表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/88

第79回 ツバメ⑤

「ツバメを守ろう?」


道の駅のテラスには、それをスローガンに、ツバメの写真のパネルがいくつも展示してあった。まさに巣の中で大きく口を開け、貪欲かな餌を欲しがる雛の写真が貼られている。


もしかして、写真、全部、事務局長が撮ったのか!

・・・・・。


それにしても、雛は、やっぱりかわいいな。

そんなにぎゅうぎゅう押し合わなくても良いだろうに。だから落ちちゃうんだよ。


パネルは、巣の真下、糞が落ちる位置から少し前にズラしてあり、落ちた糞はちょうど裏側に隠れて、覗き込まなければわからないようになっていた。そして、パネルがあるから、そこは人が通れなくなっている。

考えたな。


今日は、具体的な対策をどのように行うか、事務局長に聞きに来たんだ。予算もあるから、きっと全部はできないだろう。だけど、さっそく自分たちでできることはしたんだな。



事務局に行く前に、僕と田中先輩は、ゆっくり順番にパネルを見ていく。


「鈴木。そこ、まだ、糞受けがないんだから気をつけろ。」

「あ。はい。」

慌てて、ガーデン席側に移動する。

おおぉ。糞が頭に落ちてしまうところだった。


あ。あちらに見た顔が・・・。

向こうにいるのは、掬佑くんだ。

彼もこちらに気が付いたようだ。嬉しそうに近づいてくる。

「田中さん! こんにちは。」


「どうしたんだい? ここは家から結構距離があるだろう?」


「ツバメを見に来たんです。コロニーを形成していると聞いたから。今度、部活動で、あ、僕は生物部なんだけど、生物多様性マップをつくることにしたんです。」


「生物多様性マップ?」


「うん。文化祭で展示にすることにしたんです。10年くらい前に、先輩方が市内で確認した生物を地図に書き出したものがあるから、比較もできるし、顧問の先生に相談して、生物多様性ポテンシャルマップをつくるのもいいね、なんて話をしているんです。」


「ポテンシャルマップ・・・?」

何?それ。


「うん。本当は大切だって、大事にしなきゃいけなかったんだって分るでしょう? この辺りに、昔はムジナモとかもいたけど絶滅しちゃったでしょ。もし、マップを作っていたら、皆、この場所は実は大切だったんだ、失くしちゃいけなかったんだって気づいたと思うんです。きっと、ツバメも、ここに集まるのはきっと理由があると思うんです。地図にしたら、その理由って見えてくるかもしれないでしょ。そうしたら、なくしちゃいけないって、みんな思うでしょう?」

掬佑くんは、凄い。

相変わらず真面目で、この年齢で真剣に環境問題を考えている。

本当にいい子だよ。

僕なんか、話を聞いてもまだ『生物多様性ポテンシャルマップ』の意味かわからないよ。

そもそも、この年齢のときは女の子のことしか考えていなかったよ。

あと、誰の家に集まって遊ぶかとか。


「俺が中学の時なんか遊ぶことしか考えていなかったよ。君はすげーな。」

「そんなことないです。」

少し照れたように下を向く。

「できれば、今日だけでなく、また見に来たほうが良いぞ。ツバメはまだまだ増える。」

「そうなんですか? じゃぁ。写真を撮っておこう。巣の数も数えなくっちゃ。」

そう言うとにこやかにお辞儀をして戻って行った。


掬佑くんだけじゃなく、行き交う人か足を止めてはパネルと実物のツバメと見比べている。

みんな、「かわいいね。」なんて言っているから、肯定的にツバメを見ているのだろう。

なんだかホッとする。


ちょうどそこに事務局長がやってきた。

パネルを指して「さっそく、できることはやったんです。」と嬉しそうに話してくれた。


事務局長は、パネルの間を左右に動きながら、一生懸命に写真を撮っている掬佑くんを見ながら

「あんな少年まで来てくれるようになりました。もしかしたら、道の駅もコミニュティステーションのような役割を果たせるのではないかと、欲張りになってしまいます。先日まではツバメの雛のことで悩んでいたのが小さいことに思えてきます。ははは。」


「中学校の生物部の研究だと言っていましたよ。あの、図書館の出入口の展示を作成した中学です。」

「図書館?」

「ええ。ほら、散策路のある庭が隣接している複合施設の図書館があるでしょう。とても上手く展示が作られてますよ。なぁ。」

田中先輩は僕に同意を求めるように聞く。

「はい。もう、カラスが生態系ピラミッドの頂点にいるあたり本当にリアルです。よく観察している。この辺りでは、鷹よりカラスの集団のほうが強いんです。」

「そうなんですか。見に行ってみようかな。」

「ぜひ。これまで図書館に来なかった方も散策を目当てに来るようになったって、職員の皆さんも喜んでましたよ。」

「へぇぇ。興味深いです。うちもお願いしてみようかな。」



その日は、道の駅のレストランでランチをした。

新メニューとして、春のツバメ定食が加わっていた。バフンと旨い調味料で味付けされたブラウンマッシュルームや竹の子の天ぷら、山菜が盛りだくさんの地産地消のメニューだ。

掲示板に貼り出されたメニューの隣には、ポラロイドカメラで撮ったツバメの写真が『おしゃべりメモ』付きで掲示してある。


そうだ。バフンと旨い調味料を買おうと思っていたんだ。

帰りに直売所によろう。


予想はしていたが、ブラウンマッシュルームもバフンと旨い調味料も売り切れていた。

カックリ。

いつの間に、本当にいつの間に、そんなに人気になったんだ。

『売り切れ』の文字の下には、レストランの新メニューも紹介されている。その隣には、赤いリボンのついたツバメの型抜きクッキーや、黒と白の生地で焼かれたツバメ食パンが陳列されている。

お客が商品を手に取りながら「これ、美味しかったよね。」なんて言いながら、ツバメの話で盛り上がっている。


店の外では、今日もツバメが忙しく飛び交い、ピーチクピーチク子育てしている。

その脇を、柔らかい風がツバメと同じスピードで通り抜けていく。

なんだかとても気持ちの良い。

暖かな春の風だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ