしたんだ。


 星々が煌めく夜の宮で、その宮に相応しい主が、側にふわりと佇む黒龍に告げた。

 漆黒の鱗がキラキラと、星の輝きを写す。

 かの龍は、主人の手に優しく鼻先を押し付けた。


 ──ごめんね……でももう、無理みたいなんだ。


 龍は主人を引き止めるかのように鳴く。

 けれど、誰よりも主人の心を分かっている龍は、主人の見つめる先を見て、溜息をついた。


 視線の先にあるのは、黒曜石の棺。

 その中に、主人の最愛が横たわっている。

 人形のように整った、美麗な少女。

 まるで、今にも起き出しそうなのに、それが叶わないことは主人も龍も分かっていた。


 だから───。


 龍は静かに、頭を垂れる。

 その様子に、主人は儚げな笑みを浮かべ、寝所へと歩いた。

 やがて、柔らかな寝台へ身体を降ろし、艶々しい漆黒の髪を枕にする主人に、龍はもう一度だけ、鼻先を向ける。


 ──大丈夫。私は眠りにつくけれど、世界はそのまま巡るだろうから。


 龍の額を撫でながら、ふと、主人は泣きそうな顔になった。


 ──ごめんね……役目を終えず、眠りにつく私を……許しておくれ……。


 龍は瞠目する。そして開かれた瞳には、揺るぎがなかった。

 それを見て安心したのか、宮の主は目を閉じ、それきり動かなくなった。



 龍は暫くじっとその様子を見続けていたが、やがて諦めたように踵を返した。


 これからはもう、この宮に主はいない。

 これからはもう、宮に響き渡る歌を聴くこともない。

 黒龍に笑いかけてくれた主は、眠りについた。


 黒龍はこの広い宮でひとりぼっち。

 黒龍は泣いた。

 そしてひっそりと、主と歌った歌を奏でる。



 龍の歌が寂しげに、星々の煌めく夜空に吸い込まれて消えた。

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