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第64話 菅原さんは忙しい。②

プルルルル。プルルルル♪

プルルルル。プルルルル♪


「あ。ちょっと申し訳ないね。電話にでるね。」


菅原さんが立ち上がり、後ろを向いて電話をとった。誰と話しているんだろう? 何度も「悪いね」って言って申し訳なさそうに何かを断っている。


「いや~。話をしている最中に申し訳なかったね。別の鳥獣保護管理員からで、数日、鷹を預かれるかって。これからセンターに持ち込むらしい。種の特定は今やっているけど、猛禽類を扱える人は限られるからお願いできないかってね。もう、続くときは続くんだよ。『無理、無理。今、フクロウがいるんだよ』って断ったんだ。また、行き倒れかなぁ。今年は雪も多かったからエサも少ないし、検査も一羽からだからね。」

そう言い訳しながら電話をしまう。


「今年は行き倒れが多いんですか。」

「多いのかな?。毎年、普通に餌が上手く採れず死んでしまうものは結構いるんだ。このフクロウだってそうだ。全ての雛が無事に育つわけではない。今年はカラス騒動があったから、皆が弱っている鳥や死んだ鳥に目が行くようになっただけだと思うな。」


そうなんだ。でも、鷹はどうなるんだろう。保護したからには助けてあげたいよ。


「その鷹は行き場がなかったらどうなるんですか。猛禽類って飼うの難しいのかな。僕はアパートだから無理だけど、ボランティアとかが飼うのって難しいんですか。せっかく、助かったのに。数日なら大家さんにバレずに飼えるかな。」


菅原さんは困ったように笑うと

「鈴木さんは優しいね。本当なら死んでしまっても仕方ないものなのに。う~ん。何て言えばいいかな。鷹はね。飼育以外の大変さがあると言うのかな。まず、ゲージは壊されないよう大きくて少し重たいものが良いから、持ち運びが大変だ。できれば羽を広げられる大きさがほしい。それに鳴き声が煩い。ピーって笛の音のように響く大音量でね。内緒では飼えないよ。当日にバレるね。野鳥だから人慣れしてないし、ほら、鉤爪だからちょっとした油断で大怪我になる。それと、ボランティアか、ボランティアねぇ。ボランティアもいろいろ難しいんだよ。」

ため息まじりに、お茶をズズッと飲みきる。


田中先輩がお茶をつぎながら、思い出したように

「確か、制度としてはありましたよね。言われてみれば、あまりボランティアが預かっているなんて聞かないですね。」


「そうなんだ。今はあまりやってないって聞いている。ボランティアは技術(れべる)差だけじゃなく、考え方もいろんな人がいるからね。知識や経験がないのに保護したがる人とか、放鳥しないでペットみたいに飼育し続けちゃう人とかね。間に入る役所が大変みたいだ。誰だったかな? 放鳥しても戻って来ちゃうって嬉しそうに自慢していた人がいたよ。人に慣れさせちゃ駄目なのに。自慢している時点で、ああ、この人、違う、困ったもんだって思うよ。」


「保護猫や保護犬の預かり保育と同じような感覚なんでしょうね。全くの善意だから、役所もなかなか説得が難しいんでしょう。」

田中先輩の言葉に、菅原さんがうんうんと大きく頭を上下させ、「困ったもんだ」と同意する。


「野生だって意識が足らないのかな。人の食物をあげてしまう人もいるんだ。ジャーキーのようなツマミとかね。共生するっていうのは人間と仲良くすることじゃない。味を覚えれば、そのうち空から人の手の中の食べ物を狙うようになる。狩りが下手な鷹が、突然、狩りが上手くなるわけじゃないんだ。簡単に獲物を採れる方を選ぶに決まっている。怪我してからじゃ遅いんだ。役所が渋る気持ちがよくわかるよ。」


ただ、飼えば良いってもんじゃないんだな。

なんかいろいろ難しいってことは伝わってきた。

僕も何も知らずにボランティアをしたら、ビール飲みながら鷹にジャーキーをあげている気がする。


プルルルル。プルルルル♪

プルルルル。プルルルル♪

また、菅原さんの電話が鳴った。少し困ったような顔をしている。


プルルルル。プルルルル♪

プルルルル。プルルルル♪


「どうぞ、気にしないで出てください。』


「悪いね。ちょっと。」

そう言って顔だけ後ろを向き電話にでる。


「はい。菅原です。はい。え? 通報? 事故でもあった? ・・・。あぁ。きっと、工場団地を抜けたところかな。わかった。帰り道だから回って行くよ。はい。・・・。今、フクロウと移動中です。ははは。悪いね。大丈夫そう? はい。はい。」


また、通報があったのかな。


電話を切ると、

「悪かったね。環境事務所からで、なんか警察に通報があったみたいだ。」


「大丈夫ですか。何かの事故ですか?」

田中先輩は心配そうに聞く。


「大丈夫。大丈夫。たぶん、いつものだ。鉄砲持った人がこっちをじっと見ているって通報だよ。」


コワッ。鉄砲を持って自分をじっと見ているって、狙らわれてるじゃないか。こんな田舎に暗殺者?

命の危機だよ。僕もきっと通報するよ。


「本当に狩猟期間中は通報が多いんですね。」

「まったく、狩猟期間中なんだから、狩猟できる場所なら鉄砲を持った人はいますよ。通報があったから、一応、パトロールしながら帰るけどね。地元以外の人が狩猟者を見て驚いて通報するんだ。新しく工場団地ができて人の流れが変わったんだよ。」

そうか。今、狩猟期間だった。

狩猟パトロールか。鳥獣保護管理員って大変そうだな。


「あ、そういえば、この間、猟友会の会長が通報があったから心配して駆けつけたのに、警察から自分が職務質問(しょくしつ)受けたって憮然としてました。」


「「ハハハハッ。」」

二人でウケている。

顔がヤクザみたいに怖い人だよね。



「そうだ。えっと、カミツキガメじゃないかって話だったよね。まぁ、とりあえず、現地を確認して、相談を受けてくれると有難い。」

田中先輩は「もちろんです。」と快諾した。


「あ。そうだ。鈴木さんにも頼みたかったんだ。3月の最後の土日ってヒマ?」


「え?」

なんか嫌な予感。


プルルルル。プルルルル♪

プルルルル。プルルルル♪


「ああ。またか。ごめん。じゃあ、また連絡するよ。」

そして、菅原さんは電話をとりながら、忙しそうに帰って行った。


待って。

3月の最後の土日に何があるの?

何があるのよ。

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