表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/88

第9話 クビアカツヤカミキリ⑤

僕は敗北感に打ちひしがれている。

結局、あの後、田中先輩が助けてくれなかったら、僕は何も経験できなかった。


~~~


「林田さん、この木はどうでしょう?

防護網をしたほうが良いものであれば、うちの会社から使えそうな網持って来たんで、提供させていただきます。」

「もし、そうしていただけるなら。本当は、すぐにでも全ての対策を行いたいくらいです。」

市の職員のほうを見て『良いですよね』っと確認すると頷いた。

「ほら。鈴木、いい機会だから一緒にやらしてもらいなさい。」

「はいっ!」

田中先輩、ありがとうございます。

これで会社に堂々と帰れます。


~~~


「田中さん、さっきはありがとうございました。あのままだったら何も経験できないまま帰るところでした。」

「たぶん順番は回って来ないと思っていたよ。研究センターは、実際に管理する人をあてるんだ。現場でできないと困るだろう? 守る会を優先すると思っていたよ。それと、被害が大きければ、その担当だな。だから次が市だったんだよ。うちなんて順番的には最後さ。」

そうだったの?

まじ、すんごく焦ってたのに。

「網を持って来てよかった。それでも鈴木の『やりたいんだ』って雰囲気押しがなければ、網だけ提供してお仕舞いだったかもな。」

日枝さんも頷いている。

僕はあれでよかったのか・・・?


「まぁ。防護網は、その後のパトロールとセットですからね。

それに、守る会には本当に頑張っていただかないと。つけただけでは意味をなさない。

あの網をかけた2本から何匹採れるかによって、今後の動きが変わってくるかもしれませんのでね。」

2人の予想では、1本の木から何十匹もクビアカツヤカミキリがでてくるようだと、伐採する木が増えるという。観光産業の影響を考え、伐採しなくてよいなら伐採したくないのが本音だが、目先の利益で全滅するのは避けたい、そのラインをどこにするかということだろう。



「私たちの会社に発注が来るのは、防護網の設置というより、きっと伐採の方でしょうね。

社長は嫌がるでしょうねえ。」

「やはり、すべて手作業で行うんですか?」

「そうなりますね。常に人が行き来している場所というのもありますが、今回は拡散防止対策を講じながらですから。上から順番に切って、その場で殺虫剤をかけて密閉し、そのまま焼却場へ、それをひたすら繰り返すことになります。穴が開いてスカスカになっている枝もあるので、見極めながらです。人手が必要ですから、家族経営の造園会社では厳しいでしょう。

きっと、市に泣きつかれますよ。」

息を合わせたように2人でため息をつく。

「う~ん。せめて伐採1本ごとの単価契約にしたいですね。

例えばですよ。伐採木を選ぶところから一括委託されると、取り残しがあったときに、私たちの会社が悪者になります。後から被害木だと判定されたとしても、市は上手に逃げてしまうでしょう。」

「・・・・・」

再びため息をつく。2人とも渋い顔だ。

「ここから先は、社長の政治的手腕に期待しましょう。」

日枝さんが、気持ちを切り替えて頑張りましょうっと言い、

「今回は頑張ったから、ご褒美に何かほしい道具を買ってあげよう。」と帰りにホームセンターのジョイナストヨタによってくれた。

いざ選ぼうとすると、それよりもこちらの方が多機能だとか、自分でメンテナンスできる方が良いよとか言って、結局、日枝さんのお気に入りの商品になった。

かつ、日枝さんは領収書をもらっていた。

プレゼントじゃないんですね。

僕の個人持ちの会社の備品を買っただけって、これ、ご褒美なんですか?


1週間後、防護網を付けた2本の桜の木から20匹以上のクビアカツヤカミキリがとれ、守る会があわてて防護網を追加で8本に設置したところ、次の1週間で200匹を超えた。

それは地元のテレビ番組でも紹介されるほどの大きな話題となった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ