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第24話 カワウ④


「かいぼりですか?」


かいぼりは、池や沼の水をくみ出して泥をさらい、天日干しするもので、農業用のため池を管理する方法の1つだ。市役所から相談を受けたのは、カワウの捕獲ではなく、公園の沼の水をきれいにする対策だった。


「近隣の農家さんからも、水を汚すなと苦情がありまして、カワウも沼の水を完全に抜けば、いなくなるのではないかという意見もあったもんですから、かいぼりをしたら一度に解決するんではないかと思ったんです。

しかし、うちの市では事例がないもんですから。」


「私たちも、かいぼりは専門外です。ただ、テレビで放映されてるから簡単にできるように思ってしまうかもしれませんが、そんな簡単にできるものではありません。少なくても、とても金がかかることは確かです。」

いつもにこやかな木山さんが渋い顔をしている。


「そうなんですか。良い案だと思ったんですが・・・。」

市の職員は、何か、もやもやとした表情をしている。


「近隣の農家さんからの提案ですか? なぜ、突然、かいぼりなんて話になったんですか?」


「いえいえ。ただ、自治会にH市にある白瀬下沼新田土地改良区に知り合いがいる方がいらして、その方が『かいぼりのテレビ番組のオファーがあったんだけど、時期や許可などの事情で受けられなかった』って悔しがっていたらしいんです。その話の流れで、かいぼりの案が出たんです。」


木山さんは『それでですか。』と合点がいったようだった。


「本気でかいぼりをするなら、時期的には秋から冬なのでピッタリです。代掻き(しろがき)前には水を溜めておかなければならないから、2月には水を入れ始めなければなりません。水を落ち着かせないと濁った水が田に流れてしまいます。

1か月以上干すことを考えると、逆算して年内に作業を終えてしまいたい。その間、沼に生息していた生き物をどうするかも考えておく必要があります。江戸時代なら雑魚を田畑の飼料にできたでしょうが、今はそんなことしたら非難されますからね。

沼から出てきたゴミは産業廃棄物ですので、分別し、処分業者に依頼をしなければなりません。また、底にたまったヘドロの処分も考えなければなりません。

水を抜くのも時間が必要です。雨も降りますし、1か月程度は見ておいたほうがよいでしょう。テレビのようにポンプ車を使うとしても、ある程度水を減らしておかないと費用が高くなりますから、本格的な作業が始まる前に水量を減らしておくんです。

そして、一番大切なのは人の確保です。ぬかるみの中での作業ですので、誰でも良いわけではありません。安全面や衛生面のケアも必要です。

住民の皆さんや関係者への事前説明もしなければなりませんし、全部を委託にしたら、とんでもない金額になります。お金も人も時間もかかるのが、かいぼりです。」


木山さんの説明を聞いて、市の職員は簡単ではないという意味を理解した様子だった。


「思っているよりも、事前の準備や調整がたいへんそうですね。それにお金もかかる。」


木山さんが大きく頷き、

「そうなんです。だからこそ、土地改良区が悔しがる気持ちもわかります。なかなか単独ではできないんです。金銭的にも人員確保という意味でも。テレビ番組であれば、市や地元の方の理解も得られやすいでしょう。何をするかテレビで見てますから。」

なるほどですね。


「ところで、白瀬下沼の水源は湧水だったはずです。そんなに汚れているという印象はないですが、テレビ番組は、なぜ声をかけてきたんですか?」

田中先輩が市の職員にたずねた。

「ああ。その方が言うには蓮です。誤報だったんですがSNSでバズったようです。白瀬下沼は蓮の花の名所ですが、数年前から蓮が全く咲かないんです。それが、外来のカメの仕業じゃないかって疑われたんです。あそこにもアカミミガメがいますから。実際には違ったんですけれど。」

「それで、外来生物を捕獲するって流れでテレビ番組の話があったんですね。」

「そうなんです。」


そのニュースなら覚えている。実際には、カメでなく、蓮の地下茎が泥の中で腐敗し湖底に堆積して、さらにメタンガスを発生させ、水辺環境を悪化させたことが原因だと言われている。かいぼりは湖底を干す。なおさら、やりたかったろうな。


今回の現場となった公園は落葉樹が多い。沼の中にも、ずいぶん落ち葉が堆積しているだろう。そこにカワウの糞害だ。

何か同じような環境になりそうな嫌な予感がした。

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