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第83回 春のカラス③

今日の仕事は、環境影響評価の鳥獣生息調査だ。大規模開発、例えば工業団地を造成するときに、開発前と開発後で、大きく環境が変化していないか、環境保全がされているか、数年にわたって調査する。

その調査項目の1つが鳥獣の生息調査なんだ。

一定の期間、ネズミやモグラを捕獲し、その種類と頭数を記録する。記録するだけだから、捕獲したネズミ達は放獣する。

調査目的の捕獲は文句を言う人も少ない。

それに、小さな箱ワナだから設置していることさえ誰も気が付かないし、今まで事故もない。

自分の中では、ほっとするというか、まぁ、環境保全の手伝いになるし、後味が悪くない仕事だ。


今回も、調査のためワナを一定期間設置するので、自治会長に説明して、『お知らせ』を回覧板で回してもらっている。事故なんて起こらないと思うけど、近隣の方に説明することも契約内容の1つだ。


自治会長の家に行くと、やはり、カラスが話題になった。混乱した様子を伝えると、「いろいろ大変だろう、最近のカラスは何か違うよな。」と労ってくれた。

「やはり、この辺りのカラスは攻撃的なんですか?」っと聞いたら、少し困ったように「そういう意味じゃないんだよ。」と言い、ぐいっとお茶を飲みほす。

「なんかよ、ちがうんだ。」

田中先輩が前のめりに話を聴き始めた。


「ほら、なんかさ、団地のやつらみたいだろ。変な意味じゃないぞ。親元離れてサラリーマンやって、一生懸命、子どもを育てながら生活している。頑張ってんなって思っているんだ。カラスもな、同じだ。昔より頑張ってる気がすんだよ。」

「カラスがですか?」

「ああ。そうだ。人が作ったマンションや電柱にしがみついて、巣、作って、一生懸命、都会で生活している感じだ。」

僕にはよくわからないが、一緒に聞いている田中先輩は頷いている。

「昔は、”夕焼け小焼け”の唱歌に歌われるくらいでしたからね。」

「そうそう、長閑のどかっていうのとも違うかな。カラスは穏やかな生活の風景の一つのようだった。今はな、なんだか虚勢を張るわけではないが、そう、余裕がない、張り詰めて余裕がないって感じってのが近いな。」

余裕のないカラス・・・?

余裕のない人?


その後は、当たり障りのない話をし、ワナを設定する看板を立て、会社に戻る。

帰宅途中の四車線道路では、電柱の横に高所作業車が停まっていた。ビュンビュンと車が行きかう中、作業員が電柱で黙々と作業をしていた。


翌日もカラスの様子を見に行った。

市役所の職員と警察官が歩行者の交通整理をするなか、カラスの威嚇は続いていた。

今日もパラパラと遠巻きに見物人がいる。

その中には小学生の親らしき人達もいて、市役所の職員を責め立てている。少し可哀相な気持ちになる。

僕らも様子を見に来た見物人の一人ではあるが、一応、相談もされたし、誘導係の市役所職員や警察官に挨拶をする。

「おはようございます。どうですか? 昨日よりは落ち着いてきましたか?」

皆、渋い顔で深いため息がこぼれる。

その表情だけで状況が理解できた。

いつまで続くのか、このまま毎日、朝早くから駆り出されては疲れてしまう。


昨日、カラスに立ち向かった少年が、下級生を守りながら電柱の下を通り抜けていく。走り抜けた後、振り向き、カラスを睨みつける。正義感の強い子だ。


「あっ。」

少年が何かに気が付いた。

ん?

何だろう。

少年の視線の先を見ると、遠くから何かが走ってくる。

ダダダダッと、砂ぼこりが立っている。すんごい勢いだ。

あれは!

もしかして?!

そう、あのフォルムは!


「「「シロ!」」」

小学生と声が重なる。


「わぉおん!!」


緊迫した雰囲気をものともせず、尻尾を振りながら、タタタタタタタッと飛び込んでくる。

この勢いで抱きつかれると倒れてしまう。僕は重心を低くし、シロの衝撃に身構える。


くる!


シュッと風が通った。


「え?」

・・・通り過ぎた?

僕は通り過ぎたシロを目で追う。


シロも止まったが、止まった場所に僕がいないので不思議そうだ。

何故、通り過ぎるんだ。

シロは左右をキョロキョロしてから、後ろに振り向き、僕を確認すると嬉しそうに戻ってきた。

目標物を見失うなんて、お前、絶対に野生じゃ生きていけないな。その野性味溢れた三白眼は伊達なのか?


「「「シロ!」」」

「あのカラス、悪いコなの。」

「そうだよ。シロ。いつもの遠吠えで追い払って。」

「シロ!」

子ども達がシロを取り囲む。子どもなら顔を見ただけで泣き出しそうな強面なのに、意外に頼りにされている。

シロは何を言われているかわからないのか、尻尾をフリフリ楽しそうに話を聞いている。

「カラス!カラスだよ。」

上を指差す。

シロは後ろを向き、また、前を向き、小学生(女の子)に抱きつこうとする。

「シロ!」

僕はリードを掴み、抱きつけないように引く。

お前、何を興奮しているんだ。

顔を赤くして。

カラスなんて眼中になく、浮かれている。

もう。お前は常時、繁殖期か!。


カラスだ。カラス。上、上だ。

何、人影に隠れるんだ。

大丈夫だ。お前の顔は般若顔、誰が見ても誇れる恐さだ。

「カア」

カラスがひと鳴きする。


こらっ。シロ!

僕を盾にするな。

首を振って、イヤイヤ、イヤイヤじゃない。

こらっ。こういうときに足にしがみつくな。

あの少年の正義感のかけらもないのか。

おまけにジェントルマンでもないし、これだけ女好きなのに、なぜ小学生に人気なんだ。


僕は、シロを見て、ふと図書館の生態系ピラミッドを思い出す。

やはりヒエラルキーのトップはカラスなのか?

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