7話 再び森へ
「おい、ネフェリム! 起きろ!」
「うぅーん……」
「もう昼だ! いつまで寝てるんだ! 今日こそはサチロス茸を見つけて報酬を貰うんだろ!?」
「あと五分……痛い痛い! 分かったわよ起きるから、つねらないで!」
出会ってからずっと、ネフェリムは自堕落な生活を送っている。
多分、俺と会う前からこうなのだろう。
俺はネフェリムの頬をつねって無理やり起こすと、気だるそうに仮面をつけて、ソファから起き上がる。
この前のクエストは未だに達成出来ていない。
サチロス茸が見つからないのではなく。ネフェリムが「面倒だからまだ今度ね」と言い、ずっとグーダラ生活を送っていた。
「お腹空いた」
「ほらよ、朝飯だ」
この前ネフェリムが森で取ってきた赤い木の実を食べやすくカットして出した。
「ええっ! またこのフルーツ!? もう飽きたんだけど!」
「わがまま言うな! 金が無いんだから仕方ないだろ!」
俺が来てから、ずっと赤い木の実を一日三食で凌ぐ生活が続いている。
ロクに仕事もしていないのだから、当然金は尽きる。
ネフェリムは今までどうやって生きてきたのだろうか。
このフルーツは柑橘系のような酸味がありながら、林檎のようにシャリシャリする。
地球ではこのような果物は存在しないだろう。
結構美味しいのだが、俺自身も流石に飽きてきた。
「カレー食べたい……」
ネフェリムはそう言うと窓の外を眺める。
隣の家からだろうか、仄かなスパイスの香りが食欲を刺激する。
「カレーか、俺も食べたいな」
つーかこの世界にもカレーあるんだな。
「仕方ないわ、クエストに行きましょ……。もうこのフルーツは嫌だ……」
やっと行く気になってくれたか。
ネフェリムの気が変わらないうちに、さっさとクエストへ行ってしまおう。
結局、最初に森へ行ってから再びリベンジするのに一週間も間が空いてしまった。
ネフェリムが雨の日は外へ出たくないと駄々をこねるのだ。
だが、俺一人でいってもよかったのだがネフェリムが「ドラゴンに出くわしたら逃げるのよ」とか冗談なのか分からない事を言われた為に怖くていっていない。
俺は再びギルドで片手剣を借りて、再び森へサチロス茸の採取へ向かった。
ちなみに今日の俺は、元の世界から着てきた学校の制服ではなく、異世界の世界観にあった服装をネフェリムに買ってもらい、それを来ている。
割と質素だが、制服だとに周りから変な視線を向けられる事も多々あった。
尚、お金はほとんどの持っていないので、最低限の服しか変えず、鎧どころかナイフ一本すら自分の物を持っていない。
暫く森を散策すると、ドスドスと何かが走り回る音が聞こえてくる。
「おい、何か来るぞ!」
——ブオォォォォォオオオ!
「避けろ!」
「うわぁああああああああ!」
俺とネフェリムの間を猛烈な勢いで何かが突っ込んできた。
間一髪、回避には成功した。食らっていたら間違いなく死んでいた。
あれは……緑のイノシシ! コイツがポイズンボアか!
「ネフェリム! 追うぞ!」
「えっ……ちょっと待ってよー!」
俺たちは緑のイノシシ、『ポイズンボア』を追尾した。
ポイズンボアはサチロス茸を好む習性があると、グリモワールに書かれていた。
ポイズンボアがサチロス茸を見つけたのを横取りして、この森からおさらばするという算段だ。
襲ってきたら?……ネフェリムを囮にでもして逃げてやろうか。
「クソっ、見失った……」
ポイズンボアのあまりの足の速さに追いつけず、俺たちは森のど真ん中で、息を切らしてしまった。
「ハァ、ハァ、ちょっとアンタ使用人の癖に私に指示ばっかり出してんじゃないわよ!」
「お前が余りにポンコツだからだろうが!」
「なんですって! 前、私が居なきゃアンタ、ゴブリンにボコボコにされてたわよねぇ!?」
「何っ……! お前こそ俺が居なかったらゴブリンに連れ去られてただろうが!」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ………………!」
傍から見たら、醜い争いもいい所だと自覚はしているが、どうしても、コイツだけには負けたくないと意地を張ってしまう。
少し可愛いからって、調子に乗りやがる。
きっとすぐ周りから甘やかされながら、生きてきたのだろう。
「あの……あなた達、何をしているんですか?」
「「え?」」
聞き慣れない声を聞いて、俺とネフェリムは同時に横を向く。
いつの間にか俺たちの横に立っていたのは、白髪の幼さが残る少女だった。
杖にローブ……恐らくはネフェリムと同じで魔法使いの類いだろう。
まだ中学生くらいの歳に見える。
まだ小さいのに森に入って危険なクエストを受けているのか……。
なんとも過酷な世界だなここは。
年下の女の子の前でしょーもない言い争いをしていたことを恥じる俺とネフェリム。
「いや、別に喧嘩なんてしてないわよ。ねぇ!」
「お、おお! クエストでサチロス茸を探しに来ただけだ俺たちは。まぁ一日探して見つからないけど」
「そうですか、サチロス茸なら私持ってますよ。どうぞ、差し上げます」
白髪の少女は服の中からグリモワールを取り出し、本の中から赤色のキノコを取り出す。
この本なんでもありだな。
「ええっ! いいの?」
「はい。沢山持ってるんで問題ないです」
「ありがとう! あなた名前は?」
ネフェリムがサチロス茸を受け取ると、目を輝かせて彼女の手を握る。
コイツもこの子くらいしっかりしてくれればなぁ……
「私はレフォンです。貴方は?」
「私はネフェリム、こっちは私の使用人のワタル。こき使ってくれて構わないわ」
「おい! ……そうだレフォン。何かお礼をさせてはくれないか?」
「お礼ですか。そうですね……。じゃあお言葉に甘えて……私のクエストも手伝って下さい。私も冒険者ですから」
俺とネフェリムはレフォンのお礼をするべく、彼女のクエストの手伝いをする事にしたのだが……
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