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第67話 白瀬上沼③

依頼主にはワニでない可能性を伝え、見積書を提出したが、予想以上に金額が高かったようで納得してもらえなかった。特に、廃棄物処理経費の額を見たときは、明らかに不満顔だった。市に掛け合うから待ってくれと言われ、市に掛け合ってどうにかなるのかと疑問に思いつつ、しばらく返事を待つことにした。


どうやら市に何人かで押し掛け、管理責任を問うたらしい。白瀬下沼の所有者は白瀬下沼新田土地改良区だが、上沼は所有者がいないので市役所の管轄になる。そこで、『火災が起きたのは市がきちんと管理していなかったからだ。』『不法投棄をそのままにしているから田畑にまでいろいろ廃棄されるんだ。(田畑はすでに耕作放棄地だけど)』『そもそも草刈りもしていないだろう。管理しているといえるのか。』などと責め立て、『自らの管理責任をどのように考えているのか。』と、窓口で騒いだらしい。


市が言うには、不法投棄はすぐには片付けないのが適切な対応らしい。不法投棄をすぐに片付けてしまうと、『ここに捨てれば市に片付けてもらえる。』と思われ、新たな不法投棄を誘発しかねない。粗大ゴミを捨てるのはお金も手間もかかる。きちんと自分で負担するものだ。

だけど、パッと見て、わからない場所に捨てられているものもある。その説明であれば、そういうゴミは片付けるものだろう。市は、やらなかったことの言い訳を言っているだけだと依頼主さんは言う。

そして、屋敷林があったから辛うじて屋根に火が移らなかったが、危ないところだった。次に何かあったら、市に管理責任を問い、補償してもらうぞと強く抗議した。なんだかんだ揉めたけど、やっと、市も重い腰を上げたよと、どこかホッとしていた。


その様子は市からも聞いた。市から会社に問いあわせがあったんだ。

いくらかかるのかとか、不法投棄はどれくらいあるのか等を聞かれ、ヨシで見えないが奥まったところにも捨てられているし、草刈りをするのに邪魔なので片付けざるを得ない。湿地なので重機は入れられないから高くなると伝えた。実際に、その見積額はギリギリまで安くした金額なんだ。これ以上お安くはできない。


結局、水路は市でなく土地改良区が管理しているから、ワニの捕獲費用は出せないが、互いの境界が一見してあいまいになっていることもあり、自転車などの不法投棄は、ひとまとめにしておけば市が回収をしてくれることになった。また、刈り取った草も回収はしないが、直接、焼却場に持ち込んで良いらしい。

だから、凄く値切られた。ほとんど儲けなんてない。


不満に思い、むぅっとしながら田中先輩にそれを言うと

「ハハハ。草刈り費用はきっちりもらっているんだから、まぁ良いじゃねぇか。それにワニはきっと捕獲できない。地元で荒稼ぎするもんじゃねぇし、いいよ。」

荒稼ぎではないし、僕は安価すぎるのは良くないと思う。


少ない予算だからお金はかけられない。

ワニ以外の爬虫類や両生類だとすでに冬眠している可能性も高く、捕獲どころか見つけられないかもしれない。依頼主にはそれを伝え、ワナの設置は、草刈りをしている数日に絞ることにした。短い期間で切り上げ、最終日に目撃情報のあった水路を漁業用のタモ網で(さら)うことにした。それで分からなければ、冬場にいくらやっても無理だろう。仕切り直した方が良い。



ワナは、カゴワナと浮き輪型ワナを設置する。

この時期、うとうと冬眠している状態でも、餌の匂いにつられて起きる可能性があるから、餌で呼び寄せる方式のカゴワナを設置することにした。浮き輪型ワナは、カメの日光浴する習性を利用したワナで、まだ寒いし、実際にはかからないだろうと言っていた。


かからないなら設置しなくていいのに。


それなのに、今、まさに、目の前で浮き輪型ワナを作っている。それもたくさん。こういった特殊なワナは販売していないか、販売していても数が少ない。

僕が思うに、田中先輩が、ただ作りたいだけじゃないだろうか。自らが書いた簡単な設計図を見ながら、何本もエンビ管を切り、それを並べてウンウン頷き、組み立てたら、少し離れて眺め、出来映えを確認することを繰り返している。それも、やはり狩人気質なのか、「カメが日光浴に来て、ここを踏むと落ちる仕掛けなんだ。」と楽しそうに解説までしてくれる。

それにしても、何故、木山さんまで一緒に製作しているんだ。二人してプラモデルに夢中になる子どものように上機嫌だ。


「いやぁ。木山さんまで手伝ってもらって、すみません。」


「いやいや。実は私はこういう作業が好きなんです。それに下心もあるんです。和祀(わし)神社の御池に転用できないかと思っているんです。使わないものがあったら使わせていただいてよろしいでしょうか。」


「もちろん。ただ、壊れてしまうものもありますよ。手作りだし、急誂あつらえなんで。」


「大丈夫です。そうしたら、また作らせていただきます。」

「ハハハ。そりゃいいや。」

二人とも、絶対、好きでしょう? こういう作業。


「神社にも外来のカメがいたんですか。」


「白瀬下沼ほどではありませんが、首に赤いラインの入ったカメを見かけたものですから。」

ミシシッピアカミミガメだ。日本ではミドリガメの名前の方が有名だ。本当に全国そこらじゅうにいる。僕はあのカメ、苦手なんだ。大きくなると目がつり上がって、すんごい気が強そうだよな。


「冬でも暖かい日ならミシシッピアカミミガメは捕獲できるかなぁ。最近、カメの問い合わせも増えているから、ちょうど試したいと思っていたんだ。今回は、少し大きさと深さを変えて作って、流れがある所と淀んだ所があるから、試すにはちょうどいい。きちんと縄をくくりつけられるよう工夫もしたんだ。ほら。」

なんか自慢気だ。自信作なんですね。


「上沼を抜けるまでは、水路は舗装してないから、どういう風に括りつけるかも考えておかないとだな。杭を立てるか。」

そんなに何個も設置する必要があるだろうか。

かからないのに、こんなに試す意味があるのか?


「これ、全部、設置するんすか。」


「いや。いくつか設置してみてから決める。まぁ、実際に現場で試したたいのもあるが、飾りも兼ねてるから。」


「飾り?」

飾りって何? もしかして自己満足系?

それで、こんなに作っちゃマズイでしょ。


「ほら、これを水路に浮かべておけば、依頼者や通行人は、何か捕獲作業をやっているとわかるだろ。なんか放したら不味そうだって雰囲気が出せればいい。少なくてもチップが入っているのを放したりしない。それに、通りがかりの警察官にも説明しやすい。な、だろ?」

主に後半の警察対策でしょ。

カゴワナは水に沈めるから、外からはわからないからね。


結構、引きずってんなぁ。この間のこと。

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