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堕ちた神様は復讐を誓う  作者: 夜桜満
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第七話 欲望の炎

  フィエルテ城内。

 

  皇帝がいるであろう執務室の前で二人の魔導兵が主君への報告の内容を間違え、偽りがないか確認していた。

  確認を終え、一人の魔導兵が大きく立派な扉に手を伸ばす。


  ──ガチャ。

  扉は音を立て開いた。

 

「随分と外が騒がしいようだが、どうした」


  紅に染まる髪にクロムと同じ鮮黄色の瞳を不気味に輝かせる男が、椅子に腰を下ろして重要そうな書類に目を通しながら言った。

  この男こそ魔法帝国フィエルテの現皇帝、フェネクス・フィエルテ。

  八カ国の王の中で誰よりも欲深く、彼にないものはない。と言われた男。


  だが、そんな彼にも望むだけで手に入れる事ができないものがあった。それこそ選ばれた者こそが継承すると言われる偉大なる力、神の力だった。

  ただ彼は、神の力を継承する者を妬む訳ではなく、神の力だけを彼は欲しかったのだ。

  全てを超越した力を彼は心の底から誰よりも欲した。


  たとえ自分がどの炎魔導士よりも優れていようが、八カ国の王の中で強かろうが彼の欲は満たされなかった。

  神の力が自分のものになるまで、彼の心は満たされない。


「フェネクス陛下……先程、エスポワール城跡地に失踪した魔導兵三名の捜索に向かった魔導団長から連絡があり……」


  ビクビクと怯える魔導兵の男に対し、フェネクスは早く要件を言え。と言わんばかりの鋭い目線を向ける。


「昨晩、エスポワール城跡地にて魔法が使われた形跡を確認したと。けれど捜索中の魔導兵三名の行方は未だ掴めていません」

「魔法が使われたか……お前らならその魔法があの黒魔導士と同じものかどうかは分かるだろ。一致したのか?」

「それが、魔導兵団ですら全く見たことの無い魔法だと」


  先程まで興味がなさそうに重要書類を眺めて聞いていたフェネクスは、顔色を一瞬で変え、鋭い目付きで魔導兵を見た。

  その目に再び脅えたのか、魔導兵は顔を青ざめながら再び話し始める。


「微かに残っていた魔法の痕跡から掴めたのは……闇魔法の類ではないかと」

「闇魔法……この大陸ではその魔法を使うものはいないはずだが」

「我々もそう思っていました! けれど現に……!! さらに捜索隊を派遣し調査させます」


  青年はフェネクスの威圧からなのか、否定する言葉を途中で止め、深々と頭を下ろし足速に部屋から出ていった。

  絶対的主君であるフェネクスに対して、彼の言葉を否定する者はこの帝国内には存在しなかった。


  炎魔法の中でトップであると共に、彼の名は暴君としても有名であった。

  気に入らない貴族がいれば斬り殺し、使えない、楯突く部下がいれば切り捨てる。

  そして、女が魔法を使えば焼き殺す。彼はそうやって悪名をこの世界中に広めた。


  部屋が静かになり、フェネクスは目を通していた資料を無造作に机に置くと、椅子の背もたれに寄っ掛かりため息をつく。

  フェネクスがため息をつくと同時にフードを深々と頭に被った男が物音一つ立てず、フェネクスの横に現れた。


  彼は目線を変えず、隣に立つ男に向かって口を開く。


「ラウム、無言で俺の横に立つな。気味が悪い」


  彼がそう言い放つと、ラウムと呼ばれた男は少し体をビクつかせながら謝罪を口にする。


「────すみません」

「で、どんな要件だ。用もなしにお前が俺の横には立たないだろ」


  目元まである前髪の隙間からチラリと見えたラウムの目はまっすぐ、フェネクスを見ていた。

  ラウムはぶつぶつと小さい声で要件を言っているようだが、その声はフェネクスの耳には届いていないようだった。


  大きなため息と共に鋭い目線をラウムに向け、フェネクスは低く冷たいような声で彼に言葉を投げる。


「漆黒の騎士や悪魔の騎士なんて言われているが、単なる極度の人見知りで俺以外の者とは一言も会話ができない小心者が。早く要件を言え。ラウム・シエルド」


  一瞬にして二人の間の空気がガラリと変わった。


  ラウムとフェネクスは小さい頃から同じ環境で教育を受けていた。

  一方は将来の皇帝に、一方は皇帝を守る騎士に。


  兄弟のような関係だが、それでも主君と騎士の関係は切っても切り離せないものだ。


  ラウムは生唾を飲み込み、真面目な顔で皇帝へと報告をする。


「私も失踪したと思われる付近へ向かい、現状を確認したところ、血の一滴もなく三名の魔導兵が消えたということが分かりました」

「血の一滴もなくか…………変だと思わないか? 」

「どこか変でしょうか」


  チラリと見える目を丸くしラウムはフェネクスに聞いた。


  フェネクスは長い足を組み、その違和感を丁寧にラウムへと話す。


「闇魔法は確かに未知数だ。けれど魔導書や魔導学書に書かれている闇魔法は人を跡形もなく消すものはなかった」

「闇魔法の派生である黒魔法はどうでしょう。生き物を生み出すほどの魔法ですから消すことも……」

「ありえない、確かに黒魔法は人智を超えたものだ。それでも無からは創り出すことは出来ない。それならその逆、生命を無へと帰すことも出来ない」


  闇魔法はこの世界では忘れ去られた魔法として知られていた。

 

  その強力な魔術によって幾多もの国が滅び、人々が嘆いた魔法。

  そんな残酷な魔法を王達は危険視し、禁術とし人々から遠ざけ、記憶から消された。

  再び平和が戻ったと安堵した矢先、闇魔法を使っていた魔導士が新たに黒魔法を生み出した。


  闇魔法の派生である以上、黒魔法も人智を超え、死者を蘇らせ、人の記憶を改竄かいざんして再び世界を恐怖へと導いた。

  言わずとも黒魔法も禁術とされ忘れられた。


  そんな魔法だが、フェネクスの言う通り無から生命を創り出すことは出来ない。たとえどんなに優秀でも神の領域には踏み入れることは出来なかった。

  この世界で生命を創り出す事は、神の怒りに触れることだから。


「それでは私が感じた魔法は」

「全くの別物だ。闇魔法でも黒魔法でもない更なる恐怖を生み出す魔法の痕跡だ」


  それが示すものはこの世界の恐怖であった。

  いつの時代も敵は人間であり、人智を超えた魔導士だった。

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