第29話 祭りとカンムリカイツブリ①
今日は、権之助川公園の秋祭りだ。
結局、木山さんはこの祭りのカラオケ大会に出場することになった。
権之助川公園は、遊水池を中心にして楕円形のすり鉢状になっている。大雨が降ったとき、わざと水没させ下流域の決壊を防ぐのだ。だから、比較的高台にある広場でのイベントでも雨が降ればすぐ中止になる。
しかし、この祭りだけは、中止ではなく延期になる。何年か前にほかの遊水池で子供が溺れる事故が続いたので、単なる都市公園ではないから、雨の日は近付いてはいけないということを皆に知ってもらわなければならないと言う理由らしい。
昔、土手が決壊して亡くなった方々の慰霊も行うため、祭りには、このあたりの自治会の役員、市や農協の偉い人達、皆が出揃う。そして、開会の挨拶も長い。権之助川公園の歴史から話が始まるからだ。続いて献花だ。すでに子ども達は話に飽き、すり鉢状になった芝の坂で、きゃぁきゃぁとそり遊びをしている。
退屈な開会式が終わると、田中先輩とひととおり挨拶まわりだ。受付に行くとスタッフから声をかけられた。
「白浜さん、白浜造園さん。このたびはありがとうございました。いろいろと。」
スタッフが指差した先を、思わず二度見してしまった。僕の作ったヘチマタワシだ。
どういうこと?
ヘチマタワシとグリーンカーテンのチラシ、花の種がセットになってビニールの袋に入れられ、参加賞の景品の一つとして並べられている。
「いやぁ。守る会が直前になって来場者数が増えるかもしれないって言うもんだから、慌ててスタンプラリーの景品を追加することになったんです。御社にはすぐに協力していただいて助かりました。社長にもよろしくお伝えください。」
「いえいえ。こちらこそ。たいしたもんじゃなくてすみません。実は何かの苗にしようかという案もあったのですが、お客様が持って帰らなきゃいけないでしょう? マンションの人もいるし、だから辞めたんです。」
「そうなんですか。私は苗も良かったなぁ。」
「実は、ヘチマタワシは、うちの鈴木の力作なんです。」
「そうですか。子供の頃はこれで身体を洗いましたよ。懐かしいなぁ。この量は大変だったでしょう。」
そうなんだ。大変だったんだ。
干したヘチマの中の残った種を一つ一つ丁寧にとって、もう一度、きれいに洗って干しなおした。ヘチマの繊維の間から種を抜くから、途中でイライラしてきたよ。
「へぇ。鈴木さんが作ったんですね。じゃあ、私もスタンプラリーに挑戦しようかな。」
あ。サヤカちゃん!
「ぜひ。プラスさんの皆さんの分もお持ちください。欲しい景品があるときはお早めに。」
受付スタッフは、そう言って数枚のカードを手渡す。
すでにスタンプラリーは始まっていて、あちこちで子ども達がスタンプを押してもらい、答えあわせをしている。
サヤカちゃんもカードと景品を交互に見ながら、「頑張りますねっ。」とブースに走って戻っていった。
公園の広場には、階段が大きくなったような段々のステージがある。ちょうど、カラオケ大会の出場者の打ち合わせが終わった様子だ。
「あ。いた、いた。木山さん! 応援に来たんです。」
僕は木山さんに手を振る。
「ありがとうございます。田中さん。鈴木さん。でも、カラオケ大会は午後からですよ。」
田中先輩は肩をすくめ
「私は猟友会の中では若手なので手伝わないと。午後でちょうど良いくらいです。鈴木くんは、まぁ、どうでも良かったんですが、連れてきました。」
木山さんは嬉しそうに笑い、
「今年は何のジビエ料理ですか?」
「豚汁をイノシンの肉で作ります。掬水酒造の酒粕入りですから、美味しいですよ。」
「それは楽しみです。あそこの酒粕はふわふわで美味しんですよね。私は県のブースで腐葉土をゲットしたらすぐに伺います。腐葉土は、毎年、昼には売り切れてしまうので先に行かせてください。」
田中先輩は「どうぞ、どうぞ。」と仕草で返す。
河川敷などの除草ででる草は結構な量になるらしく、米糠などを加えて腐葉土を作り、通常は公園の花壇など役所の中で自分達が管理する場所に使っている。それが、こういったイベントでバカみたいな安価で販売される。マニアには人気で、まとめ買いをする人がいるので(そのうち一人が木山さん)、最近は一人2袋までになった。
「そうだ、木山さん。悪いですが、こいつに祭りを案内してやってもらえませんか。私は猟友会ブースに行ったら捕まってしまうので。」
田中先輩が僕の背を押しだし、木山さんに聞こえるように囁く。
「木山さんへのお礼は腐葉土が良いですよ。」
木山さんの細い垂れ目が、一瞬キラリと輝いた。
え?
「さぁ。鈴木さん。行きましょう。」
木山さん。そんなに腐葉土が欲しかったんですか?
大人なんですから腕組まないでください。
なんだか拉致された気分だ。
本当に腐葉土は人気のようで、すでに並んでいる人で列ができていた。なんで?土だよ。本当に昼にはなくなりそうだ。どうにか2人分4袋の腐葉土を手に入れることができた。
「鈴木さん。腐葉土を車に置いたら、次はドレッシングに行きましょう。」
「ドレッシング?」
「ええ。ドレッシングの詰め放題をやっています。なんと!300円ですよ。」
権之助川に隣接しているドレッシング工場のブースで、1回使いきりサイズのドレッシングの詰放題をしている。安価でいろいろな味を試せるからオススメだと言う。その後は、直売ブースにドレッシングに合う野菜を買いに行きましょうって。木山さん、めちゃくちゃエンジョイしていますね。




