19話 アンデッド発生事件
ポーションを納品した事により、ある程度の余裕は出来た。
それに、モンスターが起こした寒波も収まりつつある。
異世界の街には日差しが差し込み、積もった雪を溶かしている。
外では長靴を履いた小さな子供達が元気に走り回っている。
「ワタルー。お茶入れて頂戴」
「はいよー」
「ワタルー。ちょっと肩揉んで欲しいんですけどー」
「はいはいー」
「ワタルー。お腹すいたー!」
「…………ああ」
金に余裕が出来たことでネフェリムは随分と調子に乗りやがる始末。
当初の宣言通り、奴隷の如く扱われてしまった。
「ついでに私のご飯もお願いしますよ。ワタル」
「………………レフォン、お前もか」
現実とはなんとも非情である。
異世界堕ちした主人公がヒロインにアゴで使われるなんて普通あるか!? おかしいだろ!
そして、この生活はいつまで続ければいいんだ。
俺はコンロにある魔法陣を起動する。IHのようなものだ。
フライパンにオーク肉のベーコンと、よく分からない鳥類らしき卵をぶち込んで適当に焼いておく。
「それにしても毒舌ポーション、余っちゃいましたね」
「そうね、邪魔だし。ワタルー! これ後で捨てといて!」
流れるように、次から次へと仕事を増やしやがるネフェリム。
俺はこっそりネフェリムの皿にデスソースをぶち込んで何食わぬ顔でテーブルに出した。
「毒舌ポーションはこの瓶だったよな?」
「え? ええ、そうだったはずよ。多分ね」
ネフェリムは適当に返事をする。さあ、地獄に落ちてくれ。
そそくさと逃げるように、俺は二つある内の一つの瓶、毒舌ポーションの瓶を持って家の外の廃棄所へと向かう。
家から出た瞬間、誰かの悲鳴が聞こえたような気がするが無視しておこう。
何故だか、とても胸がすっとする。
大量に余った毒舌ポーションを廃品として出した後、家に戻ると悶絶し、気絶したネフェリムが家の中で倒れていた。
それから数日が経ち、雪も解けて街の外にはモンスター達の活動は元に戻り冒険者ギルドにはいつもの賑わいが出来ていた。
「何で、またクエストなのよー! 家でゴロゴロしてたいー!」
「文句言うな、また寒波がくる可能性だってあるんだからな? 金は貯められるうちに貯めておくんだよ」
「でも……」
「でもじゃない! レフォンがいるからすぐ終わる! どの道、お前は何もしないんだからいいだろ!」
「私、入るパーティ間違えましたかね……」
俺達三人クエストボードの前で、手頃なクエストを探す。
「性別転換ポーションの製造、か。ちょっと気になるな」
「無しで」「却下です」
「これなんてどうでしょう! イフリート討伐! 戦いがいのある強敵ですよ!」
「死ぬわ! てか、それ前も見た気がする」
「アンデッド大量発生、浄化求む。私、これがいいわ!」
ネフェリムは勝手にボードから依頼書を剥がし、見せつけてきた。
「アンデッドか……お前の専門分野ってだけじゃねぇか」
「そうですよ、霊体には物理攻撃が当たらないのでつまんないですよ」
「まあ、そう言わずに。私だってちゃんとパーティに貢献できるって所をリーダーとして二人に見せてあげないと!」
いつの間に、お前がリーダーになったのか。
「ま、まあそこまで言うのならいいと思いますけど……」
「それとネフェリム、お前ちゃんと説明は読めよな」
「わ、わかってるわよ! えーと、どれどれ。この街中にゴーストやゾンビ、スペクターにスケルトンといったアンデッドモンスターが出没しています。怖くて家から出られません助けて下さい。だってさ」
モンスターが街中に出没? どうなっているんだ?
「モンスターが街に出ることなんてあるんですね。何があったのでしょうか?」
「正直、私も不自然だと思っていたわ。墓地になら分からなくもないけど、街中に出るなんて絶対におかしいわ。死霊術師として腕が鳴るわ!」
「「………………」」
何やら一人で盛り上がっているネフェリムはギルドの受付でクエストを受注しに行ってしまった。
そして、家に戻ってきた俺達は………
「とりあえず、情報を集めるわ」
テーブルを囲うようにして席に着いた俺達はクエストの作戦会議を始めた。
「情報ですか、まず街で聞き込みをするのはどうでしょうか」
「そうねレフォン。それもいいけどもっと手っ取り早い方法が私にはあるの」
「そうなんですか?」
「ええ! 見てなさい! 『ネクロマンシー』!」
ネフェリムは心臓の杖を天井に掲げて、そう叫びだした。
しかし、変わった気配は無い。
「? 何も起きませんね」
「ネフェリムの魔法はいつもなんだか訳の分からん効果ばっかりだしな。それで? 今のはなんの魔法だ?」
「ゴーストを呼び寄せる魔法よ。モンスターを除く、ね」
呼び寄せたってもな……
「あの……私達にはゴーストは見えないんですが……ひょっとしてまさか……」
「ええ、もうこの部屋にゴーストがいるわ」
「ええええええええええ! こ、怖いですよ! 冗談ですよね? ここ事故物件になってませんよね?」
レフォンは突然叫びながらフードを被り、両手で自分の体を抱きしめる。
「お、おいネフェリム。まだレフォンは子供なんだからあまり怖がらせるなよ」
「大丈夫よ、ゴーストは悪い子達ばかりじゃないのよ
今もレフォンの事を優しく見守ってくれてるわ。だから安心して」
「安心できませんよ! 寧ろ怖いんで知りたくなかったです!それと子供じゃないです!」
子供じゃないとは言いつつも、さっきからめちゃくちゃ歳相応にビビりまくっているが、いつものゴブリンを殺している時の強気なレフォンはどこへ言ったのだろうか。
「それじゃ聞き込みを始めるわよ。まず、貴方から今回のアンデッド騒動について教えてくれるかしら?」
といって、ネフェリムは誰もいない虚空を指さした。
「……なるほどなるほど。夜になると突然どこからか
現れると。アンデッドの種類は……自分が見たのはスケルトンだったのね」
突然、居ないはずの何かと会話を始めるネフェリム。
彼女には普通見えては行けない何かが見えてしまっているようだが、こうして見るとただ延々と独り言を呟くやべーやつだ。
「それじゃ次は貴方、教えてくれるかしら?」
「一体じゃないんですか!」
レフォンが叫びだした。
ネフェリムが独り言をぼやき始めた辺りから、突然後ろを振り返ったり、テーブルの下を覗き込んだりと挙動不審だったのだ。
「この感じだと、結構な数のゴーストが居そうだな」
「あああああああああああああああああ」
ネフェリムに続き、レフォンまで壊れ始めた。
今更だが、うちのパーティやべーやつしか居ねぇな。
もしかしたら、俺もそのやべーやつに含まれるのかもしれないが。
突然、レフォンが椅子から立ち上がりキッチンへ向かっていく。
喉でも乾いたのかと思ったが戻ってきた瞬間、家じゅうに食用の塩を撒き散らし始めた。
「うわあああああああああああああああああ! 何すんのよレフォン! 皆が除霊されちゃうじゃない!」
「無理なんですよ! 不気味すぎます! さっきから!」
「だからって塩撒くことないじゃない! うへっ……ぺっ、しょっぱい!」
しばらくしてなんとかレフォンは落ち着きを取り戻してくれた。あと、ネフェリム曰く、家にいたゴーストはどこかへいってしまったらしい。
それに、この塩どーすんの? え? やっぱり? 使用人の仕事ですか、そうですか。分かってるのなら最初ならやらないで欲しい。
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