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第4話 アライグマ④

翌日もアライグマが2頭、ワナにかかっていた。


僕は、同じように市役所に電話し、動物病院に連れて行った。

その間、ずっと、田中先輩と山田課長と依頼主は話している。

2人して頭下げているから、きっと謝っているんだ。

なんだか釈然としないけど。

今日、サヤカちゃんも来たんだけど、とりあえず依頼主が落ち着くまで、僕を手伝うようにいわれて、こちらを手伝ってくれている。

きちんと逃げない彼女は凄い。

サヤカちゃん、気になっている様子で、ちらちら母屋を見ている。

「きっと大丈夫だよ。サヤカちゃん。」

君が気にすることなんかないんだ。

ホント。


依頼主には腹が立つけど、サヤカちゃんのために頑張ろう。

昨日、掃除はしたが、もう一度ひととおり掃除した。

水洗できるものはして、念のため庭には石灰もまいた。

そろそろ作業も終わるという頃になって、2人して母屋に呼ばれた。

さっきより雰囲気が良い。談笑している。


「そろそろアライグマも別の場所に行くと思うんで、もうワナにかからないかもしれないですが、念のため、今日もワナかけときます。」

田中先輩はそう言うと、僕に「頼むな!」と目くばせした。


まかせろ!


持ってきたワナを畑や納屋の周りに設置した。アライグマの採り残しがないようにしないと、別の場所でまた繁殖してしまう。

いなくなる前の、この数日が勝負だ!

おー!!



その日の夜は、山田課長たちと飲みに行った。

残念ながら、サヤカちゃんは帰ったけれど。

チェーン店でなく。地元の人が小ぢんまりとやっている騒がしくない店だ。


「大丈夫だったんですか。」

「ああ。最後には言い過ぎた、悪かったって言ってたよ。八つ当たりしちまったって。

サヤカくんにも「悪かった」って謝っていたし。」


そういえば、帰り際にサヤカちゃん、何かお菓子もらっていた。

あのとき謝ってもらえたのかな?


「補修は、無料というわけにはいかないが勉強しときますよっと言っておいた。

壊すか、直すか、息子が帰ってきたときにでも、相談してみるって言っていたよ。いつまで農家続けられるかわからないし、悩んでるみたいだ。」


「息子さん、東京でサラリーマンでしたっけ?」

山田課長が頷く。


「もう、歳とって、身体が言うことをきかなくなってきてたんだよ。納屋も管理ができなくなってたとこに獣が住み着いた。普通ならもう少し早く気がついたさ。被害は糞害だけじゃないだろうしな。それが一番わかっていたのは依頼主のおやっさんだ。」


農家あるあるだな。

出荷できない廃棄予定の農作物も管理しきれてないから、結局、野生動物を餌付けしちゃう。


「納屋は、先代が自分で建てたといっていたが、彼も手伝ってたみたいだよ。

だから、あの納屋には、思い入れがあるのさ。

土壁を一緒に作った話もしていた。建て替える金がないのも嘘じゃないが、納屋を壊したくないんだよ。」

山田課長のジョッキは、さっきから全然減っていない。なのに、握ったり離したりを繰り返している。

「サヤカちゃん、怒鳴られて、ずいぶん落ち込んでたけど大丈夫かな。」


「あぁ。アイツならきっと大丈夫だ。それに遅かれ早かれ新人の通る道だしな。」


なんだそれ。

新人の通る道だから我慢するのが当然ってか?

ふざけるな、だ。


「新人の通る道って何ですか!

いつだって、サヤカちゃんばかりがきつい仕事です。新人だから嫌な思いをしても良いんですか。怒鳴られたんですよ。大丈夫かもしれないけど、傷つきはします。

本当に天井板がたわんでいて、いつ落ちてもおかしくない状況だったんです。」


いつだってサヤカちゃんは割りのあわない仕事ばかりだ。今回も怒鳴られて、まるでサヤカちゃんが悪者だ。納得いかない。


「まあな。

要望どおりのものを作っても気に入らない依頼主は多いんだ。資金ぐりや家族の要望、介護やら、誰もどこかで妥協しているからな。

普通は心の中だけで文句言って終わるけど、今回のようにきっかけをつくっちまうと、捌け口になっちまうのさ。

新人の多くは、理不尽だ、パワハラだって騒ぐがな。」


「理不尽ですよね。理不尽なことを理不尽だ言うのは当然じゃないですか。

だいたい人の嫌がる仕事は、いつもサヤカちゃんで、それで苦情も対応して、なんか納得いかないっす。」


「ありがとう。気にしてくれて。

まあ。確かに理不尽たな。

でもな、どの世界にだって似たようなことはある。

それを言い訳に、不平不満ばかりで、すぐ仕事やめちまうヤツもけっこう多い。

彼女は可愛がられている分、妬まれるしな。

いろいろ踏ん張ってるよ。

どんな仕事も続かねぁヤツは、いつまでも1人前にならない。面白くないからって、転職するのはいいが、何か所か職場が変わって、自分に実力がついてないことに気が付いた時には同期とすごく差が付いてるのさ。

そういうのに限って、俺もやればできたなんてデカい口をきいて、人を妬むんさ。」

山田課長はドラマのお父さん役のような穏やかな顔をしていた。くるりと僕に向かいニヤリと笑う。

「彼女は見込みがあるだろ。

気に食わないことなんか山ほどあるだろうに、頑張っている。」

ジョッキを見ながら、自分の言葉にうんうん頷く。

「技術なんてな、後からついてくる。

職人の基本は腕だけじゃない。基本は『人』さ。

信用されなきゃ仕事も来ない。

文句言うのも人なら仕事を持ってくるのも人だ。

だからな。

・・・

彼女はきっと良い職人になる。

たぶん、必ずな。」


田中先輩は本当に静かに相づちを打った。

「私もそう思います。」


なんだか納得いかないけど、それでもサヤカちゃんが認められていることがとても嬉しかった。


「まあ。鈴木ちゃんも、引き続きサヤカくんと仲良くしてやってよ。年齢も近いしさ。」

「もちろんです。」

なかなか、あんないい子いないよ。

「そうだ。彼女がお前のことも褒めてたぞ。よかったな。」

いやらしく下品に笑う山田課長。

なんでお前が言う、スケベ親父。

そして、なぜ、サヤカちゃんを好きなことがばれている。


あれ?

ところで、サヤカちゃんって、総合職じゃなかった?

いつから職人枠に・・・???

スケベ親父! 

勝手にサヤカちゃんを自分と同じ技術者採用にするな!



翌日、2日酔いになったので、ワナを確認にいくのが午後になった。

アルコール濃度はクリアしたけど、安全第一だからね。

でも、後悔した。

輝くほど毛並みのきれいなペルシャ猫がワナに入っていた。午前中から行方不明だった隣家の飼い猫だった。

そして、僕は、鬼のようにヒステリックになった昔きれいだった奥様に謝りに行く。


今、僕は改めて思う。

サヤカちゃん、君は凄い。


次は、クビアカツヤカミキリ又はかいぼり で考えています。

書き終えたら書き終えたら投稿します。

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