第80回 ツバメ⑥
ツバメ対策は、まったく同じっていうわけではないけど、提案した対策のほとんどを実施することになった。
事務局長の逆転勝利だ。
やったね。
植栽の剪定の仕事はもらえそうし、糞受けの設置はもちろん、いろいろ発注が来そうだ。
よっしゃぁ!
地元の有志からもツバメを保護してほしいと要望があって、住民の批判を受けるようなことはできなかったみたいだ。道の駅の建設には公費が入っているからね。
加えて、学識者も保護した方が良い言っていたし、企業としても環境にも配慮する姿勢が問われる。
まぁ、結局のところ、いろいろ議論があったけど、簡単にはツバメを排除できなくなったんだ。
だから、ツバメのクレームが来ても言い訳できるよう、道の駅としてもいろんな対策をして、努力しているんだという姿勢を示しすことになった。
そこで、やれることは全てやろうということになったらしい。
今日はさっそく糞受けを設置する。
テラスに行くと、この間来た時よりもさらにツバメの巣が増えていて、それを囲うようにパネルも増えていた。
「やっぱり視点が男の子だな。カッコいいな。」
田中先輩が、ツバメの紹介パネルを指差す。
「パネルですか。」
「ああ。」
いつの間に、中学生が作った手作りパネルが加わっていた。生物部って書かれてあるから、きっと、掬佑くん達が作成したものだろう。
「確かに。ツバメがホバリングできるなんて、このパネルではじめて知りました。」
ツバメは飛翔する昆虫などを空中で捕食する。また、水面上を飛行しながら水を飲む。そんな紹介がされているパネルには、誰もが目を止めるPOPデザインのツバメが描かれている。
テラスは、本当にコロニーのようにツバメで賑わっている。まるで、僕らが敵ではないとわかっているのか、気にも止めずに、頭上をすり抜けるように軽やかに飛んでいく。
「おい。鈴木。頭、頭。」
「え? 何ですか。」
「落ちてるぞ。」
「え? 何が?」
気になって髪を触ると、ぬめッとした肌触りに、指先を確認する。嫌な感触だ。臭いを嗅ぐと、やはり、ツバメの糞だった。
「あ”ぁ~。」
・・・。
「だから、いつも帽子かぶれって言っているだろ。ほら。」
田中先輩はバフッと僕に帽子をかぶせた。
げ。
糞、ついたままなんですけど。
「何しちゃってるんですか。まだ、髪を洗ってないんですから、止めてください。」
本当に。やめてくれ。帽子まで汚れちゃうじゃないか。慌てて帽子を取る。
「何言ってるんだ。会社に帰らなきゃ髪は洗えないだろ。客じゃないんだから、水飲み場で洗うなよ。クレームになるぞ。今日は、糞つけたまま仕事だ。ほら。」と、また、帽子をばふっと被せる。
・・・。
まじ?
ショックだ。
糞をつけたままって・・・。泣けてくる。
不運は続く。
せめて、今日こそ、バフンと旨い調味料を手に入れようと思ったなのに、なぜだ?
なんで、こんなに買えないんだ。
また、売り切れだった。
「はぁ。何故、こんなに買えないんだ。また売り切れですよ。人気過ぎるでしょ。」
店内に入れば、田舎の道の駅とは思えない繁盛ぶりだ。ツバメの数に比例するように直売所の売れ行きも鰻のぽりだと聞く。
「前からこんなに賑わっていましたっけ?」
もう少し、閑散としていたと思う。
「そう言われればそうだな。」
ツバメが巣をつくると、本当に商売繁盛するのかな?
迷信だと思うんだけどな。
ガーデン席には、若い女の子達がキャッキャッ言いながら、果実のフレッシュジュースとともにツバメパンを食べながら、ツバメの写真を見せあっている。
「白浜さん。白浜造園さん。」
「こんにちは。事務局長さん。結構、繁盛しているんですね。」
「そうなんですよ。やはり、ツバメ、サマサマです。」
やはり、ツバメの縁起は本物だったのか!?
「あったら買おうと思うのですが、今日も”バフンと旨い”は売り切れていました。凄い人気なんですね。」
事務局長さん、ここはコネで確保してくれないかな。
お願いだ。忖度してくれ。
「もともと、それほど数を作っていないのもあるんですが、名前は何て言ったかな、乗馬が好きな芸能人でモデルしていた人、なんだって言ったかな、その方がマッシュルームとともにSNSで紹介してくれたようで、店頭に並ぶとすぐ売れてしまうんです。」
「乗馬の好きなモデルさん? 誰だろう。それでですか。いつ来ても売り切れていて、地域限定品って、一般には馴染みがないと思うのに。」
「そうですね。本当に。数か月前が噓のようです。こんなに多くの人が来てくれて。」
事務局長さんは本当に嬉しそうだ。
「きっかけは何であれ、また来たいと思わせる場所でなければリピーターは来ませんよ。毎日こまめに掃除し、見回りをしたり、皆さんの努力の賜物です。」
僕もそう思う。嫌な気持ちになったら、きっと来ない。
事務局長さんはツバメの巣をまじまじと見つめると
「ツバメが来ると商売繁盛すると言いますが、昔は本当にそうだったんです。ツバメの巣はガイドブックの星のようなものです。パソコンのない時代は、ガイドブックも口コミサイトもありませんから、街道を歩いても一見して、おいしい店、良心的な店なんてわからない。誰もカモられたくないですからね。ツバメの巣は人気のバロメーター、それを目安に客は店に入ったんです。」
「ツバメの巣がある店に行けば、間違いがない。」
「そうです。今は迷信です。信じていたわけではありませんが、それでも、ツバメを守ってよかった。」
昔は、本当にツバメと人間は持ちつ持たれつの共生関係だったんですね。
なんだかツバメの迷信を信じてみたくなった。
来年もツバメは来るだろうか。
きっと、いや、間違えなく来るだろう。
道の駅では今日もせわしなくツバメが雛の世話をしている。風のように軽やかに、ツバメが次々と頭の上をピュウっと通り抜けていく。
ああ。なんだか、もう、大丈夫だな。
結局、直売所ではバフンと旨い調味料は買えなかったけれど、僕はちょっとホッとしたような、ほっこりしたよう気持ちになって会社に帰った。
そして、髪の毛にこびりついて、カピカピになった糞をゴシゴシ洗い落とすために、シャワーで濡れたまま四苦八苦し、とれたか確認するために裸でシャワー室と鏡の前を行ったり来たりして、さらに、帽子を洗濯したりしていたら、すっかり身体が冷えてきってしまった。
くしゃみが止まらず、何回もしていたら、「お前、何回、風邪をひいてるんだ。身体のどこか、おかしいんじゃないのか。」と田中先輩に、マジで心配された。
★★★申し訳ございません。配置換えがあって、その仕事が忙しくて、更新が不定期になりそうです。★★★




