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第75話 ツバメ①

「ツバメのコロニー? コロニーって集合して巣作りしているってことっすよね。ツバメってコロニー形成するんっすね。」


田中先輩は背もたれに寄り掛かり腕を組むと、椅子を回転させて僕の方に向き直った。

「いいや。俺はあまり聞かねぇなぁ。巣立ち後、渡る前に集まってねぐらを形成するって聞くけど、それは、どちらかといえば、ひとり立ちして渡りをする前に集まるって感じだな。」


「ふぅ~ん。じゃぁ、なんでコロニーになってるんすかね。」


「そうなんだよな。なかなか例がないから、今度、大学の先生やらが調査に来るみたいだぞ。その前に、現地調査しておくか。」


「はい。」


相談があった場所は道の駅だ。毎年、春になるとツバメが巣を作っていたが、徐々に数が増え、ここ数年、コロニー化しているという。縁起の良い鳥だから殺したくないが、糞害や鳴き声など、クレームも多いため、何か対策を講じられないかと相談を受けたんだ。


「その道の駅って"バフンと旨い"が売っているところですよね。ついでに買っていって良いですか。この前、買いそびれっちゃって。なんで僕の分まで頼んでおいてくれなかったんですか。」


「だってよぉ。鈴木、ほしいって言わなかっただろ。」


「そうですけど。なんか、自分だけ話題に入れなかったというか・・・。」

どうしても欲しい訳じゃないけど、みんなが買うなら欲しかったんだ。


道の駅は、権之助川公園のすぐ近くだ。敷地内には植栽が多く、色とりどりの花が植えられて、今、まさに見頃だ。

すでに、木々の間を縫うようにツバメが飛びかっていた。ぞくぞくと飛来しているのだろう。

巣は直売所とレストラン、トイレを行き来する通路に集中していた。そこは、屋根がかかっていて、テラス席としてテーブルと椅子が置かれていた。購入したパンや飲み物を食べるのにちょうど良い。


「屋根の下の壁の突起か巣台になってるんだな。」

屋根のすぐ下にちょっと出っ張っているところがあり、それを台にしてツバメは巣を作っているようだった。

田中先輩は、ぐるりとあたりを見回し、ツバメを観察している。

「なるほどな。うん。そうだな。」

良くわからないが、何かに納得している。


僕にはサッパリわからない。

「何が、”なるほど”なんすか。」


「ツバメがここに巣をつくる理由が何となくわかるなぁと思ったんだよ。」


「理由? 僕にも教えてください。何ですか。」


「鈴木もツバメの気持ちになればわかるよ。ここの駐車場は24時間開いているだろ。大型車も停まれるスペースがある。国道沿いだから、夜も車は入ってくるな。だから、当然、昼夜問わず人の出入りがある。街灯や自販機もあるから、夜中に真っ暗にもならない。」


それが理由なの? 本当によくわからない。

「サッパリ分かんないっす。」


「まったく、しょうがねぇなぁ。このあたりでツバメの天敵といえば何だ。雛を捕食するのは?」


「捕食する? う~ん。ヘビも見かけないし、カラスですかね?」


「正解! ここは、カラスにとって過ごしやすいと思うか?」

ん? 言われてみれば。

夜中でも車が出入りする場所だ。

四車線の国道には、車はひっきりなしに走っている。大型トラックが通れば、ガタンガタンと音がするだけでなく過積載をしていないか疑うほど振動する。きっと、もともと農地だったから地盤が緩く揺れるんだ。


「そうだ! 絶対、深夜の車のライトとか嫌がる。それに人が頻繁に出入りする場所も警戒する。」



田中先輩はうんうん頷きながら

「夜中でも、四車線もある国道だから車が結構通行しているだろ。エンジン音にハイビーム。通行するたび振動がある。」

「ああ、カラスは苦手そう。」

カラスは意外にデリケートなんだ。


それに加えて敷地内には植栽も多い。まわりは田畑が広がり、河川敷も近い。自然豊かだ。ツバメはエサにも困っていないだろう。


「ツバメにとって、ここは住みやすい人気物件ってことですね。だから集まるんだ。じゃぁ、巣を撤去しても、また違うツバメに巣を作られちゃいますね。」


「そうなんだ。こういう場所は捕獲しても次々来る。とりあえず、依頼主の話を聞いてみてからだが、巣を作られないようにする以外、手立てがないかもしれねぇな。」

本当にそのとおりだ。

こういう場所の対策は難しい。


「軒先にツバメが巣を作ると商売繁盛すると言うが、本当は逆だ。人の出入りがあって、賑わっている場所に巣を作るんだ。天敵が近づかないからな。」

なるほどです。

でも、いくら縁起がいいって言っても、店先に糞が落ちているのは、僕は嫌だな。


事務室は農作物や特産品を販売している店舗の奥にあった。事前に連絡していた時間より早かったので、ついでに、トイレや店舗のまわりなども丁寧に見て回る。

その様子をちらちら見ながら、窺うように近づいてくる人がいる。


「白浜さん、白浜造園さんですか。早いですね。作業着を着ている人がいたので、もしやと思ったのです。」

道の駅の事務局長さん、今回の依頼主だ。


「こんにちは。ちょっと早く来て、現状を確認していたんです。すでに飛来し始めているんですね。ツバメ。」


事務局長さんは嬉しそうに

「そうなんです。ツバメを見ると、ああ。今年もこの季節が来たって感じがします。」


「やはり、結構な羽数が飛来してくるんですか。」


事務局長はコロニー化しつつある通路をちらりと見上げると、

「そうなんです。何度か雛を助けたりもしていたからでしょうか。ツバメが気に入ってしまったようで、気が付いたら凄いことに。」


「集団になると、糞害や鳴き声もすごいでしょうね。」


「ええ。誰もが気づいて見上げるほどです。でも、季節が限られることですし、こまめに掃除するようにしていますので、これまでは大きなクレームにはなってないんです。ただ、ここ数年は、雛が落下する事故が多くて、中には打ち所が悪くて死んでしまうものもいるんです。やはり、食べ物も売っていますので死骸があるのはね。ちょっと。今年は鳥インフルエンザ騒ぎもありましたし、心配する方もいますので。」


「雛の落下ですか。」


「ええ。多いときは、毎日、落ちているんです。」


「毎日ですか。それはちょっと困りますねぇ。」

田中先輩はツバメをまじまじと観察する。まだ、巣作り中で抱卵は始まっていない。


「ツバメの巣を撤去するなら抱卵前ですが、これから許可申請だと間に合わないかもしれません。雛の捕獲ができないわけではないですが・・・。」

事務局長は¨やはり¨という顔をする。


「うまく共生できる方法はないですかね。」


「共生ですか。それはツバメの巣を撤去するのは諦めて、ツバメをこのまま保護しながら、何か対策を講じたいと言うことですか。」

事務局長は頷いた。


僕らは目を見合せる。

そちらの方が難題だ。

ツバメだって生きている。糞もすれば鳴きもする。

共生、共生って簡単に言うけど、そう簡単になんかできない。

共生は綺麗事ではないんだ。

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