第12話 鳩①
「図書館に頭のない鳩の死がい?」
「だから、ちょっと寄り道させてくれ。
警察から猟友会に依頼があったんだよ。前にも依頼があったんだけど行けなくて、今度こそ来てほしいと言われたんだって。会長から行ける人がいないから悪いけど行ってくれないかって頼まれたんた。
あ。社長にも話してあるから、サボりじゃないぞ。」
田中先輩は猟友会の中では若手らしく、重鎮方に何かと頼まれる。
図書館は、この町に似つかわしくないくらいモダンで立派な建物だ。コンクリートでつくられたしっかりとしたつくりで、会議室やホールもある複合施設になっている。南側はガラスをふんだんに使っていて、ゆったりとしたスペースに日の光がさしこみ、休憩するのにちょうど良い。目の前には、ちょっとした雑木林があり、散策しながら木漏れ日の中で本が読める。
市民の憩いのスポットとになっている。
車で到着すると、館長と警察官が死がいをスーパーのビニール袋に入れ待ちかまえていた。
「あ。遅くなってすみません。」
「こちらこそ、お忙しいところ、ありがとうございます。こちらです。」
さっそくビニール袋を渡される。
「1回だけなら気にしなかったんですが、3回目なんです。利用者が騒ぐこともあって何もしないわけにもいかないですし、それで警察に相談させていただいたんです。」
袋の中を確認すると、そこには、まだ、硬直していない柔らかい鳩の死がいがあった。
スバッと、刃物のような切り口で首を切られ、頭がない。
館長の話では、場所はいつも散策路で、見つかるときは決まって誰もいない。
人のいた形跡さえない。
目撃者もいない。
事件か事故かもわからない。
「動物の殺傷事件から大きな事件に発展する場合もあるので、警察としても原因がわかると有難いです。」
田中先輩が死がいを確認し、状況を聞いてから死がいのあった場所を確認する。ガラスばりの建物と雑木林の間にある散策路だ。
散策路にある石でづくりのベンチから空を見上げる。木々の合間から青い空が拓けていて、図書館のガラスの壁面に雲が映りこんでいる。
遠く、鳥のなき声がする。
静かだ。
田中先輩は、そこで、まるでドラマの名探偵のように黄昏かれながら思案にくれている。
「あ!」
静寂を破り、警察官の大きな声が響く。
「あ~。そこの少年! 待って!」
振り向いた少年は、色が白く、痩せていて、アイドルのような整った顔立ちをしていた。
「君、いつも鳩に餌をあげているよね。ちょっと話を聞かせてくれる?」
警察官が優しげに話しかけたが、少年は聞こえていないとばかりに知らん顔をして自転車置き場に向かう。
「ちょっと待って。ジーンズはいている僕!」
警察官が、追いかけに行く。
少年はそれを見てすぐに走り出すが、日頃から鍛えている警察官に敵うわけもなく、あっさりと捕まってしまった。
「ちょっと話を聞くだけだから、ね。」
2人がかりで囲まれ、可愛そうに逃げ場がない。
「さわらないでください。」
少年は懸命に強がっている。
「わかった、わかった。
ちょっと話を聞きたかっただけなんだよ。最近、図書館で頭のない鳩の死がいが見つかってね。君、何か知らないかあって思っただけなんだ。」
少年は顔も上げられない。下を向いたままだ。
そして首を横に振る。
「僕は知りません。・・・し、知りません!」
今にも泣きそうである。
あ~あ。
ぐずぐずし始めた。
下向いているだけで、涙ぐんでる。
田中先輩が少年に近づいてかがむと、警察官を見上げて渋い表情をした。
「君は何もしてない。それはわかっているよ。警察官は本当に分かんなくて聞きたかっただけんだ。」
田中先輩は少年の顔を覗き込むようにして、
「ごめんな。嫌な思いさせちまったな。警察官が追いかけてきて怖かったな。悪気はなかったんだ。」
警察官が腰を曲げ、少年に尋ねる。
「いつも鳩に餌あげているって聞いたんだけど、今日も鳩が死んでいてね。君、何か知らないかなって思ったんだ。」
少年は下を向いたまま首を横に振る。
黙ったままの少年に田中先輩は大袈裟に言う。
「うん。わかった。やっぱり何も知らないよな。
きっと、鷹だな。鳩は鷹に襲われたんだ。」
警察官は不満気だ。
「首をスバッと、刃物のような切り口なんですよ。」
自分達は冤罪をかけたわけじゃないと主張するかのようにはっきりと言う。
少年は手で涙をふくと、ちょっとだけ顔をあげた。
「鳩は首を切られていたの?」
田中先輩は頷いた。
「たくさん死んじゃったの?」
「いいや。1羽だけだよ。だけど前にもあったから、みんな心配になったんだ。」
田中先輩の顔を見てから、大きく息を吸うと心配そうに聞いた。
「ぼ、ぼくのこと、怒らないの?」
「怒らなきゃいけないことしなのか?」
「鳩に餌あげた。野生の鳥に餌あげちゃだめなんでしょ。」
「よく知ってるな。
あ!それで逃げようとしたのか?」
少年は鼻をすすりながら頷いた。
田中先輩が大丈夫、大丈夫、大丈夫だよと声をかけ続けると、落ちついてきて、少年は警察官に「本当に知りません。」と丁寧な言葉で答えた。それを聞いて警察官も「追いかけて悪かったな。ごめんな。」と謝っていた。
少年はそのまま帰って行った。
お辞儀して帰るあたり、礼儀正しい。
怖かっただろうな。制服に囲まれるって。
大丈夫かな?




