第46話 柊と鸞(らん)②
鸞は、君主が正しく善き政治を行っているときに姿を現わすと言われる霊鳥だ。あまりに美しすぎて子どもの雛さえ慄くという。何故、この地域の人たちが今もその霊鳥を実在すると信じているのか僕には分からない。だけど、本当に、この神社は、そんな神話のような話を含めて地元の人達の信仰を集めている。
始まりは、災害のときに偶然この地域だけ助かったとか、領主批判ができない時代に、他の町の住民が鸞の逸話で風刺したとか、たぶんそんなものだ。ただ、受け継がれているということは、その逸話が地域の誉れとして代々語り継がれるくらいには、今も住みやすい良い町なのだと思う。
和祀神社の御神木は日枝さんと木山さんが担当になったが、僕たちも勉強を兼ねて手伝わせてもらえることになった。僕は凄く嬉しくて、気がつくと、いつもその話題をしている。だって400歳以上の木だよ。木山さんは「明空御手植の柊は700歳以上ですよ。」と教えてくれたけど、柊の寿命の長さに驚いているんじゃないんだ。そんな大事な仕事に携われることが凄いんだよ。それも古から続く神社の御神木だよ。
少し呆れながらも、田中先輩は僕の話に付き合ってくれる。
「和祀神社の『わし』って、猛禽類の『鷲』だと思ってました。だって、あの神社、鳥が神の御使いになっているし。」
「ははは。そうだな。でも、この地域だけでなく、昔は皆、鸞が実在していたと思っていたみたいだよ。だから逸話も信じているんだ。ほら、東京の迎賓館の屋根の上にもいるだろ。あれも鸞だ。あの、鯱みたいにいる鳥だよ。」
迎賓館って国会議事堂の近くにある、煌びやかな建物だよな。
「あれ、鳳凰じゃないんですか。」
「まぁ、鸞も鳳凰の仲間だけどな。」
鳳凰の仲間?
「え?鳳凰にも種類があるんすね。知らなかった。鳳凰って、他にはどんなのがいるんすか。きっと、ハリーポッターの不死鳥も鳳凰ですよね。鳳凰の分類はどうなってるんだろう? 鳳凰目、鳳凰科の鸞属?」
田中先輩は不思議そうな顔をする。
「そうすると、ハリーポッターの不死鳥は、鳳凰目、不死鳥科の火の鳥属?なんか分類学的でかっこ良い響きだな。へへっ、面白い。頭、よくなった感じがする。
じゃぁ、じゃぁ。手塚治の火の鳥はどうなるんだ。ハリーポッターと同じかな?」
田中先輩は異質なものを見るような目で僕を見ている。
「お前、妙なところにハマるなぁ。俺はむしろ、今の会話を聞いて『鈴木さん、大丈夫ぅ?、へへっ、頭、おかしくなった感じがするぅ』って思ったけど・・。」
え? どこか? どこがよ。
「鷲も鳳凰の仲間だとかいうオチじゃないですよね。和祀だけに。へへへっ。」
オヤジギャク言っちゃったよ。へへっ。
「まったく。お前はもう。和は鸞の雌のことだよ。」
そうなんだ。雌雄で別の名があるんだ。新しい発見だ。
「まぁ、良い読みをしてるけどな。『鷲』そのものに大きな鳥って意味もあるから。」
深いな。
そうすると、この神社は大鳥神社と同じグループということかな。鷲子神社も鷲を使っているし同じククリかな。なんとなく納得。
「それに、お前、地元はこの辺りだろ。逸話を知らねぇのか。あそこの民間伝承は神がかって有名だろ。」
「神社だけに。へへへっ。」
田中先輩ははしゃぐ僕を見て呆れ顔だ。
慌てて、僕は顔だけシャキッとして答える。
「地元って言っても、市が違いますから。」
「くだらないこと言ってねぇで、仕事すんぞ。」
和祀神社で、怪奇現象騒ぎが起こったのは、そのすぐ後のことだった。
〈参考1〉
鸞の姿は、内閣府の迎賓館のホームページ「彩鸞の間」で紹介されています。
〈参考2〉
明空御手植は、下妻市の光明寺にあります。
明空は親鸞の弟子で、柊を好み、光明寺は「柊道場」とも呼ばれていました。




