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第42話 イノシシ③


「それで猟友会が手伝うことにしたんですね。」

会長は困った顔でごまかすように笑った。


「足りてますか。人。ワナを設置するんじゃ毎日ですよね。見回り。それもボランティア(無償)なんじゃないんですか。」

田中先輩が気遣って声をかける。

ワナを設置したら、毎日、見回りをしないといけない。放置はダメなんだ。

地区会長は「もう少しだけ頑張ってみるよ。まぁ。仕事を続けていたらできないけどよ。引退してるし、暇だからね。それに市の職員も毎日見回るって言っていたから。」と少し疲れた顔で笑っていた。

偉いよ。おじさん達。市の職員は仕事だよ。ボランティアじゃない。偉いよ。本当。僕なら絶対やらない。


「実はな。ワナにはかかんねぇと思ってんだ。市役所には悪いがな。それでエエんだって思っでる。まだ悪さしていない獣だ。これまでだってきちんと人と住み分けができてたんだ。追い払って戻って来ねぇようなら別に殺さなくてエエ。それに在来種があまりいなくなっちまうと変なのも増えるで。」


そう。何でも捕獲して殺処分すればいいってもんじゃない。猟友会の会長さんって意外に環境に思い入れがあるっていうか、鳥獣保護派なんだな。


「ああ。最近はアライグマが凄く増えてますね。今じゃ、わが社の稼ぎ頭ですよ。」

そうなんだ。すんごい増えちゃって。

「そうだな。農家が泣いてる。それも、ほら、あいつら手で触って確かめるで。残ってもギズがついて出荷できなくなんだ。ひでぇもんだ。育てたのが全滅だで。そういうのが増えんのも困りもんだ。」

全員が『本当にそうだ。』『困りもんだ。』なんて話で盛り上がる。この間なんか、アライグマが郊外の大型スーパーの駐車場を親子で闊歩していた。あまりに普通にいて、わかんなかったよ。


「それになぁ。昔っからいる獣にゃ、俺たちが知らねぇだけで、結構、自然の中で役割があったりすんだ。適当に減らすんのはエエが追いつめちゃなんねぇ。」


そういえば、同じようなこと、祖母(ばあ)ちゃんも言ってたな。だから、毎年、庭にあった柿、全部採らずいくつか残すんだ。『鳥にくれてやるんだ。それが昔からのマナーだよ。』って言ってた。


でも、この仕事して学んだよ。

祖母(ばあ)ちゃん。違うよ。鳥じゃない。

鳥が食べるくらい熟れて柔らかくなる前に、まずアライグマが食べて、食べかすを地面に捨てちゃうんだ。その食べかすを、タヌキが拾って食べるんだ。だから『鳥』じゃなくてアライグマとタヌキだ。

タヌキは木に登れないから、地面に落ちたものを綺麗に食べるんだ。

ん?

もしかして、タヌキの役割はお掃除屋さんなのかな?

最近、疥癬で禿げてんのばかりで心配だな。

お掃除屋さんがいなくなったら、地面には潰れた柿がグチュグチュのまま、ずっとあるのかな。

嫌だな。掃除がたいへんそうだ。


あれ? じゃぁ、鳥は何を食べてるんだ?



その数日後、トラックに積まれて箱ワナが到着した。屈強な男6人がかりでやっと持ち上げられる重さだったという。道路わきに設置され、撒き餌には弁当が使われた。イノシシが目当てにしている物を置く方がかワナにかりやすい。人間で言うと、ラーメンを食べたいときにラーメンに誘われたら食べに行っちゃうのと同じだ。まぁ。農作物を使いたくなかったのもあるだろう。


だけど、やはり鉄格子は異質だ。その後、その場所にイノシシが寄り付くことはなかった。

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