表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/34

20話 吊り橋効果なんて無かった

 作戦会議をしたその日の夜。


「さあ! 準備はいい? アンデッドを退治するわよ!」


「「おー」」


「ちょっと、どうしたのよ二人とも? テンション低いわよ」


「だってアンデッドモンスターは霊体ですからね、私は活躍できませんし……」


 とレフォンが不満を垂らす。あと殴りがいもないので面白くない。とか言っていたのは聞かなかった事にしよう。

 深夜の街に三人の冒険者が駆り出された。

 夜はとても静かだ。今は丁度秋から冬にかけている頃なので、レフォンに寒さ耐性をかけてもらっているがそれでも少し寒い。


「アンデッド全然いなくねぇか?」


 家から出て三十分くらい経つ。特に変わった所はない。


「とりあえず……お墓、行ってみる?」


 ネフェリムはどこか嬉しそうにそう言った。

 まあ、アンデッドならお墓にいるのが定番だろうと言うことで来てみたが……


「ううう……もう帰りましょうよ……」


 レフォンが既に俺の背中にしがみついて離れない。

 魔法をかけているのか掴む力が異常に強い。

 アンデッドが出たらどうしてくれる。実態のあるモンスターはお前が頼りなんだぞ。


「どうだ? ネフェリム、アンデッドモンスターいるか?」


「ええ、いるわ。それもとびっきりの大物よ」


 ネフェリムは杖を持ちながら一人で暗い墓地の闇の中へと堂々と入っていく。


「い、嫌です! ワタル、私達だけでも帰りましょう! ほら早く!」


「ああ、そうしよう。どの道俺達いた所で役に立たないしな。という訳だし、俺達は帰っていいよなネフェリム。……ネフェリム?」


 いつの間にかネフェリムが消えている。

 墓地の方を覗いて見ても暗くてなにも見えない。今にも何か恐ろしいものが飛び出してきそうだ。

 墓地の入り口に取り残された俺とレフォンは身を寄せあい、周囲を警戒する。


 と、その時。


 ――アアアアアアアアアアアアアアアアアァァァ


 何かの呻き声が墓地の方から聞こえてきた。


「「うわああああああああああああああああああああああああああああ!!」」


 俺とレフォンは一目散にその場から逃げ出した。


「あああああ! 『スピード・エンハンス』!」


「あっ! ずるいぞ! 俺にも魔法かけやがれ!」


 自動車にも負けない勢いで墓場から逃げるレフォン。

 俺はなんとか息も絶え絶えになりながら、追いかけていく。

 すると、前からレフォンが引き返してきた。


「すいません、やっぱり怖いので一緒にいることにします」


 よう言うとレフォンは俺を担ぎあげて。


「うわああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 二人で暗い夜の街街を駆け抜けていく。

 静かな空気も誰かの絶叫のお陰で見事に破壊されている。

 絶叫の主? 勿論俺だ。

 レフォンの全速力で担がれるのは絶叫系アトラクションも目じゃない。

 アンデッドに怖がっていたのも、いつの間にかこの状況に恐怖している。


「はぁ、はぁ、ここまで逃げれば大丈夫ですよね」


「死ぬかと思ったわ! アンデッドよりお前よ方が怖いわ!」


「急に担いだのは謝ります。でも、あの謎の声を聞いて……気が動転してしまって……」


 墓場から街の近くの廃棄所まで戻ってきた。

 もうこのまま帰ってしまおうか。そう、思いかけたときだった。


「アアアアアア……」


 背後から何かが聞こえてくる。

 まさか……


「ワタル? 今のは貴方の呻き声ですか?」


「え? 違うけど? レフォンのお腹の音かと……」


「し、ししし失礼な! 私達以外に誰がいるって言うんですか!」


「タ、スケテ……」


 ここまで来たらもう聞き間違えてはいない。

 俺はそっとレフォンの手を強く握りしめた。

 レフォンの小さな手は汗で濡れていた。


「なんですか? この手は?」


「なあ、レフォン俺達は仲間だよな? 仲間を一人見捨てて逃げたりしないよな?」


「既にネフェリムを見捨てているあなたがそれを言いますか?」


「…………」


「アア……」


「よし、せーので一緒に振り向こう。カウントは俺がする」


「いいでしょう。約束ですよ?」


「ああ、俺はレフォンの味方だからな」


 自分で言うのも恥ずかしいがレフォンに眩しいくらいの笑顔を向けておいた。


「じゃあ、行くぞ。5……4……3!」


 俺はレフォンの手を話して全速力でダッシュした。

 済まないなレフォン、お前の事は忘れないよ。


「随分と鈍足ですね。そんなんじゃ何処か凶暴な付与魔術師エンチャンターに後ろから刺されますよ?」


 走っている最中、俺のすぐ後ろからそんな声が聞こえてくる。

 恐る恐る振り返ると、鬼の形相のレフォンが俺のすぐ後ろを付けてきていた。


「はあぁあああああああああああああっ!」


「へぶっ!」


 レフォンの飛び蹴りを後頭部に食らった俺は、そのまま顔面から地面に激突した。


「アアア………」


 すぐ後ろから得体の知れない何かの声が聞こえてくる。

 まだ、諦めてたまるか。

 後ろに向かって手を伸ばし、魔力を集中させる。

 暗くて何かはよく見えないが、そこに何かがいる事だけは確かだ。

 相手がアンデッドなら大抵は光が弱点である事が多いだろう。

 集めた魔力で魔法陣を形成して、その何かに向かってそれを解き放った。


「『フラッシュ』!!」


 俺の右手から放たれた閃光は何かに着弾すると、強烈な光が炸裂し、俺もろとも相手の視界を奪った。


「うっ、目があぁぁぁぁあ!」


「ウゲェェェェェェエエエ」


 何をやっているんだ俺は。今は一人芝居なんてしている時ではないのだ。

 しかし、その一瞬の光で奴の姿が確認できた。


 奴は…………


「コンバンハ」


 ゾンビだった。


「………………」


 へ? 今、挨拶してくれたのか?


「こ、こんばんは……」


 俺もとりあえず、こんばんはと返しておく。

 噛み付いて、俺もろともゾンビになったりしないといいのだが。


「タスケテクダサイ」


「え、え?」


 随分と律儀なゾンビだ。


「ワタシハニンゲン。ゾンビ二ナッテシマッタ」


 片言ながらもゾンビさんは丁寧に経緯を説明してくれた。

 この辺りの近くを歩いていたら突然、煙漂ってきたそうだ。

 その煙を吸い込んだら、ゾンビの姿になったという。

 ゾンビさんだけでなく。中にはスケルトンやスペクターといったアンデッドに変身した人達もいるという。

 どうか、俺達を助けて欲しい。とのことだそうだ。


「俺の仲間に死霊術師ネクロマンサーがいるからどうにかして治してもらうように頼んでみるわ」


「タノンダ」


 俺はソンビさんに住所を教えて家に戻った。

 ゾンビさんは他にアンデッド化した人達を連れてくるとの事。

 たが、しかしネフェリムはまだ家に戻ってきていないようだった。


「おや、生きて帰ってこれたんですね。無事で何よりです」


「ぶっ殺」


「ワタルだって、私を置き去りにしようとしてましたし、お互い様ですよね? あと、ネフェリムは?」


「ネフェリムは……」


 まさかまだ墓場にいるのか?


「まあ、アンデッドをもろともしないネフェリムならそのうち帰ってくるでしょう」


「それでなんだが……」


 俺はレフォンにソンビさんの件を伝えようとしたら、玄関を叩く音がした。


「ん? こんな時間に客ですか。私が見てきますね」


「あっ、レフォン待つんだ!」


 しかし、もうレフォンは玄関を開けて閉まっていた。


「コンニチハ」


 玄関の外にはゾンビさん始め、数々のアンデッドが勢揃いしている。

 レフォンはそのまま後ろに静かにひっくり返えって倒れ伏した。

評価を頂けると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ