第13話 鳩②
「本当に鷹なんですか。」
少年を見送ると、警察官が疑わしげに再度確認してきた。
「猛禽類は獲物の首を狙うんです。
たぶん、鷹の種類だと。
ほら。空にいるでしょ?
旋回している。
首が短くて、凧のカイトのような影が飛んでいるでしょう?」
その場にいる全員が空を見た。
小さなゲイラカイトのような影が宙を旋回している。
「獲物をガラスの壁面に追い込んで、逃げ場をなくして首をガバッって、狩りをしてますね。狩りの途中で人が来たので置いて逃げたんでしょう。」
雑木林からガラスの壁面までのルートを手で示しながら、実際に見ていたかのように説明する。
「この雑木林は小鳥が多い。きっと良い餌場なんですよ。」
「良い餌場?」
「ええ。きっとこの近くに巣がありますね。縄張りにしている鷹がいるんです。」
「・・・頭のない鳩の死がいが、今後も続くということですが?」
「そうですね。たぶん、また来ますね。
野生でも崖に追いこんで獲物をとるのは狩りの手法の1つですし、ここで獲物をとれたという成功体験がありますからね。」
田中先輩が空を見ながら説明していると、納得していない警察官が会話に割り込んでくる。
「本当ですか? ここは街中ですよ。
それに切り口が刃物のようにスパッっとしてます。獣に食いちぎられた様子ではない。ほかに大きな外傷もないです。」
「逆に、人がやったんじゃ、こんなふうにスパッとはいきませんよ。鳩は生きてるんですから捕まえるだけで大騒ぎです。羽根が散らかったり、何かしら形跡が残ります。傷をつけずに捕まえるなんて熟練の猟師だって難しい。」
言われて見ればそうだ。
人間の方が狩りは下手だ。まして、少年なんて出来るわけがない。
警察は、初めから人がやったと疑っていたんだ。だけど、そこが間違ってたんだ。
「首を一発で仕留めている。実に狩りがうまい。
たぶん、獲物の大きさによって狩りの仕方も変えている。
これまで見つかったはのは、鳩の死がいなんですよね?
鳩より小さな鳥は足で捕まえて、そのまま巣に持ち帰っているんでしょう。巣に持ち帰って食べるから食い散らかしてもない。
それに、その場で食べれば、カラスに横取りされますしね。
この鷹は人の住む街中での狩りに慣れている。
住む場所がなくなって人里に住み始めた鷹の子世代か、孫世代か、シティ派の鷹という印象ですね。
まあ、実際はわかりませんので、あくまで私の見解ですが・・。」
「た、対策はあるんですか?」
「うーん。正直、難しいですね。
ワナにかかる鳥ではないですし、街中で鉄砲は撃てないですから。
それこそ警察に捕まってしまう。
それに、まだ、種類まではハッキリしませんが、もしかしたらオオタカではないかと思うんです。もしそうなら、県の準絶滅危惧種ですからね。捕獲はもう無理です。
諦めて静観するしかない。」
館長は何も言えず、固まっている。
「たびたび・・・あるんです。首から先がなくて、清掃を受けてくれているシルバーサービスの御婦人方は触るのも嫌がって、職員を必ず呼ぶんです。職員もちょっと気持ち悪くて。」
館長は目線を下げながら、本当にどうしたらよいのか途方に暮れている様子である。
図書館の雑木林は、剪定をあまりやっておらず、ビオトープのように青々と茂って自然豊かだ。落ち葉や枯れ枝も根の周りに置いたままで土も乾燥しておらず、木の実もいたるところに落ちている。
だから虫も多く、それを捕食する小鳥も多い。隠れる場所も多い。
そして、公共の施設で人の出入りが多いから、気が強くて集団で襲ってくる面倒なカラスがいない。
鷹は良い場所に目を付けたと思う。
「一度、市の環境課か、県の環境事務所に相談してみてはいかがでしょう?
駆除するだけが解決策ではないので、予防や共存の例を知っているかもしれません。
そこからお願いして、鳥獣保護管理員に鷹の種類を特定してもらうのも1つです。
申し訳ないが、私では、もう少し近くで見ないと判別できない。
それに、もし本当にオオタカなら保護に一生懸命なNPOがあるので、捕獲した後からわかったらトラブルになりますよ。」
鳥獣保護管理員は、違法捕獲や鳥の不審死など、野生動物の監視員のような役割を果たしている。主に猟友会や日本野鳥の会のメンバーから、県が専門家として任命する。
当然に野鳥に詳しい人が勢ぞろいしている。ときどき、別のマニアもいるけど。
この間なんか、コウモリ(を主とした哺乳類)を研究している学者さんで、熱く語る内容がサッパリわからなかった。
まあ、原因がわかっていないなら、鳥の不審死という問い合わせただけで、しばらくの期間、この雑木林を巡視してくれる。
鳥獣保護管理員は共通して野生動物が好きだ。
だから、バードウォッチングとかを趣味にする人もいて、オオタカが営巣していると聞けば、必ずその後も巡視する(趣味でだけど)。
ショックから立ち直っていない館長をそのままにして、警察は事件性がないからとそそくさと帰って行った。
あっさりしたものだ。
きっと、今日のことは沢山ある仕事のひとつ、すぐに忘れてしまうんだろう。泣かしてしまった少年のことも。
大丈夫かな。
心のキズになってないといいけど。




