<その後>カンムリカイツブリ
渡り鳥がやって来た。
「あ。本当だ。いるいる。」
権之助川公園にいたカンムリカイツブリはすっかり美しい白色の冬羽になっている。
「本当に二羽だ。仲間が来たんですね。」
カンムリカイツブリが二羽、仲が良さそうに並んで泳いでいる。
「番だったらいいな。カイツブリは生涯同じ相手と添い遂げるんでしょ。ずっと夏の間、一羽だけで頑張ったんだ。この一羽が待ち焦がれた奥さんだと嬉しいな。」
田中先輩はゆっくり鼻で息を吐くと、どしりと車止めに寄りかかった。
「俺は逆だな。もし、自分の奥さんなら会えて嬉しいけど、俺のことは忘れてくれって思う。奥さんの立場になってみろよ。群れで一緒に繁殖地に来たはずなのに、着いてみれば夫はいない。まわりにはラブラブな夫婦ばかりで、仲よく雛の面倒をみている。まわりはみんな家族なのに、自分だけいつも1羽。辛かっただろうと思う。いっそ、オシドリのように愛の多い鳥ならよかったのに。」
オシドリは毎年パートナーを変える愛の多いタイプの鳥だ。オシドリ夫婦というけど実は浮気性の鳥なんだ。カイツブリは一生パートナーを変えない。パートナーが死んだのではなく、はぐれたと思っていたら新たな番をみつけることもしなかっただろうから、ずっと一羽でいたはずだ。孤独感で心が折れそうだっただろうな。
「田中さん、奥さん思いっすね。」
田中先輩は「当たり前だろ。」ってドヤ顔だ。
「他の仲間はどこにいるんだろう?」
「浄水場の溜め池にいるよ。」
!!!
びっくりした。
菅原さんだ。鳥を見ていて、まったく居ることに気が付かなかった。
「鴨が勢ぞろいしていたよ。マガモ、コガモ、オナガガモ、スズガモに、あとオシドリもいたよ。」
浄水場の溜め池には、毎年、数え切れないほどの渡り鳥がくる。まるで、そこが狩猟できないことを知っているかのようだ。だから、知る人ぞ知るバードウォッチングスポットになっている。
「今日はパトロールですか?」
「ああ。この少し上流で鳥が1羽死んでいると通報があってね。念のため、少し見回っているんだ。」
「もう、鳥インフルが出たんですか。」
菅原さんは「違うよ」と手を横に振る。
「このまま終わってくれれば良いけど。昨年は隣の県で出たから、役所も養鶏業者もピリピリしてね。鳥インフル以外でも鳥は死ぬのに、その都度、たいへんだったよ。」
鳥が死んでいる通報があると鳥獣保護管理員の菅原さんに連絡がいき、他の場所でも死んでないかパトロールをする。高病原性鳥インフルエンザ対応だ。この話題が出ると、冬が来たって感じがする。
養鶏業者さんも大変だと思うけど、本当にピリピリ神経質になるんだ。初めて対応したときは驚いた。近くで死んでいた鳥を片付けただけなのに、僕なんか保菌者のような扱いを受けた。もし感染した鳥だったら菌が服などに付着しているから「敷地に入らず、そのまま帰れ。」と大声で言われたんだ。自然死の方が多いのに。そんなだから、近くの道路などで鳥が死んでいても養鶏業者は決して片付けない。道路管理者である市や県に通報し、すぐに片付けさせる。誰も片付ける人がいないときは僕らの出番だ。自分で片づけると、そのときに付着した菌を持ち帰る結果になるから、絶対にしない。ホント、もうピリピリ感が尋常じゃない。
菅原さんはカンムリカイツブリを見てから、僕の顔を見て優しく肩をたたいた。
「仮に番だったとしても期待してはだめだよ。来年は来ないかもしれない。繁殖地に一緒に行けないということは夫婦として生活できない。子孫を作れない。そういうことだよ。」
そうだ。卵を産んで、夫婦で一緒に子育てできないんだ。田中先輩の言うとおり、いっそ、オシドリのように毎年、相手が変わる鳥なら割り切れたのに。
カンムリカイツブリは、来年、また、一羽だけになるかもしれない。
それは、とてもとても切ないことだけど、だからこそ、せめて今年の冬だけでも、仲睦ましく幸せに過ごしてほしいな。




