第47話 柊と鸞(らん)③
「青白い炎がふわふわ浮かんでいた?」
先日の神社の酉の市でカップルが参道わきで見たという。炎のような光がふわふわと空中を漂っていたという。
きっと、カップルは、祭の喧騒に紛れ、ほの暗い場所で疚しいことをしようとしていたに違いない。罰が当たったんだ。ザマァみろ!
「その青白い炎がゆらゆらと草むらに降り立つと、ぼわっと炎が立ち上がったんだってよ。」
屋台の後ろの草むらから、突然、炎があがったという。
「それ。屋台の火の不始末か何かじゃないんですか? それか、煙草か爆竹。」
火のないところに煙は立たぬと言うでしょ。そこに燃えやすい物があったとしても、火種はあるでしょ。
「結局、そういうことになるよな。催事そのものは無事に終わったけど、遅い時間だったし、片付けはじめている店も多くて、水を捨てた後だったから、あわや大惨事だったんだってよ。この時期、乾燥しているだろ。」
すぐに消火できて良かった。酉の市は縁起を担ぐからね。
「そうしたらよぉ、この間、煤払いででたゴミを境内でちょっと燃やしたんだってよ。ほら、お焚きあげする場所でだよ。そうしたら、また火柱が立ちあがったんだってよ。火柱だぞ。祟りか!神の降臨かってさ。」
「へぇ~。」
大袈裟だよ。火をつけたんだから炎があがるよね。普通だよ。風に煽られたんじゃないの?
「なんだ、お前、反応が薄いな。こういうの好きだと思ったのに。」
田中先輩はつまんなそうだ。ちぇって顔をしている。
「私もその噂を聞きました。」
ぬうっと木山さんが話に入ってくる。
「鈴木さん。田中さん。今日は時間もありますし、神社に確認に行きましょう。」
「えぇぇ。木山さんまでノリノリですか。まさか怪奇現象だって思ってるんでじゃないですよね。絶対、嘘っぱちですよ。」
「ふふふふ。鈴木さん。これも勉強ですよ。」
木山さんはニンマリと口の端をあげ、日枝さんにそっくり笑顔をつくる。嫌な予感がする。本当に勉強ですか。その笑いは違うでしょ。
神社には、社をとり囲むように森があり、特に本殿から後ろの川まで続く区域は手つかずで、まさに鬱蒼とした鎮守の森だ。敷地全体が環境保全地域にも指定されている。
鳥居をくぐると途端にひんやりとした清らかな空気に包まれる。僕たちは、ゆっくりと参道わきを観察しながら歩いている。目撃情報も参道わきだからだ。
「湿った土壌ですね。柊は半日陰を好むのですが、湿った土壌より乾いた土壌を好むと言われているんです。長生きしてますし、この近くに良い砂が取れた地区があるので土壌が砂質かと思ったのですが・・。どうかな。落葉樹が多いからな。分からないな。」
「砂質ですか。」
「はい。鈴木さん、地元はこの辺りですよね。学校で習いませんでしたか? 九根川の河畔砂丘とか。」
「あぁ。そう言われれば。鳥取県でもないのに砂丘があるんだと不思議に思いました。」
木山さんは楽しそうに、自分もはじめて知ったときはそう思いましたと、フフフッと笑った。河畔砂丘は、長い期間かけて、大きな川が平坦な広い場所を流れる地域で、河原から吹き上げられる砂により作られる砂丘だ。
「今は九根川は県境の方に移動していますが、もともとは九本の大きな根(支流)を持ち、広範囲に氾濫した川です。神社の後ろの川もその支流の1つです。うん。やはり、この表層の下は砂地かな。きっと、上に土が堆積しているんだ。」
土が堆積する?
落葉樹が多いから、土が作られて、それが積もったってことかな。
木山さんはゆっくり境内を歩き、ときどき立ち止まっては観察するというのを繰り返している。僕らはそれに付き添って歩いている。そして、ちょうど参道の真ん中くらいにある木々の奥にある木枠で囲った場所で立ち止まった。
腰丈まである木枠には、枯れ葉が山のように入っている。長く使い込んまれた木枠は汚れて、ところどころ穴も開いている。木山さんは、その木枠を覗き込んだり、手をかざしたりして確認している。
「鈴木さん。神主さんがいらしたら・・・。あ。でも、やっぱり、全部見てからにしよう。うん。」
神主さんを呼ぶんですか。どうするの?どうしたらよいの?
ちょうど、そんなことを言っていたら神主さんが来た。
「こんにちは。お見かけしたので、もしかしたらと。」
木山さんは占めたとばかり
「ちょうどよかった。今、了解をいただきに行こうと思っていたのです。」
「了解ですか。」
神主さんは不思議そうな顔をした。
「これは腐葉土をお作りになっているのですよね。」
木山さんが先ほど確認していたボロボロの木枠をさす。
「そうなんです。敷地が広いもんですから落ち葉だけでゴミ袋が山のように積みあがるので、腐葉土にして境内の植栽に使っているんです。」
「なるほど、確かにこの広さでは落葉だけでも凄い量になりそうですね。それをお一人で? 大変でしょう。なかなかやりきれない。あの、実は、今、こちらを拝見したところ、少し熱を持っているようなので、ちょっと中をひっくり返しても良いか伺おうと思っていたんです。」
「え? は、はい。」
突然の提案に神主さんは戸惑っている。
「廃棄物処分場の埋め立て地で起こる火災の原因の1つは発酵熱なんです。」
神主さんはハッと思い当たったようで、納得したようだ。
「ありがとうございます。もしかしてボヤ騒ぎを気にしてくださったんね。」
木山さんも田中先輩も営業スマイルだ。
「腐葉土は毎年こちらで作っているのですか?」
「そうなんです。もうボロボロですが、新たに木枠を作る時間もなくて。ちょうど秋から忙しくなりますしね。」
木山さんは不安そうに「ときどき様子を見たほうが良いですよ。」とアドバイスしながら、何かを考えているようだった。




