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21話 絶叫! 命無き者たちのコンサート

「えーと、お茶でもどうぞ」


「アリガトウ……」「イタダクワ……」「ドウモ……」「ウメェ……」


 家のリビングにゾンビ、スペクター、スケルトン、ミイラの四体のアンデッドが集結した。

 この四人、もとは人間だったらしく。ゾンビさんがさっきいった通り廃棄所の近くで煙を吸い込んだらいつの間にかアンデッドの姿になっていたという。

 俺が昼間に毒舌ポーションの廃棄にいった時は、そのような煙はなかったので、昼以降に起きたことになる。


「とりあえず戻す方法を見つけないとな」


「トコロデ、ソノコダチジョウブナノカシラ?」


 ミイラがソファの上で気絶しているレフォンを心配する。口調的に女性だろうか。


「アア、――ハミイラデモウツクシイヨ」


「ヤ、ヤダ――……コンナヒトマエデハズカシイワ」


 スペクターとミイラがイチャつき始めた。どうやら二人は恋人同士のようだ。

 アンデッドの腐った声帯のせいで名前が上手く聞き取れなかったので、とりあえず二人をスペクターさん、ミイラさんとしておこう。



 ※以下、アンデッドのセリフは通常通りになります。



「それで僕達はどうしたらいいのかな? 表に出ると神官プリーストに退治されてしまうよ」


 スケルトンさんは肉のない体を抱き寄せてカタカタと震えている。


「とりあえず、うちの死霊術師ネクロマンサーが戻ってくるまで待ってましょう。何か分かるかも」


 一時間後――


「遅いな……アイツは何をやっているんだ」


 夜も遅いので、気絶したまま目覚めることなくそのまま寝てしまった。

 その一方でアンデッド達は誰が一番マシかで争っている。

 もしも、元に戻らなかった時の事を想定しているみたいだ。


「へっ、ミイラなんてアンデッドのなかでも一番雑魚じゃないか! どう考えてもスケルトンの方が強いに決まってる!」


「俺の彼女になんて事をいうんだ! 見てみろ! 包帯に覆われてても分かるだろ、この完璧なスタイル!お前の目は節穴か?」


「節穴じゃないわ!」


 見事に節穴だった。なんせ、眼球がないのだから。


「何をいっているんだ。ゾンビが一番優れているに決まっているだろう。なにせ仲間を増やすことができるのだからな」


「はっ、馬鹿も休み休み言え。お前の体から漂う腐臭がきついのだよ。仲間を増やす? とんでもない」


「そういうスペクターこそ、お前は霊体。彼女と添い遂げることなど不可能! そういう意味では実態を持つゾンビの方が優れている!」


「ふざけないで! ダーリンになんて事を言うの!」


「うるせえ! お前なんて裸に包帯巻いただけの痴女だろうが! 一度でも外を歩いてみろ、速逮捕だ」


「酷いわ! ダーリン、あのゾンビを倒して!」


「ああ、任せろ! よくも俺の――を火葬してくれる!『ファイア』!」


 スペクターさんが放った弱々しい火球はゾンビさんの顔横を通り抜けてミイラさんに着弾。


「ああああああああああああああっ! 燃えてる! 燃えてる! 私の包帯に燃え移ってる!」


「ご、ごめん! すぐに消すから大人しくしててくれ!」


 見るに堪えない。というか、室内で炎魔法を撃たないで欲しいのだが。

 早く彼らにもどってもらう為にも俺はネフェリムを探しに行く事にした。


 俺は急いで墓場まで戻ると、何やらカラフルなライトが夜空に向けられているのが見えた。

 近づいていくに連れて、徐々に聞こえてくるのは軽快なアイドルソング?のような音楽。

 真夜中だと言うのに爆音でライブを開催している馬鹿がいるらしい。

 幸い、墓場は住宅街から外れた場所にあるので怒鳴りこまれる事はないだろうが。


『深紅の~池に揺られ堕ちていく~♪』


「「「Foo!」」」


『月と太陽を汚して~アイル、キル、ゴッド!!』


「「「go away!!」」」


 墓場を覗いてみると、一人の少女が不謹慎にも墓石の上で乗ってマイクを握っていた。

 不安定な墓石の上でも、器用に軽快なステップを踏みながら観客に向かって、美しい?歌声を届けている。

 ちなみに観客は見る限り、人ではない。

 というか、この世に存在していけないものような気がする。

 彼らも彼女の歌声に合わせて歓声を上げる。

 そして、肝心の歌う少女は……長い黒髪に深い翠眼。魔法使いを彷彿とされる黒いローブ、そして不気味にも顔には髑髏の片割れた仮面を被っていて顔の半分は隠れている。

 当然、そんな少し……かなり頭のネジが外れた人間など一人しかいない。

 そう、ネフェリムである。自分で受けたクエストだというのに一体何をしているのか。

 俺は墓場をぐるっと一周してネフェリムの背後から忍び寄った。


『全身の血は~そう、ドリンクバー~♪』


 俺がいることには気づいてないみたいだ。というか歌詞が意味不明過ぎる。

 へへへ、少しイタズラしてやろう。


「『ウォーター』」


 小声で魔法を唱え、両手に球状の水を生成した。

 だいたいバケツ一杯分くらいだろう。ふわふわと浮遊させている。


「『コールド』『コールド』『コールド』」


 冷却魔法で水を凍らない程度に冷やしておく。

 指ですこし触れてみると、震えて指先が赤くなるくらいには冷たい。めちゃくちゃつめたかった。

 さて、今は深夜。しかも昼間でも肌寒いと感じる季節。

 冷却した水の玉を浮かしてネフェリムの頭上に移動させる。

 今も楽しげに歌っている。日頃から俺の事を奴隷扱いしてくれた恨みだ、喰らえ。

 俺は水に込めていた魔力を全て抜いた。

 魔力を失った水は、重力に引っ張られてそのままネフェリムの頭上に落ちた。


『うわああああああああああああああああっ!!』


 マイク越しにネフェリムの絶叫が響く。うるせぇ。

 墓石から転げ落ちるようにして、悶えた。


「はぁ、全くお前はこんなところで何をやっているんだ」


「ワタル……アンタの仕業ね!」


 涙目で俺を睨んでくる。少しやり過ぎたような気もするが大丈夫だろう。


「早く戻ってきてくれ、お前が居なきゃどうにもならないんだ」


「人に冷水ぶっかけといて……なんでそんなに偉そうなのかしら……へっくしょん!」


「それで、このアンデッド達は?」


「わわわ私が彼らの遊び相手になって上げてたのよ……ここのアンデッド達、暇してたみたいだし」


 と、グリモワールからバスタオルを取り出して頭を拭きながらそう答えた。

 死者を認識する事ができるネフェリムからすれば、命の生死などあまり重大なことと受け止めていないのかも知れない。


「へっくしょん!……服もビショビショだわ」


 アンデッド達はいつの間にか自分の墓場へと帰っていった。


「よし、そろそろ戻るぞ。レフォンが待ってる」


 そう言えば、ゾンビさん達とレフォンをそのまま置いてきてしまったけど大丈夫だろうか。早めに戻ろう。


「おい、ネフェリムさっきから何をして……」


 ネフェリムの方に目を向けると、バスタオル一枚だけを体に巻いて突っ立っていた。


「な、ななななんで脱いでんだお前!」


「誰かさんのせいで服がビショビショに濡れちゃったせいでね。あれ? ワタルったらどうしたのよ、顔赤くして。まあ、でも使用人と雇用主高い壁があるから流石にちょっと……ってどこ行くのよ!」


「……帰るぞ」


「むー」



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