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第5話 クビアカツヤカミキリ①

「悪いですね。田中さん。権之助川桜並木の桜だから、守る会や役所との関係があって、枝の1つも簡単には切れないんです。状況だけで判断しなくてはならないんですよ。」


日枝さんは、樹木医の資格も持っている超ベテランで、会社の中でも神に近いほど尊敬されている人だ。

穏やかで人格者だと言われている。

一度も大声をあげているとこるをろ見たことがない。


「いや。日枝さんでも悩む事例って、逆になんだか気になります。」


日枝さんが、田中先輩に権之助川の桜が何本も枯死しているから、原因を確認するため、一緒に来てくれないかって声をかけた。日枝さんに相談されるなんて田中先輩も凄い人だったのかな?


「うーん。原因もわからないのですが・・・。

実はね。1人だと心細いというか····、味方がほしいというか・・・、

複数で行きたかったんです。」


···?

なんだか嫌な予感がする。


「日枝さん、だいたい想像はつきますが、支障ない範囲で事情を聞かせてください。その場で不意打ちをくらいたくない。」

日枝さんは頷くと、事情を説明しはじめた。


権之助川桜並木は春には桜と菜の花、夏はひまわり、秋にコスモスと年間を通じて花が咲きほこり、このあたりでは有名な観光地になっている。年間来場者数も○十万人、それを牽引しているのが春の桜だ。

観光の絵葉書にもなっている。

その権之助川桜並木の桜の保全と管理をしているのが守る会だ。今は市から委託を受けているが、もともとはボランティアだった。だから思い入れがあるというか、熱い人が多い。


一方、温暖化で100年に一度の大豪雨が起こるようになり、河川改修工事が急務になっている。よく聞くスーパー堤防事業だ。

河川改修工事は下流から行う。先に上流を工事すると工事をしていない脆弱な下流で決壊してしまう。つまり、上流の住民は下流の工事が終わるまで何年も災害に怯えながら待たなければならない。

ただでさえ河川改修工事は時間がかかる。田に水を引く上半期は、農家から水が汚れると苦情がでて、本格的な工事をしないからだ。

加えて、守る会や地元商店街との調整に時間がかかった。

権之助川の工事は年単位で遅れていた。

そんな状況で桜が枯れはじめた。

守る会は工事の影響を疑っている。

権之助川は一級河川で管轄は国だが、実際には県が受託し管理している。県は大事にならないよう、国に報告しなくてすむよう穏便にすませたい。

早く解決することが急務だった。


「日枝さんの見立てとしては、やはり工事の影響ですか。」

「うーん。いや。違うでしょう。ただ、原因が何かはっきりしない。明確に『違う』と言えないのが悔しいところです。」

「日枝さんが、工事の影響ではないと思うのはどのあたりですか?」

「・・・カン? と言っても、守る会は信じてくれないでしょうねぇ。」

日枝さんはため息をつく。


「確かにその区域の桜には勢いがないんです。人なら衰弱している、上手く栄養も取れていない印象です。それも桜だけなんです。」

桜だけというのは、確かにおかしい。

工事の影響なら、他の木も含めて全体的に影響がでるのではないだろうか。


「病気ですか?」

日枝さんが首を横に振る。


「虫?」

「樹木を枯死させるほどの虫など、そうそういませんよ。」

眉間にシワを寄せ、田中先輩が悩んでいる。


「田中さん。先入観を与えたくはなかったのですが、枯れかけた枝を切ることはできませんでした。私は中を見てないんです。」

「それって、木の中が疑わしいということですか?

桜の木の中を好んで食う虫なんて・・・」


「・・・あ!」

田中先輩が何かに思いあたった。

日枝さんはニッコリと頷いた。

そして困った顔をする。

「とうとう私たちの町にも悪魔の外来種が来たかもしれません。

まだ私の想像でしかありません。

杞憂で終わればよい。」

「前回、何か気配みたいなものはあったのですか?」

日枝さんは、目をふせて顔を横に降った。

「守る会がこまめに掃除してますので、きれいなものです。樹液が多いくらいではね。判断つきませんし。

不確かなことで、皆さんを騒がすのもよくないですが、早く対策をしないと、桜が全滅しかねない。

そのためにも原因を早く特定しなければ。

枯れかけた枝を切らせてもらえればわかりますが、そうでなければ、きっと今日も原因はわからない。成虫を確認するには少し時季が早い。せめてフラスが残っていれば・・・」


何?


原因は虫だったの?


何の虫?


どんな騒ぎになるの?


僕は、何をする要員なのよ!

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