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第32話 祭りとカンムリカイツブリ④

カンムリカイツブリは、名前のとおり、頭に冠のような黒い羽毛があるカイツブリだ。特に夏羽は華やで、雛もゼブラのような模様で可愛い。実物を見ると、首なんかシュッとしていて、本当にクールで洗練されたモテ男って鳥だ。

そして、カイツブリの子育てがまた可愛いい。雛を背中におんぶするんだ。夫婦ともに子育てし、生涯、同じ相手と添い遂げる。カイツブリは慈愛に満ちた鳥なのだ。決して珍しい鳥でなく、昔から人の身近にいて、琵琶湖なんか、(にお)の海と言われていた。(鳰はカイツブリの古い名前)



「羽に何かあるか? 釣り糸とか。」

一斉に羽に注目し、ジッと見る。


「「「わかんねぇ~。」」」

重鎮方がハミングする。


「騒ぐな。騒ぐな。潜られたらわかんなくなるぞ。」

カイツブリは潜水を得意とする。羽に何かあるなら、潜って逃げる。

「形におかしいところがないよな。うーん。」

「どうみても羽が怪我しているようには見えねぇんだよな。動きもそんな違和感ないし。」

「捕まえられりゃ、わかるがぁ、陸にあがらねぇ鳥だからなぁ。」

カイツブリは巣でさえ水の上だ。ほとんど陸に上がらない。


「足か?」


「そうだな。足なら逃げるときは潜るぞ。飛べないからな。潜る瞬間に少しだけ『足』が見えるはずだ。」

その場にいる人全員がカンムリカイツブリの潜る瞬間を待ち構える。

掬佑くんはスマートフォンを構えて静止している。録画モードだ。ホント、賢い子だな。


スッ、と、カンムリカイツブリが音も立てずに水面からいなくなる。

一瞬、その場が静かになった。

「わかったか?」「わかったか?」

何人かの囁く声が聞こえる。


「「「わかんねぇ~。」」」


掬佑くんのスマートフォンで録画した画像を、何人かで『アップにできるか?』と言いながら覗きこむ。日焼けした恰幅の良い男達が少年を囲んで、老眼を酷使し、スマートフォンを遠くにしたり近づけたりしている。

「「「やっぱり、わかんねぇ~。」」」


「ねぇ。田中さん。鳥って足を怪我すると飛べないの?」

掬佑くん、そうだよね。

僕も羽が何ともないなら飛べると思うよ。


「カイツブリは、飛び立つのに助走が必要なんだよ。空を飛べることができても、足を怪我すると飛び立つことができないんだ。」

水面を蹴りながら走って飛び立つ鳥だ。


「あ。あそこに出てきた。」

一斉にそちらを見る。

「誰か望遠のカメラ、持ってないか。倍率が良いやつ。」

もともとスマートフォンのカメラも上手く使えてない人達ばかりだ。


「私がちょっと撮ってみますよ。」

テレビ局の人だ。肩に高そうなカメラを担いでいる。

いつからいたの?


菅原さんが、「潜るときは頭から入る。足は後ろの方、カルガモより尻の方についてる。だから後方から撮る方がいい。」とアドバイスする。



皆で固唾をのんで潜るのを待つ。

・・・。

スッー。また、気がつくといなくなった。

「撮れましたか?」


カメラを降ろして、その前後の画像をだしてくれた。

「これだ。これが足だ。」

尾に近い位置にある。だから歩くのが苦手なんだ。

菅原さんを中心に猟友会メンバーが覗きこむ。

似たような色で分かりにくい。画像をアップにし、確認する。分かりにくいが、水掻きのある指の部分が欠けて、なくなっている。

欠損していたんだ。

菅原さんが腕を組みながら、きっと、川の中に残った釣り針か釣り糸で怪我したんだろうと言っていた。だから、飛び立てず、仲間と一緒に繁殖地に渡れなかったんだ。


皆が繁盛地に去っていくときは、きっと寂しかっただろうな。1羽だけということは(つがい)はどうしたのかな。カイツブリはパートナーを変えない鳥だ。それとも奥さんに置いていかれたのかな。

テレビ局の人が治療できないか聞いていたが、菅原さんは首を横に振っていた。自分で餌を採ることができているし、捕まえるときに怪我をさせるリスクがあるから、見守りが基本だと説明していた。


その後、僕達は木山さんの応援に向かった。

しかし、猟友会のおじさん達のカイツブリ観察会は盛り上がり、1時間以上続いたらしい。もともと野鳥好きの人達だから話が弾んだんだね。

結局、川中さんは昼どきの2時間、繁盛した猟友会ブースで座ることもできずに働き続けることになった。


川中さん。お疲れ様です。

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