第21話 カワウ①
「じゃ~ん。狩猟免許、合格しました!」
やったぜ!
会社にも報告し、さあ、初仕事!
と、思ったのに、なのに、なぜ、手採り!?
手採りなら、狩猟免許をとらなくても良かったでしょう?
それも、鵜!
鵜だよ。鵜。
苦手なんです。鵜。
怖いんだよ。デカくて集団行動するから。
まさに黒の軍団!
首が長いくせに肉食(魚食)だよ。肉食の鳥といえば、戦闘機のような首の短いカイト型でしょ。青くてキラキラなカワセミだって首が短いんだよ。カワセミも捕食者だからね。
みんな、カワウの見かけに騙されている。集団で同じ方向に翼を広げて、気持ち良さそうに日向ぼっこしているからって、穏やかな性格とは限らない。気の強さや押しの強さはまさしく肉食だからね。日向ぼっこは、ただの虫干しだから!
ほら。木の上から真っ黒の瞳でこちらを見定めている。捕食者の目だ。
ひょぅぅ~、怖いよぉ。
鵜飼いはウミウだが、カワウは内陸の河川や湖沼などに住む真っ黒な鳥だ。同じように潜水が得意で魚を捕食する。繁殖期間は長く大食漢だ。だから、糞害だけでなく、エサとなる魚の水産被害も多い。大きさは体長約80cmと大きく、群れで生活をする。
実は、カワウの鳥獣被害は多いんだ。この前のカワウ被害は神社だった。その神社には樹齢数百年以上の古木たちと水か枯れることのない池かあり、自然豊かで、まさに鎮守の森があるんだ。そこに行くと清らかな空気に満ちていて、その厳かな雰囲気がいかにも神聖な神社という感じだった。
ところが、御神木にカワウのコロニーがつくられ、一変した。宮司さんからは、被害はくい止めたいけど、『殺生はごかんべんください』とか『御神木に足をかけるなど・・・』とか言われ、いろいろたいへんだった。結局、枝を少し剪定し、カワウがいないときに、御神木全体に網をかけて、カワウの被害、宮司さん曰く集団お参りを予防したんだ。
今回は、住宅販売会社のパンフレットにも載っていそうな典型的な閑静な郊外住宅地の公園だ。公園には、隣接するマンションができる前まで、陸田の水源として利用されていた沼がある。農家の方は用水を大切にするから、下水は流していない。とても水がきれいなんだ。おまけに、もとからあった雑木林を活かしている公園だから、緑豊かで暖かい。放っておいたら、どんどんカワウが増えて、他の生き物がいなくなった。毎年、冬に渡ってくるカモも、昨年はこの公園には来なかった。
敵がいなくなったことで繁殖期が延び、気が付いたら1年中、沼の中にある人工島で卵を産んでいる。当然、恐ろしいほど数が増え、糞害とか言っているレベルではない。閑静でない住宅地となり、カラスさえも近づかない。
対策といっても、ここは団地のようにマンションが立ち並ぶ住宅地だ。例え威嚇射撃であっても銃は撃てない。投網も沼の人口島には届かない。そこで、卵を捕獲し、生息数を調整することになった。
そう、卵の手捕りだ。
苛立ったカワウを避け、防衛しながら巣に卵を捕りに行く。
ああ。
怖い。
何度でも言う。苦手なんだって、鵜。
それも、捕獲許可は2か月で200個も申請したんだよ。そりゃ、最大数で申請するんだけれども、何回、やんなきゃいけないんだよぉ。ああ、イヤだぁ~。
田中先輩は市の職員やマンションの管理会社の人達と話をしている。
「今回、卵を捕獲して様子を見ましょう。それでも、まだ続くようなら、疑似卵を用意しようと思ってます。そっくりに作った偽物の卵です。ただ、やはり重さなどまったく同じにはできないので・・・。」
「偽物の卵ですか??」
「えぇ。卵がなくなって、すぐ次を産むようなら、カワウを騙したほうがよいでしょう?」
その場にいる人は皆、頷く。知らずに自治会の役員まで集まって来ている。
「上手くいくかはわかりません。まず、何個か試します。そもそも卵の捕獲自体、あまりしないんです。親を捕獲したら雛は死んでしまいますから、繁殖期に捕獲しないのが暗黙のルールなんです。」
一人が話を聞きながら大きく息をはき、公園の木々を見上げる。公園の雑木林には、真っ黒なカワウが所々にとまっている。それも気持ち良さそうに、太陽に向かってときどき翼を広げ、まどろんでいる。その様子に釣られるように全員がカワウを確認した。
「枝を剪定するなどケアをした方が良いかもしれません。たぶん、何年も触ってないですよね。結構、伸びている。カワウは大きな鳥ですから、少し刈り込むだけで違うと思います。」
剪定の効果は神社で実証済みだ。
安定してとまれる枝が少なくなるだけでなく、細かい枝も払うので、見晴らしがよくなる。カワウの立場でいえば、敵から良く見えるようになる。長居できない雰囲気になるのだ。神社では、とまれないよう網まで張った。
「そうですね。お金のかかる話でもあるので即答はできませんが、役所に戻って検討してみます。」
公園は一応、市営で、管理をマンション管理会社が行っている。一応をつけたのは、開発業者が作って一部を市に寄贈したんだ。沼とその周辺の土地は、農家さんと土地改良区が持っていて、市に貸与しているらしい。水の管理は市に譲らなかったということだろう。
卵の捕獲は、思ったよりも時間がかかった。沼の中の人口島はゴツゴツとした岩ばかりで、足場も不安定だったし、数も多かった。




