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龍の谷を守るべき者〜白龍の使い〜

作者: 鈴木奈緒

「おはよう、ラードーン」

ラードーンは長い首を上げローラの方を見た。

ローラはラードーンの朝食となる果物や野菜を籠に入れ、ラードーンの寝蔵を掃除した。

「きょうもいい天気になりそうよ」

ローラが話しかけるとラードーンは目を細めた。

龍は人の言葉を大体理解しているというが、ラードーンは特にコミュニケーションのとれる龍だとローラは思っていた。


ここはキリヤの渓谷、白龍ラードーンの住処である。

ローラは20歳でありながら、龍の守護家の跡取り娘だった。龍は気難しく住処を変える事はほとんど無い。よって守護家に産まれたローラもまた、このキリヤの渓谷で一生を終える事が決まっていた。


「よっ 今日はラードーンも機嫌が良さそうだな」

黒髪を後ろで束ねた幼なじみのジオがやってきた。ジオは渓谷を下ったキリヤの町の武器屋の息子だ。

黒髪で、切れ長の黒目を持ったジオは町の娘達に大層人気があると噂で聞いた。

「そうね、お天気もいいし。今日は鱗の手入れをしたいと思ってるのよ」


そんな話をしていると、渓谷を登ってきた住民から

「ローラ、白龍さまの鱗を一枚わけてくれないか」

と頼まれた。

「待っていてね。」

ローラは小屋に走り、前回ラードーンを手入れした時の鱗を一枚渡した。

「はい、どうぞ」

「ありがたや。ありがたや。白龍さま」

住民は大事そうに鱗をかかえ道を下って行った。

龍の鱗には加護があると言われており、たまに住民達がもらいにくる。

その為にローラは手入れで出た鱗を綺麗に拭いてとっておいていた。


「おはよう、ジオ」

後から妹マリーンの声がした。もうすぐ昼だというのに明らかに今起きたばかりという風貌だ。

守護家に産まれた証である銀髪、赤みの少し入ったグレーの目……ローラと同じはずなのだが、マリーヌは部品部品が美しくまた魅力的であった。


「ジオ、これから街に遊びに行きましょうよ」

「俺はいいけど、ローラの手伝いはしなくていいのか?」

ジオが聞いた

「いいわよ。どうせラードーンは私に懐かないし、地味な仕事は姉さんの方が得意なの 行きましょ」 

「しかし…」

ローラは

「いいわよ いってらっしゃいな」

と言った。

「ほら、行きましょ。行きましょ。」

「じゃあ、ローラまたな」

ジオはマリーヌと共に町への道を下っていった。


「さぁ、鱗の手入れでもするか」

ローラはラードーンの鱗を一枚一枚丁寧に布で拭いた。

使い古された鱗はポロっと取れて下から新しい鱗が生えてくる。

「痛いッ」

龍の鱗は厚く、鋭く気をつけていても手を切ってしまう。

ローラの手は傷だらけだった。

手から出て来る鮮やかな血を見ながらローラの目には涙が溢れてきた。

どうしてこんな事になったんだろう…


ローラとジオとマリーヌは小さい時仲良しだった。3人で野原をかけずり、木に登ったり、いつも一般に遊んでいた。

全てが変わったのは3年前のあの日だ。

ローラが17歳、マリーヌは14歳だった。母が渓谷で足を滑らしてしまい、それを助けようとした父もまた足を滑らせ二人共亡くなってしまった。

あの日から龍の守護家の仕事はローラの仕事となった。

始めこそ手伝ってくれたマリーヌも段々反抗的になり、全く手伝ってくれなくなった。

ローラが泣いていると心配したラードーンがローラのほっぺたに顔をすりよせた。

「ごめんね。ラードーン、泣いてばかりいてはだめね」

ローラは無理して笑った。

ラードーンは鱗の手入れが終わると気持ち良さそうに飛び立った。

「あんな風に好きな所に飛んでいけたいいのに…」

気持ち良さそうに飛ぶラードーンを見上げてローラは呟いた。


それからしばらくはいつもの日常が続いだ。

ローラはラードーンの世話をし、ジオは時々ラードーンを見に来た。マリーヌは町へ出掛けて日中ほとんど家をあけていた。ラードーンは最近天気がいいからか、遠くまで飛んで行っているようだった。


◆◇◆◇◆


日常が崩されるのは一瞬だった。

夕方ラードーンが住処に戻り、世話を終えたローラが母屋に戻り夕食の準備をしているとマリーヌが帰ってきた。

ほのかに顔が赤く、町で飲んできたようだ。

「マリーヌ、お酒を飲んできたの?」

ローラが聞くと

「うるさいわね。悪い?」

と悪態をついてきた。そしてニヤニヤしながら話し始めた。

「ねぇ、姉さん知ってる?ジオがとうとうこの町を出るんですって」

「えっ?」

「なんか、養父と養母が金に目が眩んで、ジオに一目惚れした金持ちの娘と結婚させようとしたらしいわよ。でも、ジオは好きな子がいるからその子と町を出ていくって言ったらしいわ。」

「本当に?」

ローラは茫然とした。ローラは昔からジオの事が好きだった。そのジオが町を出ていってしまう。

確かにジオは武器屋の養子だった。ジオはいつも明るかったが武器屋で大事にされているとはいいがたいところがあった。

「姉さん、私ジオと町を出るわ。」

マリーヌが言った。ローラは驚き

「ジオの好きな子はマリーヌなの?」

と聞いた。マリーヌは、フンッと鼻で笑うと

「当り前じゃない。ジオが町で仲良くしてる娘なんて私達姉妹だけよ。ジオは一緒に町を出ていくって言ってんの。龍の加護家跡取りの姉さんがこの渓谷を離れられないくらい誰よりも知ってるわよ。」

と鼻で笑った。


ローラは家を飛び出し、ラードーンの元へ走った。住処につくとラードーンに抱きつき一晩中泣いた。

ラードーンは、優しい目でローラに寄り添っていた。


ローラは朝の寒さで目を覚ました。昨日はあのまま、ラードーンの元で寝てしまった。真っ赤になった目をこすると「いま、朝食の準備をするわね」

とラードーンに言った。ラードーンのザラついた舌がローラの頬を舐めた。


母屋に帰るとマリーヌは二日酔いで眠りこけていた。

しばらく起きそうに無い。

「マリーヌ」

ローラは複雑な気持ちだった。小さなころはかわいい妹を可愛がっていて仲もよかった。両親が亡くなってからは厳しい事も言ったが、守ってきたつもりだった。

何でこんなに拗れてしまったのだろう……


ラードーンに朝食をやり終えるとジオがやってきた

「おはよう、ローラ」

珍しくラードーンがウォォォォンと声をあげた。

「ジオ、町を出ていくの?」

ローラが、聞くと

「すごい。もう、知ってるんだね、ローラ」

とジオは答えた。

マリーヌを向かえに来たのだろうか?ローラは絶望的な気持ちでマリーヌを起こしに行こうした。

すると、何人かの住民達が町から登ってくるのが見えた。

ジオはヒョイッと木陰に身を隠した。

「ローラ、ジオの話は聞いたかい。」

「あんたは、ずっとここで白龍様を守るんだ、いいね」

「村の事を考えて、白龍様に使えるんだよ」

口々に好きな事を行って帰って行った。


ローラがあ然としていると、ジオが木陰から出てきた。

「じゃあ、行こうか。ローラ」

と言った。ローラは驚いて言った。

「えっ?マリーヌじゃなくて?」

「何でマリーヌ?僕が好きなのはずっとローラだよ」

不思議そうな顔でジオは言った。

「で、でも、私は龍の加護家の跡取り。この地から離れられないわ」

というと、

「大丈夫なんだ、ローラ。」

続けてジオが言った

「最近主の居なくなった龍の住処の跡地を色々見て回っていて、良さそうな所をいくつかラードーンに見て回って貰っていたんだ。さっき、ラードーンが吠えただろう、あれが場所が決まったっていう合図なんだ」

「この、町はどうなるの?」

「ローラ、さっきの住民達の態度を見ただろう。彼らはローラに感謝もしていなければ、ラードーンの事も自分達の為に利用しているだけだよ。マリーヌも同じさ」

ジオが言うと、ラードーンが翼を広げ首を下げて二人に背に乗れと促してきた。

「ジオ、ラードーン、私、いいのね」

「あぁ、もちろん!行こう!」

伸ばされたジオの手をローラは掴んだ。


ラードーンの背に乗りながらローラは嬉しくて泣いていた。

「何考えてる?」

ジオが聞いてきた。

「嬉しいの。ジオの気持ちも。ラードーンが慣れた住処を捨ててまで私を助けてくれた気持ちも。」

「まだ、肝心のローラの気持ちは聞いてないな」

ジオはふくれた。

「私の手、こんなに傷だらけなのよ」

「そんなローラだから好きなんだよ」

「私も昔から大好きよ!ジオ!」


幸せにそうな若い二人をのせた白龍は新たなる新天地へ

悠々と飛んで行った。



短編を書いてみました。

隙間時間に読んで貰えると嬉しいです!

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