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5話 初陣

 異世界生活二日目、スマホのアラームで俺は起床した。

 さて、今は何時か。スマホには08時50分と表示されている。うん、確実に遅刻していた。アラームをセットした意味がないでは無いか。

 いや、待てよ。地球とこの世界では時間にズレがあるかもしれない。

 部屋に時計が無かったので太陽の位置を確認しようと窓を開けた。すると、外の冷たい空気が肌に突き刺さる。


「ん、寒いな。日本では夏が終わったばっかりなのに」


 窓から顔をだし、深呼吸をして景色を見渡す。

 日本では見られないであろう、石作りの洒落た街並み。

 当然、道路か舗装ほそうされてもいなければ、電柱も一本足りとも立っていない。

 昨日は死んだせいで街をあまり見て回れなかったからな、今日は外に出てじっくり見てみるとしよう。

 街を歩く、人々そして、耳の生えた毛深い獣人らしき者、耳と尖ったエルフ。俺の脳内で描いたファンタジーの世界がそこにあった。いかにも魔法の国って感じがするな。

 しばらく景色を眺めて、思った事がある。


 ——俺、本当に異世界に来たんだな。


 そして太陽は一番高い位置に登っていた。どうやらこの世界では今昼みたいだ。

 しまった、寝すぎた。

 異世界でも俺の寝坊癖は治ってはいなかった。

 腹が減ったな、下に降りて朝食でも食べるか。いや、昼食か? どっちでもいいや。

 俺は部屋から出て、階段を駆け下りた。


「ごめんネフェリム、ちょっと長旅で疲れてて寝すぎた。飯はどうすればいいんだ?」


 勿論俺は長旅なんてしていない。俺は息を吐くようにして嘘をついた。


「くかー。くかー」


「いや、お前も寝てるんかい!」


「ていうか、昨日掃除したのにもう汚れてるんだけど! 一体どういう生活送ってるんだよ!」


「んあ? ふわあぁー。 おはよぉワタル」


 俺の大きな声に反応したネフェリムは大きく欠伸あくびをしながらまだ眠そうに目を擦る。


「おはようってもう昼だぞ」


「なに、いつものことよ。朝食べたらクエストでも受けましょ」


「クエスト? もしかして、色々冒険したりするのか!?」


「ええ、そうだけど……それ以外に何があるってのよ」


 クエストか、いよいよ俺の冒険が始まった感じだ。

 俺たちは超質素な飯を済ませて、集会所ギルドへ向かった。


 集会所の大扉を開けると、沢山の人で賑わっている。

 ここがギルドか。

 大剣を背負った大男に、白一色のローブに身を包み、長いロッドを持った神官らしき女性、まるで一人一人がゲームのキャラクターのようだ。


「そういえば、グリモワールは持ってるよね?」


「え? 何それ?」


「はあ? 今どきグリモワールも持ってないの!?」


 何だか呆れられたようだ。異世界の必需品か何かだろうか。

 ネフェリムは魔法陣から一冊の本を取り出して見せた。

 一見普通の本にしか見えないが……


「登録に必要なんだけど……困ったわね。すいませーん」


 するとネフェリムは受付のお姉さんの元へ行って、

「あの~この人グリモワール持ってないらしいんですけど、登録ってできるのかしら?」


「えっ? グリモワールをお持ちでないのですか!? そうですか、少々お待ち下さいね」


 と、返答した受付のお姉さんは奥へと入っていった。

 背後で冒険者達が何やら俺を見て何か話しているみたいだ。


「おい、見ろよ。今どき本の一冊も買えねぇ貧乏人がいるぜ」


「ギャハハ! 弱そうだしな。まさかあの女のヒモか? こりゃ傑作だ!」


 俺、ここで自決していいすか?


「お待たせしました。ここに名前を書いて下さい」


「は、はい」


 手渡された紙に名前を書いた。


「ん? こちらはどこの言語ですか?」


「えっ」


 普通に日本語で書いたが駄目だったか。でも俺、この世界の文字書けないけど……。


「アンタ、まさか文字書けないの?」


「…………はい」


「約立たずな使用人ね」


 不甲斐ない使用人で悪かったな。


「はい、登録完了しましたよ」


 名前はネフェリムに代わりに書いてもらった。


「ギャハハハハ! 本どころか、文字も書けねぇときたか! 末代までの恥だろ!」


「あ、兄貴! アイツが末代に決まってるじゃないですか! 冗談やめてくださいよ!」


「教えてくれよ! 一体今までどうやって生きてきたのかを!」


 ……………………。


「ネフェリム」


「ん? どうしたの?」


「俺、やっぱり幽霊のまま生きていくよ。元に戻せないか?」


「…………………………」


「いや、無言で肩に手を置くな」


「そんなにことはどうでもいいわ、クエストに行きましょ。どれがいいかしらね」


「出来れば、危険度の低いので」


 最初のクエストで死んだら、笑い話にもならない。低リスクで安全なクエストがいい。


「大丈夫よ、戦力として期待してないから」


 ……男としてそれはそれで傷つくな。


「『縄張り争いに破れた手負いのイフリートが街から東の平原を歩いて居ました。とても怖いです。退治してください。右角が折れているのが特徴です』……か、これは無理ね」


 イフリートって炎を纏う山羊だっけ、ゲームとかで得た知識がこんなところで役立つとはな、ちょっと見てみたいけど秒殺されそうだ。


「『ドラゴンの背中に乗ってみたいので捕まえて来てください!』……無理に決まってるでしょ」


「『ワーウルフをかいたいのでほかくしてほしいです』……子供が書いたのかしら?」


 ……録な依頼がないな。大丈夫かよ。


「『北東の森に生えている、サチロスだけを取ってきて下さい』これにしましょう!


 採取クエストか、これなら大丈夫だろう。ゲームならよくフラグが立つタイプだが、そんなことはないだろう。


「受注したのはいいけどさ、俺丸腰なんだけど」


「武具はギルドで借りられるから大丈夫よ、壊したら弁償だけどね」


 なるほど武器を借りられるのか。

 俺は武器の貸出場へ向かう。

 大剣、片手剣、弓、杖、槍、斧…………どれがいいだろうか。

 武器なんて持ったことないぞ俺。

 大剣ってこんなにでかいのか、俺と同じぐらいの高さだな。流石に持てないから止めとくか。

 両手剣ならいけるか、……う、ぐ、重い。

 両手剣を全力で持ち上げる。上げるだけで精一杯だ、これを振るって戦うのは無理そうだ。

 駄目か、片手剣にしよう。

 俺は鉄の片手直剣を手に取る。これでもそれなりに重い。

 これを両手剣として扱ってようやく振るえるレベルだ。

 日頃からゲームばかりで怠けていた弊害へいがいがここで……!

 鎧は、要らないか。多分歩くけないのが目に見えてる。

 準備は整ったな。まあ、片手剣を持っただけだが。



 まあ、ともかく……「いざ、出陣!」


「………………どうしたの、急に」


「あれだよ、ほら。気合いを入れる、みたいな?」

 

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