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第81話 春のカラス①

プルルルル。プルルルル。

朝一番、留守電を解除したとたん電話が鳴った。朝っぱらなら嫌な予感。

仕方なく電話をとる。


「はい。白浜造園です。はい。ええ。鳥獣捕獲もやってます。」


「カラスですか?」

春先は野鳥の相談が増える。カラスはその常連だ。

夜中に何かあったのかな?

それとも、繁殖(こい)や子育ての季節だから、雨樋に巣を作られたとか、う~ん。なんだろう。

とりあえず、どういう状況で、何に困っているかを聞こう。


「えっ?! カラスが人を襲ってるんですか?」

出勤している全員が僕の声に振り向く。

田中先輩が電話をかわるというので、素直に受話器を渡した。


何があったんだ?

受話器からこぼれてくる声に耳をこらす。

カラスも春が子育て時期だし、気が立っている。それでも、カラスは理由なく人を襲うような鳥ではない。無謀なことはしない。なにか理由があったと思う。


田中先輩は、ひととおり状況を確認して受話器を置いた。

「子どもが頭を足で蹴られたみたいだ。場所が小学校の通学路で、父兄が大騒ぎして市に電話がじゃんじゃん凄いんだってよ。」


「じゃんじゃん? 群れですか?」

たくさん襲われているのかな?

カラスは、頭をガッと脚で蹴って飛び去る攻撃をする。アニメやコメディ番組で見るような、頭の上をぐるぐる飛びながら、頭を何回も(くちばし)で突っつくような攻撃はしない。カラスは、ホバリングができないんだ。頭が良くて、注意深く人を観察し、必ず死角である相手の後方から飛んで来る。

これはこれで恐い。


カラスが人を襲うときは必ず理由がある。

例えば、子育て中に、気が付かないうちに巣に近づきすぎてしまったなどで、理由がわかれば、それに応じて対策はできる。

 

「場所はどこですか。」


「魔王のコッペパンってパン屋を知っているか? その近くだよ。」


「雑誌にも取り上げられた店ですよね。住宅街じゃないですか。大通り沿いの店ですよね。」


「そうだ。今どきの小綺麗な店で、通りにもゴミなんか散乱してないだろ? なんでカラスが襲ってくるのか、訳がわかんないんだってよ。あの辺りでカラスの相談があったか聞かれたんだが、何かあったか? 」


僕はう~んと考える仕草をしながら、

「いやぁ。僕は受けてないです。」


「なんかな、子どもがカラスから逃げるときパニックになって転倒して怪我したり、道路に出ちまった子がいるみたいだぞ。あの道路は交通量もあるし、幅員も広い。カラスが恐いって言っても小学生じゃ向こう岸に渡るのは無理だろ? 子ども達が騒いで、それを見聞きした父兄達がどうにかしろって学校に言ってきてるんだってよ。今は新入学生もいるから親も敏感になっている。」


「ああ、確かに。四車線道路ですからね。小さな子が道を渡る方が危ないかもしれない。危ないし。」


「入学したばかりで親も心配で仕方がないんだろう。 学校は朝から対応で追われちまって、それで市役所に相談がきたんだって。」


「市役所からですか? 今、どんな状況何だろう?」


「話を聞く限りじゃ、たいへんそうだったぞ。不登校になったらどうすんだ、なんて、なが~い電話を受けているんだってよ。まあ、心配なのはわかるが、『原因なんて何でもいいだろ。殺処分でもなんでも、カラスを早くなんとかしろ』って一部の父兄は興奮して、話も聞かない。大声で(まくし)し立てる善意の市民だ。暴力団よりコエーって。」

殺処分でも何でも・・は、良くないだろ。

大声で(まくし)し立てる善意の市民か・・・、役所も辛い。

それにしても、カラスが怒った原因が小学生の悪戯(いたずら)でないといいけどな。


「今日の仕事先とも近いから寄っていくか。きっと、訪問先の家でも話題になっているだろ。現場だけでも見ておこう。」

「そうですね。でも、そうかぁ。新入学生かぁ。春だなぁ。ピカピカのぉ~♪、一年生♪、ですね。」

今日の仕事先とも近いので、僕らは車で回り込み、現場を見てみることにした。


現場に到着すると、車のクラクションが聞こえないほど、カアカア、カアカアとカラスの大きな声が鳴り響いている。その合間に、カラスが、(くちばし)で、コッ、コッ、コッと音を立てているのが聞こえる。

確認できるのは1羽だ。カラスがいる電柱の脇で、ヘルメットを被った市役所の職員と警察官が歩道の交通整理をしていた。子供たちは、その誘導に従って、歩道を小走りに走り抜けていく。


その様子を見て、田中先輩が呟いた。

「不味いな。」


え?

慌てて、周りを見渡す。何が不味いんた。


「鈴木、悪いがその先に車を停めてくれ。一時的に退くように言ってくる。」

田中先輩は車を降りると、警察官に挨拶し、現場から少し離れるように伝えている。僕はコインパーキングを見つけて車を停めると、すぐに合流した。


田中先輩はすでに市役所の職員に説明し、退避し始めている。

「下がった方が良い。この鳴き方は威嚇です。それも、嘴を電柱に擦り付けるように揺らしている。カラスは臨戦体勢です。かなり危ない。」

そう、言っている矢先に、バァッサァと頭の横を黒い翼がすり抜けた。


「「「危ない!!」」」


一斉に屈んで移動する。

カラスはバサバサツと音を立てて近くの電柱にとまり、こちらをジィっと見つめている。

なんだ。なんだ?

すでにカラスは襲う気満々じゃないか!


ふと、横を見ると、「ふぇ、ふぇん。」と、まさに泣き出しそうに、小さな女の子がうずくまっている。転んだのか? 擦りむいてないといいけど。

新入学生かな? 顔だちも幼い。

「大丈夫? 転んだの?」

高学年の男の子が声をかけた。

女の子は頭を横に振った。

「怖かったの?」

少女は頷くと、少年の服をつかんだ。


少年はカラスをキッーと睨むと

「大丈夫だよ。僕がカラスにこんなことしちゃダメだって怒ってあげる。」

近くに落ちていた小石を掴み、投げようと構える。


「駄目だ! 駄目だ。」

田中先輩がカラスと少年の間に割り込む。


ヒュッ。

小石が飛んできた。


ヒッ!

おいおい、僕に当たるだろ。

危ないだろ。


「余計にカラスの気が立つから、そんなことしちゃ駄目だ。駄目だ、な。」

勢いで二人を抱きとめる。

少年は納得しておらず、カラスを睨み付けている。


もう、現場はバタバタと騒然だ。

シャーァッと強い風が吹き抜け、黒い影がこちらに向かってくる。

うわっ。


危ない!!


僕はとっさに少年を頭からかぶさるように抱きしめる。

カラスは、向き直るとじっと僕たちを睨みつけている。

このカラス、何でこんなに気が立っているんだ。


ドタタタ、ドタタタタタ。

小学生が小走りに走り抜けていく。

なんで? どうして、こんな状態になっているんだ!?

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