表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/88

第45話 柊と鸞(らん)①

伝説の霊鳥 らんが止まったと云われる柊は、和祀(わし)神社の御神木である。幹を大きくうねらせ、樹皮の一部が白くささくれている古木の姿は、いかにも霊鳥が止まり木にしそうな風情である。(らん)は大変美しく煌びやかで慈悲に溢れる鳥だと言われ、明治時代まで、いや、この地域では今でも実在すると信じられている。

だから、この神社は鳥を大切にしていて、カワウの 被害を受けたときでも、決して、鳥を殺さないでほしいと言ってきたところだ。


その神社から御神木について相談したいと連絡を受け、木山さんと田中先輩の3人でやって来た。また、生き物の可能性もあるから僕らもついてきたんだ。



「柊の葉の形が変わった?」

「はい。そうなんです。もしかしたら神の怒りに触れたのじゃないかと怖くなりまして。」

僕には普通にギザギザした柊の葉に見えるけど。それとも怒りに触れるような、そんな罰当たりなことをしたんですか。

「カワウ被害を受けた際、少し剪定していただきましたが、その伐採した枝をお焚き上げをして燃やしてしまうには忍びなく、御神木を入れたお守りとして販売したんです。これが本当によく売れまして、お蔭様で結構な売り上げとなり、いろんなものを買い替えたり、神社を修繕することができました。それなのにまったく御神木にはお返ししていなかったもので、お怒りになったのではないかと。」


木山さんは柊を見ると嬉しそうに

「ああ。若返りをしたんですね。」

「若返り?」

柊は老木になると、だんだんと葉の棘が鋭くなくなって丸みのある葉になる。『年を取ると丸くなる』の語源になった木だ。棘は動物の食害を防ぐためにあると言われ、大きくなった木は、その心配が少ないから丸くなると言われている。


「この御神木の樹齢はどのくらいと言われているのですか?」


「400年前の書物にはすでに記録がありましたから、それ以上です。」


「柊は老木になると葉が丸くなりますが、動物に葉を捕食されたり、剪定をすると、また棘がでてくると言われているんです。なかなか若返りをする場に出会う機会はないので、私は運が良いですね。」

木山さんは嬉しそうに話す。


「若返りですか。ずっと気がかりではあったんです。カワウの被害対策のとき、一度、きちんとケアした方が良いと言われたのに、それなのに何もしていなかったもんですから。いつかしよう。いつかしよう。次はきっと、と。」


資金がなかったのもあるだろうが、なかなか御神木に手を加えるのは勇気がいるものだ。

祟られないかと不安に感じて氏子さんが反対して、なんてのは、あるあるで、だから後手に回ってしまう。

また、手を加えても、剪定して刈り取った枝などをきちんと供養してほしい、産業廃棄物ごみとして捨てないでほしいという要望も多いんだ。信仰って難しい。

「樹齢が高い木ですし、少し元気がないですのでケアをした方が良いですが、神の怒りと考えるのは早計です。むしろ、常緑樹は枯れない、永久の命を象徴するものでもありますから、若返りとして縁起の良いことに受けとめられてはいかがでしょうか。」

こういう言い回しの上手さは、木山さん、流石だなと思う。

縁起が良いと言われたら、気持ちは悪くはならないからね。


神主さんは少し黙ってから神妙な顔をし、囁くように

「こんなことを言うと笑われるかもしれませんが、私は(もや)のような何かを見たのです。錯覚かもしれません。私は神の御使いだと感じました。私に何かを伝えようとしているのではないか。今回も柊が葉の形を変えることがある木だと知っていても、目の当たりすると、何か私に伝えようとしているように思えるのです。だから、自分の思い付くこと、気がかりになっていることは全てやりたいのです。」

信心深い人だな。神主さんって、みんな信仰に厚いのかな。

「承知しました。柊もカワウの件でずいぶん弱ってしまっていますので、しっかりケアしましょう。」

神主さんは安心したような、穏やかな笑顔で破顔した。

「正月には間に合いますでしょうか。」

「具体的な期間はしっかり拝見させていただいてからですが、お急ぎでなければ年明けを考えています。来週には酉の市があり、煤払いが終われば正月です。神社としてもお忙しい時期ですし、境内にいろいろな飾りもありますので。」

神主さんは少し悩んでから「そうですね。その方が良いかも。」と自分自身を納得させるようにウンウン頷いている。悩むことでもないと思うんだけど、やっぱり、祟られるかと不安なのかな。そんなに、そのお守りってガッポリ儲かったの?


「ところで、せっかくですから、私もそのお守りを購入したいのです。たいへん人気だと伺っておりますが、まだ残っていますか?」

「あ。はい。売り切れてしまうことも多いのですが、正月用にちょうど作っていますので。千六百円と少しお高めですが宜しいですか。」

今度は木山さんが嬉しそうに破顔した。


神主さんが席を外すと、木山さんは恥ずかしそうに僕らに言い訳した。

「樹木医になって初仕事なので願掛けをしようと思いまして。結構、御利益があるらしいんです。」

田中先輩は合格したことを知っていたようで、「おめでとう」とニカッと笑った。僕は樹木医の試験を受けたことも知らなかった。この間の研修もその講習だったんだって。疑っちゃったけど、本当に研修だったんだ。


お守りは、中に御神木の欠片を入れてあり、神の御力を分けていただくものなので、いろんなことに御利益があるんだという。剪定したのは、ほんのちょっとだけだったから「本当に御神木?」って疑ったら、木山さんが、たぶん、鉛筆の芯程度の大きさしか入っていませんよと教えてくれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ