第73話 権之助川公園桜まつり~キャリアウーマンのタカヨさん⑥~
タカヨさん視点です。
さっそく、職場でブラウンマッシュルームを紹介した。職員には、味も馬糞で作ったという経緯もとても好評だった。私には、なぜ馬糞が好評なのかはわからないのだけど、「これはSDGsです。」と言われればそうなのかもしれない。最後は雰囲気で押された気がするわ。
乗馬クラブと連絡しあい、ブラウンマッシュルームを当社の特製調味料で調理して来客者に配布し、その横で商品を販売することにした。もちろん、乗馬クラブのブースでは、マッシュルームを販売する。
調味料のパッケージに「コレだけでバフンと旨い!」と冠言葉をつけ、地域限定品とした。とはいっても商品開発なんて間に合うわけがないから、既存の調味ソースにニンニクと塩を強めに味変しただけのものだ。売れ残った商品も、近くの道の駅で販売させてもらえることになった。
地域貢献という視点もあるから、黒字にならなくても、社として成功という形をとれるだろう。若手職員が意欲的に取り組んで成功体験を積めるのならば、今回は御の字だ
あとは、当日まで気を抜かずにいこう。
それからは、その若手職員の畑山さんが中心となり、味を吟味し、当日の練習したり、マッシュルームの人工栽培の様子を写真でとって、パネルを作ったり、準備に明け暮れた。
いよいよ、権之助川公園桜まつりだ。
当日は、想像以上に人でごった返していた。
驚いたわ。田舎のローカルなイベントだと思っていたから。
「こんなに人が来るのね。」
「権之助川は桜の名所として有名ですからね。それに、さくらマラソンもあります。市民マラソンなんですが、事務局の話では市内の中学校の運動部が軒並み参加するそうです。親御さん達も来るから、さらに人で凄くなるらしいです。」
「そうなの? これ以上?」
「マラソン大会は、申し込めば誰でも参加できますからね。桜並木と菜の花の中を走るから、背景も綺麗で、卒業アルバムに部活動の様子として掲載されるのが定番なんだと聞きました。」
なるほど。
運動部だと大会に出られるのはレギュラーの人だけですものね。全員が参加できる部活動の一大イベントなのね。
いいなぁ。思い出づくりかぁ。青春だなぁ。
「のんびりしていられませんよ。お昼過ぎが人のピークです。」
「大丈夫? 畑山さん。ほとんど休めていないわよね。私も助っ人に入るけど、無理しないでね?」
彼はにんまりと笑って親指を立てる。
「そのために練習したんです。パートのおねぇ様方にも協力してもらって、デモンストレーションもしました。今日、みなさん、顔を出せる人は出してくれるって言ってましたよ。」
こういうところは、この子の良いところだ。パートの方々は彼の親ぐらいの年齢の方が多いのに、全く壁がない。人と壁を作らずに誰とでも屈託なく話せるのは、凄い才能だと思う。
「さすがね! ふふふ。サクラまで確保しているのね。」
思わず、顔がほころぶ。
それを彼はキョトンとした顔で聞いている。
「サクラまつりだけに? ・・・。副所長、そんなオヤジギャグを言うんですね。意外です。」
「な、何、オヤジギャグじゃないわよ。」
ホントよ。オヤジギャグじゃないわ。もう。
違うわよ。顔が真っ赤になってしまうわ。
ふぅ。暑い、暑い。
彼は実演販売の経験などないから、家でも何度も練習していたと聞く。工場に勤務している職員の意見なども聞き、いろんな料理に試したり、それを確認して、味変の要望をだしたり、本当に良い経験になったようだ。
事前に練習しただけあり、彼の実演販売は流れるような上手さだった。多少、料理の腕はおぼつかないが、そこが、また、リアルな感じで良い。
匂いも人寄せになっている。
「このコレだけでバフンと旨い調味料は、もちろん、ブラウンマッシュルームにも合いますが、僕は野菜炒めやチャーハンにも使います。とても美味しいです。チャーハンとか炒め物って、塩加減が分からなくて、結構、味が足らなくて食べる前に追い醤油していたんですが、これを使うとバッチリ、味が決まります。」
そう言って、小皿にのせたブラウンマッシュルームを配る。
「地域限定品です。」
お客は、「ふぅ~ん。そう。」「へぇ。」
なんて言いながら、一口食べると、必ず、その場にいる何人かは手に取り、買っていく。その様子を見て、さらに興味津々に人が集まって来る。
また。場所も良かった。駐車場近くで桜はない場所だから心配したが、駐車場が混み合っていたので、子供やママが運転手と合流するまで時間調整をする場所になっていた。その人達が、こぞってブースを覗いてくれたんだ。
加えて、乗馬クラブからもこちらを紹介してくれているようで人が流れて来ていた。だから、もう人はひっきりなし、途切れることがない。
噂をすれば、乗馬クラブの人が様子を見に来た。
「いやぁ、こちらはどうですか。マッシュルームはとても好評で、まだ昼前なのに、もう売り切れそうなんです。今、慌てて追加分を持ってくるところなんです。」
「そうなんですか。良かったですね。おかげさまで、こちらも売れゆきが良くて。」
なんて、世間話をしていると、
「あぁ。来た、来た。良かったぁ。車は混んでいるから、馬で運ぶというので心配したんです。」
え?
パッカパッカ、パッカパッカ。
馬が、馬が、自動車と並走して走って来る。
それも何頭も。
パッカパッカ、パッカパッカ。
そこ、公道よ。警察に捕まらないのかしら?
皆、馬に驚き、渋滞している駐車場待ちの車の中から見上げている。馬は悠々と、その横をパカパカと音を立て歩いてくる。
「あ、あの、 馬って公道を走って良いのですか?」
「馬は道路交通法では軽車両と同じなんです。」
「そ、そうなの?」
思わず、隣の畑山さんに聞く。
軽車両って、自転車のこと?
バイクのこと?
私は、この年になって初めて、その道路交通法のルールを知った。
道路交通法を知っていないと馬に乗れないのかしら?
「もしかして、馬って、免許が必要なの? 」




