第28話 グリーンカーテンの後始末(ヘチマ編)②
失敗したときに限って、誰かが様子を見にくる。
日枝さんが鍋を覗き込み、すでに透明になって繊維がないヘチマを見て、ふふっと笑う。
「少し収穫が早かったものですね。何事も経験です。」
日枝さん。煮ると崩れて溶けるって知ってましたね。
僕は少しムスっとする。
「繊維がまだ、しっかり形成されていないうちに収穫したものです。なかには、一部繊維が残るものもありますよ。」
確かに、1つのヘチマなのに煮て繊維が残るものもある。
「こちらのヘチマは、煮ない方がよいですか?」
日枝さんは、少し考えてからにっこりと笑い、干して様子を見てみましょうと言った。
ついでに、干して作るやり方も教えてくれた。干す方が簡単じゃない? 干すだけだよ。こんなに量があるしさ。
「3つのグループ分けは意味があったんですね。」
日枝さんは、うんうん頷き、
「乾かした後、ヘチマを触るともっと分かりますよ。繊維が太くしっかりしているものと、そうでないものです。」
種を採った成熟したグループのヘチマは、他のより固めのごわごわタワシだ。繊維の太さと密度が違うんだな。成熟するほど繊維がしっかりするんだ。
「乾くととても固いですが、少し濡らすとシナって柔らかくなります。それが市販のスポンジとは違うところですね。また、繊維がしっかりしたものは長もちします。」
「来年もヘチマにしますか?」
うーん。
使ってみて、とても重宝するなら考えるけど、食べ物にしようかな。
「せっかくだから違うものが良いです。昨年はゴーヤ、今年はヘチマだったから、来年はキュウリにしようかな。夏野菜だし。」
「おや。ふふっ。キュウリですか?」
なんだか、いつも採れすぎるんだよな。
半分ずつじゃダメかな?
「キュウリとヘチマの半分ずつでは駄目ですか?」
日枝さんが嬉しそうに、
「半分ずつですか。そうですか。」と言いながら、ふふふっ、ふふふっと楽しそうに笑っている。そこに木山さんが来た。
「日枝さんも、様子を見に来られたんですね。」
「ええ。今、鈴木さんと来年は何にしようかと話をしていたところです。彼はキュウリとヘチマの半分ずつにしたいと言うのです。さて、どうしましょう。何事も経験ですしね。」
日枝さんは上機嫌に、ふふふっと笑う。
「駄目ですか。」
木山さんに聞くと、
「駄目です。日枝さん、あまり鈴木さんをからかわないでください。」
「私はいたって真面目ですよ。来年の組み合わせを自分で考えるのも勉強です。前の教え子は、はじめから何でも器用にこなす、面白味のない子でしたから。」
と、ちらりと木山さんを見る。
「鈴木さん。瓜の仲間は交雑しやすいんです。気を付けないといけません。だから、その組み合わせは駄目なんです。」
そう言うと、「ほら、鈴木さんの邪魔しないください。」と日枝さんをつれていく。
交雑するから駄目ってどういうことだろう。
交雑って、違う品種で受粉して実がなるんでしょ。食べられるもの同士なら大丈夫なのかな。交雑して新たな品種とか、できたら楽しいよね。
新品種かぁ。新品種できたらどうしよう。
そうしたら自分の名前をつけよう。
キュウリの『スズキ』
ちょっとダサいかな。いや、まぁ、大丈夫だな。
グリーンカーテンで育てる食べられる植物と言えば、キュウリに、ゴーヤ、ハヤトウリ、ゆうがお(干瓢)、シカクマメ、そういえばヘチマも食べる人はいるよね。
あれっ?何で駄目って言われたんだ?
鍋を洗って生ゴミをまとめた頃、ちょうど木山さんが戻ってきた。
「少し休んだら、グリーンカーテンを片付けてしまいましょう。今日、完了するのは無理でも、落ちている種だけでも全部拾ってしまいましょう。私も手伝いますから。」
グリーンカーテンの下には、ヘチマの種が広範囲に散乱していた。収穫のタイミングを逃して、種が弾けてしまったものだ。
「種を拾うんですか? 全部?」
「ええ。来年、キュウリを育てたいのでしょう?残っていて交雑したら、毒入りキュウリになりますよ。」
「えぇ~。そうなんですか。」
ヘチマやユウガオ等のウリ科野菜には、ククルビタシン類?があり、食べると吐き気、おう吐、下痢などを起こすことがあるんだって。簡単に言えば毒だね。酷いと脱水症状を起こして生死を彷徨う。
だから、ヘチマのククルビタシン類をもらったキュウリを食べると大変だ。
怖っ。
「あ、でもでもでもでも、ヘチマを食べる人もいますよね。」
「このヘチマは食用ではありませんよ。鈴木さん。種は、ぜ、ん、ぶ、拾います。」
木山さん。そんなに強く言わなくても、分かります。
でも、疲れたし、もうちょっと休みたい。
食べるもの同士なら大丈夫なのかな。
「食用のもの同士なら、半分ずつにできますか。例えば、ゴーヤとキュウリとか。」
「自分の家で育てるなら止めませんが、その組み合わせをお客様には勧めません。お客様が収穫したキュウリを食べてゴーヤのように苦かったら、まず交雑したと思いません。農薬が残っていないか、土が汚染されたのではないかと不安になります。それに、味は食べてみないとわかりません。子どもなら一変に野菜嫌いになります。」
なるほどな。組み合わせって難しいもんなんだ。
「今、決めなくても、来年までにゆっくりと悩んで、今まで使用していなかった品種を試してみてもよいと思いますよ。」
木山さんはにっこりと優しく笑った。
ただ、両手には、種を集めるための大きな竹箒がしっかり2本握られていた。
やっぱり、やらなきゃ駄目ですね。
ああ、冷たい炭酸が飲みたい。
~~~後 日~~~
その後、干したヘチマがどうなったかと言うと、干したら、とても軽くなり、ヒュウっと風が吹くだけで簡単にいろんな所に飛んで行ってしまった。毎回、拾うのも面倒だからと、紐で結わいたら、成熟していないヘチマだったので、壁に当たったり、ちょっとの刺激でボロボロと崩れ、あげく中の種まででてしまうものもあって、結局、その掃除の方がとても大変だった。
そして、干したところで新しく繊維が作られる訳でなく、タワシにならないものは、タワシにならなかった。
トホホ。
ヘチマを全部干さなくて本当によかった。
種を拾い集めるのは容易じゃなかった。1本にすんごく沢山の種があるんだ。
あれっ?
もしかして、それがヘチマの策略だったのか?!
僕は学んだ。
それから、職場の冷蔵庫には常に3本以上の炭酸を入れている。




