25話 これぞ理想の異世界生活
日が上り始め、カルデラの街に人々が現れ始め、活気が溢れ出る。
そんな中、俺はメイド服姿の金髪エルフの美女、デザイアと共にいた。
グリモドールは自律機能と魔導知能が搭載されていてるため、自分で歩く事も出来るし考えて話す事もできる。
見た目も言われなければ人形と分からない程の精巧さだ。
こうして俺と一緒に歩いていても、ごくごく自然だろう。
《ワタル様!行きましょう!》
「あ、ああ!」
凄い!なんかデートしてる気分だ!
人形なのに、全くそれを感じない!
デザイアの髪が風に揺れて靡く。
至福の時間だ。俺の今までの人生でも、ここまで充実した時を過ごしたことは無かっただろう。
今まで、(まともな)女性と二人で街を歩くなんて事はなかった。今日から俺もリア充の仲間入りだ。
人形なんかで寂しくないか?そんなことは……ない。いや、少しはある……かも。
だが、もう俺に本物の女性と付き合うことなんて考えられない。
自分の頭の中で描いた女性が今、隣にいるのだから。
今まで家族にも友人にも抱いたことの無いこの感情はなんだろう。心の奥底から暖まる抱擁感。
この幸福を味わったらもうリアルの女じゃ、満たされないだろう。
俺はデザイアの手を握る。するとデザイアが俺の手を強く握り返してくれる。
街を歩いていると、すれ違う人々はデザイアに目を奪われているのに気がついた。
持ち主……いや、愛人である俺としてはとても鼻が高い。
だが、こうしていても人々がデザイアが人形であると気づく気配は無い。
さて、そろそろ宿に戻ろうと思うが……アイツらになんて言うべきか。近くによれば人形である事がバレてしまうかもしれない。
いや、もうバレてもいいか。引かれるかもしれないが、俺が自分で買ったデザイアだ。
アイツらにどうこう言われる筋合いなど無い。
「なあデザイア。今から家に向かうのだが……」
《あら、早速ですか?いいですよ、我慢する必要なんてありませんから》
「いや、そうじゃなくてだな」
《?》
「今から、仲間にお前の事を紹介しようと思うんだ」
《ワタル様の冒険者仲間ですね!》
「だが……少し困った連中なんだ。あまり刺激しないようにしてくれ」
《困った連中?どのような方なのでしょうか》
「産廃ネクロマンサーと凶暴エンチャンターだ。ちなみに二人とも女だ」
《二人とも女の子ですか……。ですがワタル様を渡すつもりは毛頭ありません!》
そんな設定をした覚えはないが、なかなか独占欲が強いようだ。
デザイアは俺の腕を思い切り自分の方へ寄せた。
まあお約束通り、彼女の豊満な胸が思い切り当たる。
俺たち二人、腕を組みながら宿に戻る。
「デザイア。ここが俺たちの家だ」
《まあ! 素敵なお家ですね!》
それにしても実に人間らしいリアクションをしてくれるな。
デザイアの事、ネフェリムとレフォンにはなんて言おうか。
「さあ、おいで。デザイア」
《は、はい……》
俺はデザイアの手を取りながら、今にも倒れそうな腐った木の扉を開いて、宿の中へと入る。
「ただいまー」
《お、おじゃまします》
宿の中を不気味に感じるのか、俺の背中にピッタリとくっついて離れない。それはそれで、これもまた良い感触だ。
「おかえりなさい。こんなに朝早くからどこへ行ってって……………………ええっ!誰ですか!?その人は!」
レフォンが目を擦りながら、階段から降りてきた。
「紹介するよ。この子はデザイア。俺の愛人だ!」
《あ、愛人だなんて……》
「あ、あ、愛人!?」
レフォンは目を見開いて驚く。
「ワタルに愛人だなんて……これは何かの夢ですか!?『パワード・エンハンス』」
レフォンはわざわざ攻撃増幅をして、自分の頬を強く引っ張る。
「い、いたいれすぅ」
「これで分かってくれたかな?」
「ま、まさか本当に……」
《本当です!》
デザイアは俺にしがみついて、アピールしてくれる。
いいぞ!もっと見せてやれ!
「な、成程。未だに信じきれませんが、その様子じゃ本当っぽいですね。ど、どうぞお幸せに……」
レフォンは頭を掻きながら俺たちに祝福の言葉を送る。
《そう言えばもう一人、お仲間がいると仰っていませんでした?》
「ああ、ネフェリムなら多分寝てる」
「ええ、安定の正午起床ですからね」
《しょうごきしょう?》
「まあ、ネフェリムの事は放っておいて朝飯にでもするか」
「そうしましょう。私はグリネット焼きを乗せたトーストでお願いします」
「へいへい。デザイアはどうする?」
はっ……!!デザイアは人形だぞ?食事なんてする訳ない!でもデザイアだけなにも食べなければ、レフォンに怪しまれてしまう!ど、どうすれば!?
《ワタル様。私は結構ですわ。あまりお腹が空いておりませんので》
そう言うと、デザイアは俺に向けてウインクをとばしてきた。
成程、俺の意図を察してくれたのだろう。なんて出来る子なんだ!
「わ……分かった」
自分のとレフォンの朝飯を作り、食べ始める。
「う~ん!めちゃくちゃ美味しいです。デザイアも少しだけ食べてみては?とっても美味しいですよ?グリネット焼き」
おい!レフォン!余計な事を言うんじゃない!
《ええ……ですが……》
「一口だけ食べてみて下さいよ!」
「で、でしたら……」
まずい!レフォン、頼むからデザイアに食べさせようとするのを止めてくれ!
するとデザイアはレフォンのグリネット焼きを一口だけ齧る。
すると、そのまま俺の口へと近づけて……そして……。
えっ……。ちょっとこれってまさか。
「――――――――――!」
俺のファーストキスは奪われた。
人形だが、これはカウントしてもいいよな?
やがて、デザイアが俺の口から離れると。
《はぁ…………はぁ…………》
デザイアは息を荒くして、先程の距離感に戻る。
口の中にデザイアが口に含んでいたグリネット焼きの味がする。人形なので唾液は出ないから別に普通だが。
初めてのキスの味はまあ、無機質なものだったのだが、それでもつい意識を奪われて体の神経がデザイアに支配されるような、そんな快感だった。
そしてデザイアの唇の柔らかさは生涯忘れる事はないだろう。
「ちょっ……!ちょっと二人とも!お熱いのは構いませんけど、場所を考えて下さいよ!朝っぱらからなんて事を!それにデザイアも食事中ですよ!全くはしたない!」
それを見ていたレフォンは顔を赤くして憤る。
「そう怒るなって、レフォン。お子様のお前には分からないかもしれないが、いつか分かる時が来るさ」
「ムカッと来ますね!なんですか!? 全くもう、惚気けて!」
「それじゃ俺達はデートにでも行ってくるから、代わりに皿洗いは頼んだぞ」
《それじゃあ、レフォン様。今後とも宜しくお願いしますね》
「ちょっと!待ってくださいよ!それはあなたの仕事でしょう!?」
俺達は再び外に出て、デザイアと二人きりの時間を満喫する事にした。
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