夢
──夢を見ることにしたんだ。
星々が煌めく夜の宮で、その宮に相応しい主が、側にふわりと佇む黒龍に告げた。
漆黒の鱗がキラキラと、星の輝きを写す。
かの龍は、主人の手に優しく鼻先を押し付けた。
──ごめんね……でももう、無理みたいなんだ。
龍は主人を引き止めるかのように鳴く。
けれど、誰よりも主人の心を分かっている龍は、主人の見つめる先を見て、溜息をついた。
視線の先にあるのは、黒曜石の棺。
その中に、主人の最愛が横たわっている。
人形のように整った、美麗な少女。
まるで、今にも起き出しそうなのに、それが叶わないことは主人も龍も分かっていた。
だから───。
龍は静かに、頭を垂れる。
その様子に、主人は儚げな笑みを浮かべ、寝所へと歩いた。
やがて、柔らかな寝台へ身体を降ろし、艶々しい漆黒の髪を枕にする主人に、龍はもう一度だけ、鼻先を向ける。
──大丈夫。私は眠りにつくけれど、世界はそのまま巡るだろうから。
龍の額を撫でながら、ふと、主人は泣きそうな顔になった。
──ごめんね……役目を終えず、眠りにつく私を……許しておくれ……。
龍は瞠目する。そして開かれた瞳には、揺るぎがなかった。
それを見て安心したのか、宮の主は目を閉じ、それきり動かなくなった。
龍は暫くじっとその様子を見続けていたが、やがて諦めたように踵を返した。
これからはもう、この宮に主はいない。
これからはもう、宮に響き渡る歌を聴くこともない。
黒龍に笑いかけてくれた主は、眠りについた。
黒龍はこの広い宮でひとりぼっち。
黒龍は泣いた。
そしてひっそりと、主と歌った歌を奏でる。
龍の歌が寂しげに、星々の煌めく夜空に吸い込まれて消えた。