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第40話 イノシシ①


「社長。申し訳ないのですがイノシシの捕獲はお断りしましょう。」


いつの間にか九根川の河川敷に住み着いていたイノシシが、最近、河川敷と平行して走る国道のバイパス沿いに出没するようになった。バイパスを超えると田んぼが広がるが、稲刈り後ということもあり、今のところ目立った農作物被害の報告はない。もちろん、人身事故もない。イノシシなんて、これまで出没したことがなかった地域だから、夕暮れ時に街中に出没して大騒ぎになったんだ。

一応、サルやイノシシは人間に危害を加える可能性のある鳥獣として位置づけられているから、見かけられたら市役所や警察に通報される。市役所は、先日のサルの騒ぎと同じような轍を踏みたくない。被害はないけど、初めからイノシシを害獣として決めつけ動いている。長引くと外野がうるさくなるし、早期に解決したいのだ。

ただ、通報を受けて現場に駆けつけてもイノシシはいない。イノシシは臆病だ。遠くの自動車から見ることができても、人が近づくと逃げる。バイパスの車の喧騒に紛れて、人の少ない場所を移動している。人家の庭や屋敷林を通り抜けているのではないかと言っていた。


「やっぱり難しいですか。地元の猟友会にも断られちゃったようで、市役所に頼みこまれたんです。どうにかなりませんかねぇ。」

「え? 猟友会が断ったんですか。」

「ええ。市役所からはそう聞いています。イノシシは、結構、大きいらしくて、市民の方から怖いと通報が多く対応に苦慮しているみたいなんです。」


田中先輩が首をかしげ悩んでいる。

「社長。まず、うちにはイノシシ用のワナがありません。ワナを買えば設置はできますが、たぶん捕獲はできません。イノシシは縄張り意識が低く設置場所が難しいんです。それに、人が多く住む場所、特にバイパスのような不特定多数が行き交う場所でワナの設置は危険です。人間の子どもを錯誤捕獲するなんて冗談にもならない。地元の猟友会が断っているんですよね。理由はなんですか?」


「理由ですか?」

社長は『はて?』という表情をする。


県境の田舎の町だが、九根川と街道がぶつかるこの辺りは、昔はとても栄えていた町だ。陸運が発達するまでは水運が主要な移動手段だったから、川沿いに住宅が多いのもその名残だ。だから、河川敷に住むイノシシは住宅や店舗がある区域を超えないと農地にたどり着けない。そもそも通常は臆病なイノシシは河川敷から出ないのだ。実際に、この地域でこれまでイノシシの被害など聞いたことがなかった。住宅街ての目撃情報さえもない。


「猟友会の知り合いに、ちょっと事情を聞いてみます。」

社長は田中先輩の背中をトントンと軽く叩く。

「悪いね。」

社長も渋い顔をする。

「なんか嫌な予感がするねぇ。市役所には難しそうだと言っておこう。断るときは早い方がいいですからね。」


その後すぐに、田中先輩が菅原さんを通じて地区猟友会に事情を聞いてくれた。


今は狩猟期間だから許可がなくてもイノシシを捕獲はできる。

しかし、この辺りは住宅が多く、国道などの主要道も通っているから、威嚇射撃でも銃は使えない。子どもやペットが多くいるから、くくりワナも使えない。走りまわって遊ぶ子どもを錯誤捕獲なんてしたら大騒ぎだ。だから捕獲するなら檻のような形の箱ワナだ。

もともとイノシシ被害がない地域だから、地区猟友会の中にイノシシ用の箱ワナを持っている人がいなかった。他の猟友会にも問い合わせて、山間部で持っている人がいたが自分たちのイノシシ被害対策で既に使っていた。イノシシが入っても壊れない頑丈なものだから大きくて重い。重さの単位はトンだが、本当に運ぶ気なのか確認されたという。

加えて、箱ワナでのイノシシ猟の経験がないため、経験者にもアドバイスをもらいたい。地区猟友会会長が、ワナの設置方法等を確認したら、そこでは農作物被害があるので籾殻を餌に使っていた。そのイノシシは何を食べているのか聞かれ、答えられなかった。知らなかったのだ。

箱ワナは、明らかに人工的な鉄格子が丸見えの状態になるので、警戒心の強いイノシシは設置しても近づかない。だから誘引目的の撒き餌は欠かせない。そして、警戒を解くために、しばらく餌を与え続ける。

そこにイノシシ以外の鳥獣も寄ってくる。その結果、その獣達にも農作物の味や餌場として覚えさせてしまう。餌付けしてしまうのだ。箱ワナは被害が繰り返しでているところの対策なのだ。

今は農作物被害はない。イノシシを捕獲できるとは限らない。必ず取り逃す鳥獣がでる。今度は餌場として記憶した鳥獣によって間違いなく被害が拡大する。

だから市役所には追い払いを提案した。


それを聞き、社長は胸を撫で下ろした。もし、受注して、イノシシを取り逃がしたら、住宅街を餌場と認識したイノシシが頻繁に出没するようになる。

おまけに、やんちゃな子どもに達を錯誤捕獲して、怪我をさせたら大事だ。


依頼を断った数日後、菅原さんが会社に訪れた。

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