第52話 冬のカラス①
カラス被害は、一年を通して何かしらの相談があるが、特に冬は「怖い」「気味が悪い」から「何とかして」という相談が増える。
鳥には季節によって行動を変えるものがいる。カラスもそうだ。
カラスは秋から冬に同じ場所で集まって寝る。そして、その塒と呼ばれる集合寝所に行くために、その近くで待ち合わせをする。就塒前集合行動と言われるものだ。日暮れ頃になると塒近くの電線や樹木に集まって小さな群れを作り、カァ~カァ~とお喋りして過ごし、日が暮れてから塒に移動する。ヒッチコックの映画のように静かに数羽ずつ増えて、気がついたときには自分の周りにウジャウジャといる。ときどき一斉に飛び出して獲物を狙う鷹のように上空を旋回をしている。カラス嫌いな人から見ると恐怖でしかない。
僕も集団であの真っ黒な目で見られると恐い。特に、春の子育て期の非常に攻撃的なカラス対策もしているから、余計に恐い。だから「何とかして」と言いたくなるのも分かる。
不思議と塒そのものは、クレームが少ない場所に作られる。例えば、先日、下草刈りをしたトトロの家や和祀神社のようなあまり管理されていない土地の高い木だ。立派な木であっても駅前のロータリーにあるシンボルツリーなどではない。シンボルツリーは大きいけど冬場はピカピカとした電飾イルミネーションを飾る。カラスは眩しい明かりの中で平気で眠れるほどタフではないのだ。もしかしたら、役所はそれを狙って電飾ピカピカをつけているのかもしれない。
「なんで、カラスは冬に皆で集まって寝るんですかね。」
僕は現場を確認しながら田中先輩に聞く。
「さぁな。いろいろ説はあんだよ。一説によると合コンしてるらしいぞ。」
「え?マジ。カラスも合コンするんすっか。 いいなぁ。」
「おぉ。じゃぁ、仲間に入れてもらったらどうだ?今年に巣立ったカラスもいるから、今がいちばん賑やかだぞ。訓練すれば九官鳥のように話相手をしてくれるぞ。」
「またまた。何、馬鹿なこと言ってるんですか。僕はそこまで寂しい生活はしてません。僕のような好青年が、部屋で一人、カラスと向きあって『いっちょにごはんたべましょうねぇ』なんて赤ちゃん言葉で会話していたら変な人でしょ。」
作業をしながら、わざとムスっとした表情で答える。
先輩はキョロキョロしながら「どこに好青年がいるんだ。」と大袈裟に笑う。
現場近くの電線にはすでに鳥避けスパイクが設置され、駅前ロータリーの樹木には電飾がピカピカ飾られている。すでに様々な対策が講じられているのだ。
カラスは捕獲が難しい。捕獲が難しい場合、鳥獣被害対策は、追い払いと予防がメインになる。そもそも気味が悪いだけでは捕獲許可はおりない。糞害とかゴミのまき散らしとか、何かしら被害がないとダメだ。狩猟期間だから狩猟するっていう方法もあるが、住宅街で鉄砲は撃てないし、ワナにかかる鳥ではない。カラス自体を何とかはできないのだ。
結局、予防策となるので、就塒前集合となる樹木を止まり木にしないように剪定することになった。今回の剪定は見栄えなど関係ない。むしろ、外敵から丸見えになるように切るから、樹木が可哀そうになるほど枝を伐採する。仕方ないとはいえ、痛々しくて心苦しい。
その上、一部には網を掛ける。植木屋なのに、樹木を虐めている気がするんだ。
でも、不思議だな。僕は改めて辺りを見回す。
近くに塒になりそうな大きな木はない。駅付近は住宅も多く、人間のだす生ゴミも多いから、餌には困らないだろうけど、駅を中心として広がる住宅街で高い木なんてない。街路樹は定期的に剪定されている。
「どこが塒なんだろう。」
作業の手を止め、空を見上げながら呟く。
集団で塒を作るのは、えさ場などの情報交換や寒さ対策(体温調節)、番を見付ける機会を増やすなど、理由はいろいろ言われている。百羽以上が集うと聞くが、そんな多くのカラスが集える場所など、この付近にない。
謎だ。
吐く息は白く、刺すような冷たさの風にぶるりと身体が震える。
「さっさと終わらしちまうぞ。身体が冷えてきたしな。」
田中先輩の声がけで作業を再開する。悴んでいる手を結んだり開いたりして温め、タオルをマフラーがわりに、防寒着の襟の隙間にぐいぐいと埋めるように入れ込む。
今年の冬は妙に冷え込む。予報では例年と比べて随分寒いらしい。上空に強い寒気が流れ込んだとかで毎日のように真冬日だ。
テレビでは、アナウンサーが「今年は都心でもホワイトクリスマスになるかもしれません。」と嬉しそうに言っていた。僕はしんしんと雪の降る中、一人、寒さに震えながらテレビを見ているクリスマスだ。カラスのように温めあうパートナーもいない。
あ~あ。
仕事が終わったら、熱い缶コーヒーでも飲んで暖まろうかな。
どうせ部屋から出ないクリスマスだ。
『腹立つから、大雪になってしまえ!』などと不吉なことを祈っていた。




