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第11話 狸とマスクラット②

マスクラットは、北米原産のねずみの一種だ。湖水や河川などに住み着く。巣穴の入口が水中にあり、潜った陸側に巣穴がある。ヌートリアより小さく、食べ物は水草中心だから、あまり農作物被害がない。みんなが気に留めないうちに凄く増えてしまった外来種だ。特定外来生物に指定されている。


「市役所と河川改修の業者から様子だけでも見てくれないかって言われたんだよ。こういうときはお互い様だからな。確認だけでもしておこうと思って。」

「マスクラットなんて珍しいですね。あまり被害報告なんてない鳥獣なのに。」

田中先輩は、そうだなぁと相槌を打ちながら双眼鏡で水辺の淵を確認する。

川の上流はまだ護岸工事をしておらず。水辺の近くは雑草が生い茂っているから、対岸からだ。

「なるほどな。見てみろ。」

双眼鏡を渡されて、自分ものぞき込む。

「あの黄色の布切れがある場所の脇が巣穴だ。それと同じようなものを探せるか?」

水面と雑草の生え際の土の部分が少しへこんで暗くなっている。

「ん? ・・・。

田中さん。僕には、いたるところが怪しく見えます。」

「そうだな。その全部だ。」


「え? ええ~っ!!!」

まるでマスクラットの団地じゃないですか?


「ほら。左岸も確認しに行くぞ。」

田中先輩はすたすたと歩き始める。


「下流から護岸工事しているだろ。川で巣穴を作れなくなって、下流域は住宅街だから逃げ場もないし、工事に合わせて上流に上がってきちまっているんだよ。

もう飽和状態だな。最近は用水路にも出没するようになったみたいだ。

だけど、ときどき田んぼの畝を壊すくらいで、あんまり悪さしないだろ?

目撃した農家に聞くと、『ひょっこりと顔を出してよぉ。最近はずいぶんデカいネズミがいるなと思って市に電話したんさ。ほら、ネズミはいろんな病気を運ぶというだろ?』ってさ。

市もどう対応してよいか悩んでるようだ。」


悩むだろうな。

特定外来生物だから積極的に捕獲して殺処分するのが法律的には正しいけれど、

『被害を受けていないのに動物を殺すのか』

『動物の命も私たちと同じ1つの命です。』とかいう動物愛護団体が圧力かけてくる。

彼らは自分が絶対正しいと思っているから、職員に向かって”人殺し”のような言い方をするんだ。正しくても職員は罪悪感に苛まれるし、圧力団体化した動物愛護団体の対応をするだけで精神的負担は大きい。

ただでさえ、動物を殺処分するなんて嫌なことなのに。


対策ってあるのかな?


「市役所になんて説明するんですか?」

「正直に話す以外ないかな。数えきれないほど沢山いるが捕獲は難しい、って。」

権之助川は河川敷が散策路になっている。子供たちが遊んでいることを考えると、許可が取れても安全面からワナの設置場所が難しい。ワナに使うエサも難しい。食性の好みがよくわからない上、水辺にエサがあるのに食いつくか疑問だ。湖水でなく、流れのある川で、水の中にワナを仕掛けるのもハードルが高い。

そもそも捕獲が難しいのだ。

おまけに農家さんも高齢化で、用水路の管理もなおざりだ。

用水路には美味しい水草が生えている。住み着くのも時間の問題だろう。


後日、市役所と業者に現状報告に行き、捕獲も難しいことを告げた。

それでも何かしら対策をしたい、何かないか、お金がかかっても良いと、あらためて依頼された。


田中先輩が、先日、お世話になった林田さんに相談したところ、研究センターとして、まずは現況調査ができないか上司に相談してみるとのことだった。現況調査後、被害が著しいものは捕獲方法や対策を開発する研究ができるという。

用水路に出没することを被害というかは別として、特定外来生物だし、可能性はあるだろうとのことだった。

現地調査をするにしても、それがマスクラットだという確証を得たい、1頭でもよいから捕獲できないか、鮮明な写真がないか確認があった。泳いでいることが多いので、全体が映った写真がないのだ。


市と県、そして研究センターと話し合い、結局、ダメもとで、誰も入れないように柵を設け、ワナを設置した。一方で、望遠のついたカメラで巣穴まわりの写真を撮りまくった。

そして、ワナには毎日のように獣がかかった。



つぶらな瞳の毛のない狸だった。

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