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6話 死霊術師って何の役に立つの?

 俺とネフェリムは街から出て、目的地の森に入った。


「森に入ったはいいけどさ、サチロス茸ってどんなやつ?」


「クエストの依頼文には赤色のキノコとしか書いてないわね。そんだけ、派手な色ならすぐに見つかるわよ」


 俺たちは森の中を駆け回り、サチロス茸を探し回った。

 しかし、目的の品は一向に見つからず、時間だけが過ぎていく。気がつくと空は紅くそまっていた。


「無いな」


「赤いキノコなんてどこにも無いじゃない!」


「この赤色の木の実が実はキノコだったりして……」


「ある訳ないでしょ……馬鹿なの?」


 でもここは異世界だ。元いた世界と同じとは限らない。

 キノコとはこの世界では木の実を指す言葉で、『木の子』とか。

 ……いやいや流石にそれは、ないか。


「どれどれ、んっ……この木の実意外と美味しいじゃない」


 俺は再びクエストの依頼文を読み直す。

 確かに、依頼対象はサチロス茸だ。カルデラ北東の森で採れ、赤色が特徴。特に見落としは無い。


「サチロス茸の生えやすいと場所とか書いてないのかよ?」


「んー、もぐもぐ調べて見ましょうか」


すると、ネフェリムは先程見せてくれたグリモワールを取り出して本を開く。


「《検索――サチロス茸》」


『サチロス茸の情報はこちらになります』


「すげえ!喋った!」


「何を驚いているの? これ持ってない人なんてアンタくらいしか居ないわよ」


 グリモワールはただの本ではなく、現代でいうスマホ的な機能があるみたいだ。


「えーと、木の根元の地中などに埋まっている、毒性があり、ポイズンボアが好んで食べる。だってさ! あと一部のポーションの原料になる」


「埋まっているって、分かるか! 書いとけよ! 依頼文に!」


 随分と不親切な依頼主だ。どんな奴が出したんだよ。

 思わずクエストの用紙を地面に叩きつける。


「つっても、木の根元ってどの木のだよ」


「片っ端から掘ってけば?」


「夜になっても終わんねぇよ!」


 ポイズンボアが好んで食べるとか書いてあったが、こいつの食性は利用出来そうだ。


「ポイズンボアってのはどんなモンスターなんだ?」


「緑のイノシシよ、牙に毒が有るから気を付けて」


「つーか。お前は探す気あるのかよ。あっち行ったりこっち行ったり」


 ——ガサッ


 暫くして、後ろの茂みから何かが動く音が聞こえた。

 とうとう現れたか、背負っていた片手剣を鞘から抜き、襲ってきても、反撃出来るよう、構えておく。

 一方、ネフェリムは先程から赤い木の実を見掛ける度に拾っていて、もう両手に溢れる量だ。果たして何をしに森へ来たのか。

 とりあえずこのバカは放っておいて、慎重に茂みに接近する。

 すると、茂みから緑のイノシシ……では無く、緑の小人が現れた。

 まさか、あれって……


「あれはゴブリンね! 大したこと無いわ! さぁ行きなさいワタル!」


「おい! このバカ!」


 ——ギィヤッ!


「何大声だしてんだ! 気づかれたじゃねぇか!」


「痛い痛い! って、私はあなたの主なのよ! 主人に反抗するなんて後で罰を与えるわ!」


「んな事言ってる場合か!」


「なんですって! 帰ったら覚悟しなさい!」


「お、おい! これ、まずくね…………」


 目の前のゴブリンは仲間を呼び始め、気が付くと四面楚歌しめんそか。周りをゴブリン達に囲まれていた。


「フン、どうせワタルは何も出来ないだろうから、そこで見てなさい」


 やっと、やる気を出してくれたか。

 ネフェリムは抱えていた。果物を地面に捨て、心臓の杖を出現させる。

 ネフェリムは素早く魔法陣を展開させ、流れるように魔法を詠唱していく。


「『ポゼッション』——!」


 ネフェリムが魔法を放ったその時だった。


 ————バタッ


「はっ?」


 杖を持っていたネフェリムが突然、地面に倒れたのだ。

 ——ギェ?


 ゴブリン達も予想外の展開に、困惑し始めている。目の前で獲物が卒倒そっとうするなど向こうにとっても前代未聞であろう。

 だが、俺にとっては状況は悪化しただけだ。

 今までお荷物だった、彼女が文字通りお荷物と化した。

 ——グェアアアア!


 突如、体格の一回り大きなゴブリンがうなり始めたのだ。きっと彼らのリーダーなのだろう。


 ————バキッ!


「え?」


 鈍い音と共に、ゴブリンの体が中を舞った。

 先程の親分ゴブリンが、仲間を攻撃したのだ。

 親分ゴブリンの暴走は止まらず、続けて子分を攻撃し続けた。

 ネフェリムの魔法の影響だろうか。

 一体、、こいつは何をしたんだ?


「おい! ネフェリム! 起きろ!」


 クソっ、ネフェリムはびくともしない。

 とにかく今がチャンスだ。

 持ってきた片手剣を手に取って、こちらへ寄ってきた、ゴブリン達を薙ぎ払う。


「ふんっ! クソっ数が多すぎる!」


「うわああああああああ! ワタル助けてえええええええ!」


 悲鳴の方向へ振り返ると、土の上で寝ていたはずのネフェリムが子分ゴブリン達に拘束されていた。

 魔法で倒れてから、いつの間にか目覚めていたようだ。

 このままではネフェリムは彼らの夕飯になってしまうかもしれない。


「何してるんだお前はああああああああああ!」

 

 俺は、ネフェリムを連れ去ろうとしていたゴブリンを切りつけて、何とか救出に成功した。


「うぐっ、しぬかとおもったよぉ…………」


 ネフェリムは地べたに座ったまま、涙をぬぐう。


「にしても一体、なんだったんだ?」


 あの親分ゴブリンは気がつけばその場から消えていた。


「お前、一体何したの?」


「ボスゴブリンに憑依ひょういしたのよ」


「憑依?」


「ええ、それでボスゴブリンを操って、ゴブリンの群れを引かせたのよ」


「なるほど。それで、急に倒れたのは?」


「私の体から魂が抜けて憑依するから、何かに憑依してる間は、体が無防備になるのよ。びっくりさせてごめんね」


「お前……やるなら先に言え! 驚いただろうが!」


 そんな危険な魔法をよく使えたものだ。


「いや……でも! 無事に成功して、二人とも生き延びたわけだし、ね?」


「俺一人ならすぐに逃げられたし、危ない目には合わなかっただろうけどな」


 俺はこの時思った。俺達はいつか死ぬなと。

 とりあえず今日は助かったんだし、いいか。

 それに俺が強くならなくては。俺は魔法を覚えようとこの時決意した。

 コイツみたいなバカが扱えるのだから、俺はもっと凄い魔法使いになれるだろう。


「無事私のおかげで生還できた事だしワタル、私をおぶりなさい。この魔法、結構疲れるのよ。結局、アンタなーんの役にも立ってない訳だし、使用人としてきっちり働いてもらうわ。さあ! レッツ、ゴーホーム!」


 反省してないな。あのままゴブリンの餌になっていれば良かったのに。

 俺は思い切り体を揺らし、背中のお荷物を振るい落とした。


「痛っ!」


 ネフェリムは俺の背中から滑り落ち、尾てい骨を強打した。


「わ、悪かったわ、ワタルはとっても活躍してた! だから一人で帰ろうとしないで! 私、家の方向分かんないのよ! うああああああああん!」


 もうすっかり、空は暗くなり始めていた。夜の森は危険だ。

 結局、目標は達成出来なかった。

 今日の所は引き上げて、サチロス茸はまた明日探しに来るとしよう。


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