第55話 冬のカラス④
翌日、身体が凄くだるくって、なんだか熱っぽく、鼻もむずむずする。風邪をひいたかな。
昨日はとても寒かった。その上、屋上でビュービュー強い風に晒された。
寒気がするし、身体の節々も痛い。ぼーっとして何もする気力が起きない。体温計がないので何度かわからないけど、きっと熱がでたんだろう。
会社を休んだ。
何も食べたくない。だから、その日は1日何も食べず、ずっとベットで寝ていた。起きたときには夜になって、寝巻きは汗でぐっちょりだ。喉が渇いたので、もそもそと起きて台所に行き、水道の水をゆっくり飲んだ。飲むたび喉に違和感を感じる。水を飲むだけなのに息切れがした。身体がだるくって、くらくらする。
でも、水を飲まないと脱水症状になってしまう。空のペットボトルに水を入れてベット横に置き、そのままベットにもぐりこんだ。
ひたすら寝て、起きたら、すでに明るくなりはじめていた。
頭が凄く痛い。ゴホゴホと咳き込むたびに、頭がガンガンする。辛くって、その日も、また、会社を休んだ。咳き込みながら電話したら、田中先輩に仕事は大丈夫だから今週は休めと言われた。
「熱が下がったら行きます。」と言ったが、どのくらい熱があるのだろう。体温を測っていないことにあらためて気がついた。鼻水や咳も、息を吸うたび止まらない。顔も少しむくんでいる気がする。食欲もなくて、無理に食べると吐き気がする。
その日も1日中ベットで過ごした。
うー。気持ち悪い。
カラスも鳥インフルエンザに感染すると吐くと言っていた。そして、熱っぽくなり、目が赤く潤むと聞いた気がする。
もしかして、これが鳥インフルエンザか!?
僕はカラスに高病原性鳥インフルエンザを感染されたのかもしれない。屋上で吐しゃ物は確認できなかったのは、きっと、溶けて流されたか、雪に埋もれてしまっていたからだ。僕は、その雪に含まれたウィルスで飛沫感染したんだ。きっとそうだ。そうに違いない。だって、気持ち悪くて吐きそうだし、ちょっと風邪をひいたという辛さじゃない。僕は予防接種してから、まだ2週間経過していない。抗体もないんだ。
「ゴ、ゴホゴホ。』
マジで息を吸うだけで苦しい。
それとも、この前のイノシシから豚熱が感染したのか。通称豚コレラだ。コレラといえば、吐き気や酷い下痢症状だ。そう思うだけで吐き気が酷くなった気がする。豚熱は感染力が強く致死率が高い。
誰にも看取られず、僕は死ぬのか。
ああ。僕はこのまま死ぬんだ。
目を開くと、部屋は暗く寒い。こんな部屋で孤独死か。
孤独死。管理人さん、ごめんなさい。事故物件になります。
・・・。
ダメだ。嫌なことばかり考えてしまう。
そうだ。テレビでも見よう。
テレビをつけたら、夕方のニュースが流れている。小学校の校庭でもカラスが大量死していたらしい。高病原性鳥インフルエンザの検査をする予定だという。カラスはエサ場を共有しているので、何かの化学薬品を食べた可能性もあるので、その調査もすると説明していた。だが、同一の群れと思えないエリアで大量死が発見されているので、化学薬品の可能性は低いだろうと専門家は言っていた。
ということは、やはり鳥インフルエンザなんだな。
ああ。きっと僕は感染したんだ。
テレビの画面に反射した自分の姿を見ると、目は赤く潤み、汗ばんでべったりとした髪に、顔色が悪く、少し黒ずんでやつれた顔をしている。まるで、死相だ。
少しでも抗いたくて、ペットボトルの水をごくごく飲みきる。
こういうときに彼女が看病してくれたら頑張れるのに。
ああ。サヤカちゃん、しばらく見てないな。
どうしてるかな。
彼女じゃないけど。
「ゴ、ゴホゴホゴホ。』
ホント、木山さんが羨ましい。くそぉう。
無性に泣けてくる。
うとうととしながら、ぼおっと布団の中で温まっていると、ピンポーンと呼び出し音が鳴った。
宅配か何かかな?
居留守使ってしまおう。今、だるくって動きたくない。
ドンドンドンドンドン、ドアが叩かれる。
乱暴だな。放っておけば、諦めて帰るだろう。
もう、いい加減にしてよ。辛いんだ。
ドンドンドンドンドン
「おい、鈴木!大丈夫か!おい。すぅ、ずぅ、きぃ!」
田中先輩の声だ。
ドンドンドンドンドン、音が鳴り止まない。
近所迷惑だからやめて。もう、本当に体調がわるいんだよ。そっとしておいてよ。
「ゴ、ゴホゴゴ、ゴホゴホ。』
苦しいけど、ベットからヨロヨロと立ち上がる。
フラフラしながらドアの鍵を開けると、ダアーンと勢いよくドアを開けられた。
「アパートに来てよかったよ。1人暮らしだし、何も食わずに死んでんじゃねぇかと思ったよ。」
勢い良く捲し立てられる。
確かに何も食べてないですが、それ以上に、今はその大きな声を聴くのも頭ガンガンして辛いです。
「ほら。行くぞ。」
「ゴ、ゴホ。ど、・・・・どごにですか?」
「病院だよ。病院。医者にかかってねぇだろ。ヤローの一人暮らしだし、絶対、家で寝ているだけだと思ったよ。車で来ているから保険証だけ持ってこい。病院に送って行ってやる。」
「いや。ゴ・・・ゴ、ゴホゴホ、ゴホ。大丈夫ですから。感染してしまう。ぎっと、僕は死ぬ。カラスのように死んでしまうんだ。」
熱の籠った潤んだ瞳で先輩を見つめる。
「ゴ、ゴホ。ぼ、ぼくは、し、じぬ・・・ゴ、ゴホ。」
先輩は一瞬、怯んで
「オマエ、何、馬鹿なこと言ってんだ。大丈夫じゃねぇだろ。行くぞ。」
その日、田中先輩の車に乗って、市立病院の夜間診療に駆け込んだ。




