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第23話 カワウ③


市から予算が確保できなかったので、剪定できない。来年度以降になると回答があった。


剪定は、木が大きくなると費用は高くなる。その場所に重機を入れられるか、街路樹のように道路に人を配置して交通整理が必要かによっても変わる。だから多くの人が行き交う公共の施設は、個人宅より高くなる。

木山さんは、予算内でできる範囲を考えて、見積書を何種類か用意し市に渡していた。被害区域のすべての木々の剪定と網掛けを行うものと、とりあえず、被害が顕著な木のみを行う場合である。後者であっても、ある程度剪定しないとカワウの巣の場所が変わっただけで終わってしまう可能性が高い。

市は、来年度は予算要求すると言っている。実際に確保できるかはわからない。

疑似卵も上手くいかなかった。個体数は増えるばかりだ。

そこで、とりあえず、マンション管理組合や自治会に現況報告をすることになった。


市の説明の後、田中先輩が仕切り直しを提案する。

「当初の目的は生息数の抑制ですので、200個の卵については捕獲します。その先の予防策については、今回の捕獲とは切り離して、お金と相談しながら検討してみてはいかがでしょうか。」


自治会役員たちは不安気に質問をしてくる。

「最近は数が増えすぎて、子供たちも怖がっているんです。ジョギングする人も、このあたりだけ遠回りして車道に出ることがあって、危ないと通報があるんです。」


車道に出たくなる気持ちは、すご~くわかる。カワウもこれだけ集団になると怖い。そもそも鳥が苦手な人だっている。

話している途中に、突然、カワウの合唱が始まる。


『グ、グワッツ、グワッツ、ググ、

グワッツ、グワッツ、グワワワワ。』


カワウの鳴き声は大きい。下手くそな管楽器の音に似ている。音が割れているのに響くんだ。鳴きながら、ときには翼を広げ、バタバタ、バタつかせ、仲間どおしで喧嘩でもしているようだ。そばに寄らないようにするというのは、ごく普通の行動だ。街路樹にもいるから、車道側に寄ってしまう。ときには、車道にでる。たとえ歩道側であっても、急に人が出てきたら、運転している人はびっくりしてブレーキを踏むだろう。


「ずっと、卵を獲り続けることはできないんですか?」


田中先輩は首を横に振る。

「だいたい3か月が目安です。在来種だから、そこにいて当たり前ですし、川や沼で繁殖するのも当たり前です。捕獲していなければ、連続して申請しても許可されます。しかし、今回は捕獲しています。次の申請では被害に対して捕獲しすぎではないか、終了基準は何かと確認されます。

はっきり言えば、関係者以外の方、特に自然保護団体の方などに胸を張って言える言い訳がないと許可はおりません。何回も採り続けるには、平行して、被害を数値化するなどの調査をしていかないと。」


田中先輩はちらりと市の職員を見た。

「沼の水が農業用水にも使われているので、農業の予算で何かできないか問い合わせ中なんです。それを待って、もう一度、どのような対策がとれるか検討してみます。」

市の職員がうまくまとめた。

その後、いくつか質問があったが、『検討します』と繰り返し、乗り切っていた。


のちほど、市の職員が、マンション管理組合や自治会の方と打ち合わせをした後で、相談したいことがあるというので、公園で待つことにした。


落葉樹の多いこの公園は、秋の紅葉が本当に美しい。庭園の造られた美でなく、”今、そこにあるありのままの秋”という感じの紅葉なんだ。まだ、少し早いが木漏れ日も柔らかくて、ずっと過ごしていられる。


そこに、木山さんがやっと到着した。

珍しく遅刻だ。

「良かった。鈴木さん。遅くなってすみませんでした。ちょうど出るときにお客様に捕まっちゃって、仕事だからと断ったんですけど話をやめてくださらなくて。いやぁ。本当にまいりました。」

途中、走ったのか、頬を赤くしている。

「何かあったんですか。」

「いえいえ。仕事ではないんです。今度の権之助川公園で行う祭の件です。カラオケ大会があるからでてくれないかって。遠慮しますと前にも伝えたんですが、しつこくて。社長にもお願いしておきますからとまで言い出して、勘弁してくださいって言ったんです。」

木山さん、歌上手いですものね。

木山さんは遠慮がちに『私なんかまだまだです。』というけど、自信をもって良いと思う。

本当に上手いんだから。


「農作物の販売はいつもどおりですが、守る会のブースで、クビアカツヤカミキリの周知と寄付募集を大々的に行うので、地元のテレビ局に声をかけたようで。それで事務局が躍起になっていて、テレビ局が来るのに寂しいイベントでは困るからと、いろいろ声をかけている様子です。」

「へぇ。テレビが来るんですか。行ってみようかなぁ。」

「プラスさんもブース出すって言ってましたよ。上場企業ですからね。地元のイベントに誘われれば断れないでしょう。」

ということは、サヤカちゃんくるの?

絶対に行きます!


「あの、説明はひととおり済んだのですか?」

「あ。はい。これから市の担当者と打合せです。沼の件で相談したいそうです。」

木山さんは安心した顔になった。

「そちらには間に合ってよかったです。」

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