第2話 アライグマ②
サヤカちゃんはがんばり屋だ。
ガテンな男社会の土建業界で、泣き言を言わない。
炎天下の中、夜中まで交通整理をしなくてはならなくても。
スケベなオヤジたちにエッチな話題でからかわれても。
困ったように笑うだけだ。
僕が、たまたまその場にいて、いい加減にしろよとオヤジたちに注意したとき、彼女は
「私も、心の中で『このスケベオヤジ! 妻に捨てられろ!』って言っているけどね。」
と、その場にいたスケベオヤジに向かって言っていた。
「縁起が悪いこと言うなよぉ。俺は愛妻家なんだ。」
何が愛妻家だ。
会社での会話を奥さんに聞かせてやりたい。
きっと、こんな会話ができるところがいいのかな?
オヤジたちには人気者だ。たぶん可愛がられている。
でも、悔しいことがあると、表情を変えないようにして下唇を少し噛む。
オヤジたちにばれないようにね。
見ていると、なんだか応援したくなる。
見た目は、スラッとして、気の強いヤンキーのようだけど、実は、結構かわいいんだ。
金にならない面倒なことは、いつもサヤカちゃんが担当する。
だから、今回もやっぱりサヤカちゃんが来た。
さっそく、田中先輩が納屋を案内している。
きっと、屋根裏を直さないとならないんだろうな。
直す前に糞掃除だよ。
まじ、ヤダ。
仕事だし、仕方ないけどさ。
サヤカちゃんはきっと手伝ってくれるんだろうな。
ホント、いい子なんだよ。
その前に納屋のものを外に出さないと工事できないからね。良い依頼主さんだと、自分でやってくれるけど、うちがやるんだろうな。
だいたい、だらしなすぎるよ。
散乱してるじゃん。農具とか、農家にとって商売道具でしょ?せめて、土くらい払ってよ。
その新聞紙の上に広げている小豆も、いつまで乾かすのさ。新聞紙が黄ばんでいるよ。
埃もいっしょに乾いて、もうどちらが小豆かわからなくなっているしさ。
2人は納屋の外を一周して、獣の出入口や登り口を確認して戻ってくると、依頼主に状況を説明している。
みんなでシミだらけの天井を見ている。
「やはり、少し補修が必要だと思います。屋根裏への出入口をふさがないと。今回捕まえても、また次がきます。それと、立て掛けている農具を階段代わりにしている可能性があるから柱のまわりを整理しないと。」
「だけど、金がかかるんだろ? 」
サヤカちゃんが頷くと、依頼主の農家のおじさんは溜息交じりの渋い顔だ。
ただでさえ、儲かってないのに、家の修繕なんて金がかかるからね。
「補修したほうがいいですって。」
田中先輩が助け舟を出す。
サヤカちゃんが頷いて続ける。
「建物全体に傷みが広がる前に、早めにしたほうが良いように私も思います。」
そう言うと横に立っている柱を、少し撫でてから、ぽん、ぽんと叩く。
·····?
あれっ?
今、柱が少し、ぶるって震えたような?
もしかして、心霊現象・・・・?
僕は目をこすった。
なんだかポロポロ、上から落ちてきているけど。
次の瞬間
ドダダダダ!!!!!
地震かと思うほどの大きな音と砂埃が立った。
まじっ。
あ”~。
サヤカちゃん、すんごい糞まみれ。
げ~。
糞まみれな上、臭い。
天井板が落ちた。