第1話 アライグマ①
はぁ~。
僕は、造園会社に入ったのに、なんでこんなことしているんすっかね。
僕は植木が触りたいんだよ。だから造園会社に入社したんだ。
入社してから、ちぃーっとも植木にさわってない。
今、目の前にいるのは、なんとアライグマですよ。アライグマ!
欧米か!!
うちの造園会社は、有害鳥獣の駆除などをする担当がいる。それが動物係だ。道路わきの植栽に巣を作っているカラスや鳩の駆除をしたのがが始まりで、いまや、その相談が実際の造園業を凌駕している。
カラスやハト、ムクドリ、タヌキなど、どんどん増えて、昨年は、鵜の防除までしましたよ。
鵜は大きいし、集団で行動するから怖かった。
まるで黒い軍団。ヒーチコックの世界!
タヌキなら日本にいる動物だからわかりますよ。
ハクビシンも、中国原産だけど、まぁ、昔っからいたようだから・・・
でも、アライグマだよ。
アライグマ。
はぁ~。
かわいい顔しているけど、すんげー気い強いんだよ~。
大食いだしさ。
欲張りでなんでも食べちゃう。
子だくさんだしさ。
早熟でさ。半年で大人になって、次の春にはエッチしちゃうの。
もう、次から次よ。
収集ゴミを荒らすのだって、アライグマじゃないかって言われているんだ。
みんなはカラスだと思っているけどさ。
収集ごみの網だって重石おいているんだから、カラスは持ち上げられないでしょう?
アライグマは、器用にペロッて持ち上げちゃうわけ、その食べかすをカラスが狙うわけさ。
見つけた時にはカラスしかいないから、み~んなカラスだと思うわけ。
違うんだな~。
カラスは濡れ衣を着せられている。
この状況を、知っている人は知っている。
だから特定外来生物になっているんだけどね。
それを知らない人は「人間のエゴだ!殺すな!」なんて言うんだ。
だったらお前が全部飼育しろ!
この間なんか、ブドウ畑一反、アライグマの家族みんなでいらっしゃって、一晩でペロリだよ。収穫まじかだったのに。農家さんの気持ちを考えろ!
それが県内に数十万いると言われているから恐ろしい。
だから、実は、当社の相談数トップなのよ。アライグマくん。稼ぎ頭よぉ~。
はぁ~っ。
「鈴木! わなに何かかかっていたか?」
同じ動物係の田中先輩が母屋のほうから大きな声で叫んでいる。
「アライグマっす。」
大声で返事をすると、先輩が駆け寄ってくる。
田中先輩は、僕より20歳近く年上のベテランだ。狩猟免許も持っていて鳥獣にも詳しい。
「ん~。お前、市役所に電話しろ。直接、動物病院につれていきましょうかって。」
「了解っす。」
アライグマは殺処分するルートがある。県のアライグマ防除実施計画で積極的に駆除するとしているから、経費も役所が負担してくれる。市役所から動物病院に電話してくれて、そこに持ち込んで薬殺するんだ。かわいそうだけど。
返事をして、市役所に電話をかけていると、田中先輩は依頼主に説明に行った。
納屋のまわりとか歩きながら話していて、依頼主は渋い顔をしている。
「田中さん! 直接、三木動物病院に連れてってくれって。」
「おー。今行くから一人でするなよ!」
「はい!」
もちろん、しませんよ。
アライグマは気が強いからね。
上手く運ばないと爪で引っ掛かれる。
怪我したくないもんね。
田中先輩はアライグマを確認すると
「依頼主に話したんだが、今日もワナをかけるぞ。」
「このワナも使いますか?」
「あぁ。あと、会社にあるワナも持ってきてくれ」
「わかりました。」
先輩の見立てだと、まだ、何頭かアライグマがいるんだろう。あと、数日は続くな。
「あと、ここに戻ってくるときに、プラス建築に寄ってきて。ほら、あの可愛い娘、サヤカちゃんだっけ?その娘のいる会社だよ。今、電話するから。ここまで案内して」
「工事が必要なんですか?」
「天井のシミがでかいしな。きっと、おしっこだらけだな。今まで、天井がおちてこなかったのが不思議なくらいだ。下手したらハクビシンもいるかもなぁ。」
天井をみると、おしっこで濡れ、シミが出ている天井板がぐわんと、たわんでる。いよいよヤバそうだ。
ハクビシンもアライグマも屋根裏が大好きだ。
もともと樹上生活者で木登りは得意、壁登りもお手のもの。
おしっこだけでなく、屋根裏に山盛りの溜め糞かある。天井板が腐り、ある日突然、屋根裏が落ちてくる。
あ~。その下で寝たくねぇ~。
田中先輩に手伝ってもらいワナごと車に積み込むと、僕は動物病院に向かった。