28話 see you again in the afterlife
空が赤く染まり始め、宿へ向かう人通りの少ない一本道。
「デザイア。ちょっと歩いてばっかりだし、そろそろ宿に戻ろうか」
《ええ、そうしましょう》
俺達は街中を歩き回ったので、宿に戻ることにした。
宿に戻ってなにかゲームでもして遊ぶとするか。
にしても、全くアイツら人をコソコソつけ回って何をしていたんだ。
狩人の魔法、《サーチ》でバレバレだった。
ネフェリム、レフォン。一体何がそんなにおかしいのか。
お前らもしかして俺に妬いてるのだろうか。
悪いがお前らを選ぶなんて事は無い。
俺はもう、一生を共にするパートナー、デザイアが居るのだ。
「あ!ワタル!こんな所で会うなんて偶然ね!」
突然、ネフェリムが俺達の前に現れた。
ずっと俺の事を付け回していた癖に白々しく、演技をする。
「なんのようだ。俺は愛しのマイハニーとデート中なんだ、手短に済ませてくれ」
「ワタルが彼女?ま、どうせコレに物を言わせて雇った風俗嬢かなんかでしょう?ワタルがこんな美人と付き合える訳ないじゃない」
親指と人差し指で輪っかを作って話すネフェリム。
こいつ、言いたい放題いいやがる。
《撤回して下さい!ワタル様はそんな方じゃありません!》
「デザイア?」
《ワタル様はお金はないけど、私を色んな所へ連れて、楽しませてくれました!そして私は風俗嬢なんかじゃありません!》
デザイア、俺の為にそこまで。
「ワタル。もう、ズバっとハッキリ言わせて貰うわ」
「な、なんだよ」
「この子には、魂が入ってないわ」
《…………………………》
とうとう人形だとバレてしまった。ネクロマンサーのネフェリムには魂を感じ取る事が出来るのだろう。
まあ、いつかはバレるとは思っていたが……。
俺はきっと皆に軽蔑されるだろうが、仕方ない。
デザイアは俺が全財産を叩いて買ったんだ。
「ああ、そうだよ!デザイアは人形だ!俺が店で買ったんだ」
「えっ!人形って知ってたの!? それに買ったってどういう事!?」
「デザイアはグリモドールと言ってな、淫楽解放魔道自律人形なんだ」
「やっぱり……自分の性欲を満たす為だけにわざわざ人形を買ったっていうの?」
「そういうことだ!ちなみに名前も見た目も体格も性格も全て俺の好みに合わせて作って貰った」
「…………………………」
ネフェリムは絶句していた。
「ワタル。まさかあなたがここまで落ちぶれるなんて思わなかったわ。人形で…………その…………性欲発散って…………」
「ああ、そうだ!何が悪いんだ!デザイアは俺が全財産を叩いて買ったんだ!文句あっか!」
「成程、聞かせてもらいましたよワタル」
後ろを振り向くと、レフォンが立っていた。
つい熱くなりすぎてレフォンの接近に気が付かなかった。
いつの間に《サーチ》を解除していたのだろう。
「レフォンまで……」
「ワタル。落ち着いて聞いて下さい。その人形はただの人形ではありません。このままではワタルが――」
「魔力を吸い尽くされるんだろ!分かってるよ!そんな気はしていたんだ」
分かっていた。デザイアに触れる度に体から力が抜けていくのが。
レフォンの接近に気が付かなかったのもデザイアと手を繋いでいて、《サーチ》に使う魔力が無くなったのかもしれない。
「例え魔力が尽きようとも、俺はデザイアと一生にいるんだ!」
「ワタル!目を覚まして下さい!」
「そうですよ!それは人ではありません!ただの無機物です!」
なんだよ、二人まで。物を愛することがそんなにいけない事なのか?
「この際ハッキリ言うがな!人間はもうオワコンなんだ!時間と共に劣化していく人間なんて人形に勝てる要素ゼロだろうが!デザイアは俺が死ぬまでこの美しさを保つ事ができる」
「はぁ、堕ちる所まで堕ちましたか。あの人形を破壊しましょう」
「それしかなさそうね」
ネフェリムとレフォンがデザイアを破壊しようと近づいてくる。
「ワタル。そこをどいて下さい」
「そうよワタル。人形と交尾なんて馬鹿なことしてないで、早く晩御飯作って頂戴。もう暗くなってきたし」
「まだしてないわ!女のお前らには分からないかもしれないが、俺がどんなに夢見たシチュエーションか……」
俺が昨夜、悩みに悩み抜いた上で完成させた、俺が想像の限りを詰め込んだ最高の美少女。
「あの店は人形を使って、人々の魔力を集めるお店なんです。その魔力で何やら違法な魔法実験をしているのだとか噂が絶えません。あの店の客は次第に魔法が使えなくなっていく病になるんです。いいんですか!魔法が使えなくなっても!」
「…………………ッ!」
《…………………………》
デザイアはあの店で俺の魔力を吸い取る為に作られた。
デザイアに騙されていたのか?
いや騙していたのはあの店だ。デザイアは関係ないだろう。
でも、このままじゃ俺は……デザイアに……。
「分かった」
「!やっと分かってくれましたか!」
レフォンは笑顔で語りかける。他の皆もほっと安心したような表情を浮かべている。
デザイアは…………。
《ワタル様。これはあなたの為でもありますから、私の事などお忘れになって下さい。きっといつかあなたのを愛してくれる本物の女性に会えますから》
「デザイア……」
「じゃあいきますよ!『パワード……「待ってくれ」
「ワタル?」
俺はレフォンの腕を掴んでその手を止める。
「俺がやる」
「分かりました……」
レフォンはデザイアから離れ、後ろに下がる。
せめて、自分の手でけじめを付けなくては。
「『ブレイク・アース』」
物質破壊魔法。デザイアは人形であり、生物ではないから指一本触れさえすれば破壊できる。
でも、その前に……。
「デザイアの髪が好きだ。揺らめく炎のような金髪はいつも俺の心を暖めてくれた」
「ワタル?」
「デザイアの手が好きだ。手を繋いだとき、俺はいつも心が安らいだ」
「ねぇ、レフォン。ワタルはどうしちゃったのかしら?」
「多分、最後のお別れと言った所では?」
「デザイアの歩き方が好きだ。俺より歩幅が小さくて、それで…………」
「まだデザイアと別れる決心が出来てないのでしょうね。最後くらいは見守っててあげましょうか」
「……そうね」
後ろが煩い。最後の別れの時くらい黙って見ていてはくれないのか。
――二時間後
「一体いつになったら、壊すんでしょうか?」
「もうかれこれ、三十分くらい経ちますね。レフォン。もうあなたが壊してしまえばいいのでは?」
「私が?でも……」
「しょうがないわね、ここは私が行くわ」
「ネフェリム……お願いします」
「…………来世はお互いまた人間に生まれてやり直そう。一から…………いや!………………ゼ「早く壊さんかい!」
後ろから空気の読めない馬鹿が俺の背中を思い切り押して突き飛ばしてきた。
体制を崩した俺は、魔法を纏った手がデザイアに――。
「ワタル。ワタルー起きて下さい。朝です」
「………………」
「ほら早く!」
「レフォン。うう……」
またいつも通りの朝が来た。
俺とレフォンとネフェリムの、三人で暮らすいつもの生活が。
「…………………………」
「まだ落ち込んでるんですか?」
「…………………………」
「あまりネフェリムを責めないで上げて下さいね」
「分かってるよ。俺の為にやってくれたんだろ?」
「ちゃんと分かってくれて良かったです!」
デザイアは俺が破壊した。
ネフェリムが突き飛ばしてくれなかったら、きっといつまで経っても破壊出来なかったかもしれない。
でも、アレが最後というのは……少し残念だ。
ちなみに、あの店は街の警察によって閉店。経営者は逮捕されたそうだ。
これ以上、俺のような犠牲者が出ないように。
さようなら……デザイア。また会おう……デザイア。
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