第78回 ツバメ④
田中先輩の提案は、大きく分けて二つだ。
1 糞などの被害を受けないように、直接的な対策を講じる。
2 お客が自主的に被害をうけないように気をつけ、ツバメをかわいいな、保護したいなという気持ちになるよう誘引する仕組みをつくる。
「1はわかるけど、2が良くわからない。」
田中先輩はニカッと笑い
「つまり、ツバメは友だちさっ、作戦だ。」と、ピースする。
もっとわかんないよ。
聞き耳を立てていた木山さんが「今、流行りのナレッジ理論ですね。」と納得しているけど、何の流行りなのかがわからない。
ナレッジリロンっていう響きがアニメキャラクターっぽい? なんか新種のモンスターの名前みたいだ。
それとも、チョコレート菓子かな。美味しそう。
木山さんは僕のギャグだと思ったのか「理論です。理論。考え方です。」って笑うけど、理論って流行るもんなのか?
チョコレート菓子ならわかるけど。
対策の方向性が決まると、具体案はポンポンでてくる。
まず、テーブルや椅子を動かし、テラスの場所を変える。少し外に出しガーデン席にするんだ。糞が落ちる場所から、食べる場所を離すだけで全然違う。
ただ、あまり人気をなくすと、カラスなどに巣が狙われるから難しい。ちょっとだけ外す感じだ。
その上で、掃除もこまめにやってもらおう。清潔は大切だ。
「それに、糞受けは設置しなきゃならないな。」
「糞避けでなく、糞受けですか?」
「そうだ。糞を受け止めるんだ。」
受けとめる?
両手を広げて?
いやいやいやいや。それ、汚くないか?
チョコレート菓子だと思えば・・。
いやいやいやいや。
「ツバメに糞をするなって言っても無理だろ? だから、巣の下に糞受けを置くんだ。地べたに汚ならしく落ちないようにな。そこで、どういう糞受けにするかたな。」
「どういうものなんですか。種類があるんですか。」
「なんでもいいんだよ。だから、種類というか、何か楽しめる工夫をしてみてはどうかと思ったんだ。忘れ物のビニール傘を使って、色とりどりにするとか。野球のツバメ軍団のようだろ? 」
ああ。東京音頭ね。踊り踊ちゃう?
「傘を少し斜めにして糞が集まるように作れれば、掃除も楽だ。」
「なるほど、傘だから水で流せば綺麗になりますね。」
「ただなぁ。雛が落ちたら糞まみれになる上、戻す巣がわからなくなるだろう? やっぱり、普通に板を貼るかぁ。」
糞受けは、巣の下に一時的に糞を溜めておくもので、段ボールやラミネート加工をした紙を吊るしただけのものでも良い。それを定期的に掃除して糞をとる。
ただ、巣の下に置くので、ときどき雛も落ちているらしい。
「保護したくなるような誘引って何するんっすか。全然、イメージがわきません。」
「そうだな。例えば、人の流れを変えるために、歩いてほしい場所に足跡を描くとか。道を描くのでも良いな。何がいいかなぁ。どうしたらいいと思う?」
僕に聞くの?
田中先輩が何か案を持っていると思っていた。
「・・・。わかんないっす。」
「おまえ、本当に考えているか? 休憩してただろ。」
「心外な! 考えてます。それに、今、決めなくたっていいんじゃないんですか。」
「今、決めなくて、いつ決めんだよ。」
「そのとおりなんですけどぉ、う~ん。道の駅にも考えてもらってもいいような気がします。」
田中先輩は腕を組むと
「まあ。それも、そうだな。だけど、相手に例示する案は必要だろ。」
というわけで、できるだけ案を考えようということになった。
・テラス席からガーデン席にする。
・お客様の通る道を変える。
・糞受けをつくる。
・掃除をこまめにする。
・定期的な見回りを欠かさない。
そうすれば雛の落下も早く見つけられるからね。
・樹木は適度に剪定する。鬱蒼とした高い木はカラスや猛禽類の止り木になってしまう。
・ツバメの生態を理解できるような解説を展示する。
・巣立つまでの雛の様子を写真パネルにして展示する。
・ツバメの写真をSNSにあげる。
『今日のツバメ』なんてタイトルつけてもいいな。
道の駅の宣伝にもなる。皆から募集しても良いね。
かわいい写真が集まりそうだ。
・レストランのメニューに春のツバメ定食をつくる。
竹の子は煮物ではなくて、天ぷらがいいな。
・直売所に商品を持って来ている人達にコラボを頼む。
出入りするのはお客様だけじゃない。
むしろ、こういう人達の理解を得ないとダメだ。
いっそ、キャラクターも作っちゃう?
ゆるギャラだ。ゆるキャラ!
なんか、考えるのが楽しくなってきた。
そうだ。誘導するため、床に描く矢印には、ツバメの尾のような黒い模様をつけようかな。
へへへ。
なんか楽しい。
直売所やレストランの案は、継続するためには良いと、珍しく田中先輩にも褒められた。
道の駅には、いろいろな案を纏めずに提案し、事務局長の意見を聞いてみることにした。
ともに歩む、『共生』のバランスを上手くとるためには、人側にも歩み寄る努力が必要だ。ただ、それが負担ばかりになってしまうと嫌になるし、協力は得られない。メリットを生み出せるような仕組みできないと継続もしない。だから、難しい。
僕らが、あれやこれやとアイデアをだし、糞受けの見本を作ったり、ぎゃぁぎゃぁと騒いでいる間、道の駅では、新たな動きがあった。
どこかから、ツバメを駆除する噂を聞きつけ、老人会のメンバーがツバメ保護に立ち上がったんだ。
朝の見回りはすでに日課となり、チラシを配り、署名活動を始めた。孫に聞きながらツバメの写真をSNSにあげ、道の駅や市にも要望をだした。
それは孫世代を巻き込み、瞬く間に拡散していった。




