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18話 切れ味のいい舌

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「ただいまー」


 俺は家に帰ると、大荷物をテーブルの上におろした。


「これが、ポーションの材料? これが道具? なんか楽しそうね!」


 ネフェリムが箱の中を覗き込む。


「勝手に触るな。説明するから大人しくしていろ、この役立たず」


 自然とネフェリムに毒舌を発動してしまう。

 しまった。まだポーションの効果が続いていたのか。

 一体いつになったら効果が切れるんだ?

 俺に飲ませるくらいだから、永続することはないだろう。

 話す度に、これでは人と話しずらい。


「うっ、うわああああああああああああん!」


「あっ、いや。これは違うんだネフェリム」


「ワタル! ネフェリムになんて事言うんですか!」


「これには事情が……」


「『パワード・エンハンス』!はああああああああああああ!」


「うわああああああああああああああ!」


 レフォンに盛大に一本背負いされ、背中から思い切り床に落ち、天井を見上げる俺は、二人にポーションの効果を説明した。



「毒舌ポーションですか。なんだか最近、世間ではこのような性格を変化させたりする遊びが流行ってるみたいですね。私には理解出来ませんけど」


「ねえ、私の事役立たずなんて思ってないわよね?ねえワタル?…………頷くまでの間にタイムラグがあったように感じるんだけど……」


「まあ、そういう訳だ。頼んだぞ、穀潰し、ロリガキ」


「…………ポーションの効果と分かっていても腹立ちますね」


「本人は済んだ顔で平然と言っているのが逆にムカつくわ」


 テーブルの中に大きな鍋を取り出し、中に水と材料を適当にぶち込んで混ぜる。

 そして、魔力のこもった石。魔石から魔力をポーションに注ぐという作業だ。

 とても単純かつ簡単ではあるが、非常に地味かつ長時間かかる為かなり根気が必要である。


 こうして俺たち三人は毒舌ポーションの制作を開始した。



「はぁ、単純作業って疲れますね。ワタル、お茶でも持ってきて下さい」


「あ、私もー」


「はいはい」


「ほらよ」


 お茶をテーブルに出した瞬間、ネフェリムは長時間の作業で疲れているのか一気に飲み干した。

 が、レフォンは何故か飲もうとしない。


「ワタル、あなたって本当にお茶入れるの下手ね。使用人として死んでいるわよ。もっと美味しく入れられないのかしら」


「ワタル今、指が入りませんでしたか?気持ち悪いです。金輪際私のお茶を入れないで下さい」


 ………………泣くよ俺?

 いや待てよ。こいつらまさか……。


「あれっ! 何故私はこんな事を!ワタル、今のはその……」


「まな板、穀潰し。お前らポーション飲んだな?」


「ああ!また言った!」


「感情的にはなっては駄目ですよ、穀潰しネクロマンサー。これはポーションの効果で……」


「うわああああああん!レフォンまで!」


 駄目だこりゃ。


「ああもう!お前ら、黙ろう。それしかない。わかったかネフェリム。お口チャックだ」


「ワタルにしてはなかなかいい案出すじゃない」


「…………」


「一言余計だ。ゴミ製造機」


「なんですって!使用人のくせして生意気よ!このクソザコナメクジ!」


「んだと!ゴラァ!」


「二人ともいい加減にして下さい!」


 言い争う俺とネフェリムの間に突然レフォンが割って怒鳴った。


「ネフェリム!」


「はいっ!?」


「あなたは直ぐに挑発に乗るのが駄目なところです!」


「はい……すみません」


「それから、いつもいつも誰がネフェリムの部屋の掃除をしていると思っているんですか!? 毎回毎回ゴミだらけにして、女として死んでいます!」


「…………」


 それを聞いたネフェリムは魂が抜けたようにテーブルに突っ伏して拗ねてしまった。


「ワタル!」


「はいっ!?」


「あなたも同じです!クエストの度に私の背中に隠れてばかりで!私が教えた魔法と、その弓矢はいつ活躍するのですか!年下の女の子に毎回しがみついて、よくのうのうと生きていられますね!」


「…………」


 この時、俺のプライドは完全に破壊された。

 このポーションはもう二度と飲ませまいと誓った。

 俺たち三人は今度こそ口を閉じて、黙々と作り続けるのだった。

 



 だが、しばらくの間続いた静寂は突然のドアのノックによって破られた。


「すいませーん。魔導急便です」


 えっ?こんな時に客?誰が頼んだんだ。

 俺はレフォンに目を向けると、無言で首を振った。ネフェリムは小さく手を上げていた。

 もしかしたら、配達員に毒舌の牙を剥く事になるかもしれない。


 というか異世界にも、宅急便が存在するのか。

 窓からチラリと除くと魔道士風の男が箱を持って立っている。

 この世界では配達業は魔法使いの仕事であるらしい。

 後で知った事だが、この世界の配達業は浮遊魔法『フロート』や収納魔法『ストレージ』などを利用して荷物を収納し、空から配達するそうだ。

 こんな寒い中、大変御苦労なことだ。



 ネフェリムは玄関に向かった。

 さて、どうなる。


 ――ガチャ


「ネフェリムさんのお宅で間違いないですか?」


「はい、ここに表札があるから見れば分かるでしょう?頭悪いんですね!」


 初っ端からやってしまった。

 ネフェリムはなんの悪気もない素振りを見せている。突然ディスられた配達員は戸惑いを隠し切れないようだ。


「…………………………え……えっと、ご注文の赤龍の血液です……」


「あっー!やっと届いた!ずっと待ってたのよこれ!」


 さっきとは打って変わって、機嫌が良くなるネフェリム。

 あと赤龍の血液ってなんだよ。何に使うんだ。

 ただでさえ金に困ってるのに、勝手に色んなもの買いやがって。


「あの、お支払いは……」


「グリモワールで」


 ネフェリムはグリモワールを取り出して、配達員に見せる。


「はい。料金分、引き落としさせて頂きました。それにしても最近寒いですねー」


「そんな事は外に出れば誰でも分かるじゃない。そんなありふれたセリフしか言えないのかしら?あと、あなたなかなか絶望的な髪型のセンスしているのね。そんなんじゃモテないわよ?でも、あなたみたいな人にも好きになってくれる人はきっといるわ!まあ、精々頑張って!」


「ええ……………」


「それじゃ、またね」


 配達員は唖然としたまま帰っていった。


「何してんだお前は!」


「喋るなとあれ程言っていたではないですか!」


「え?でも、私何か酷いこと言ってたかしら?」


「言ってたわ!配達員の人が可哀想だろ!わざわざこの雪の中届けてきてくれたってのに!」


「そうだけど、私だってわざと言ったわけじゃないのよ!」


「まあまあ、二人ともまた毒舌になって…………なって…………あれ?」


「どうしたレフォン?」


「あ!やっぱり効果が切れたんですよ!今ちゃんと私の名前読んだじゃないですか!」


「本当だわ!これで喋れるわね!」


「はぁ。やっと切れてくれたか、これでポーション作りに集中できる……」



 依頼を受けて三日後――


 三人で作れば、依頼料を作る事など容易い。

 すぐにポーションを納品し、報酬を受け取りに向かった。


「おお、ワタル君よく作ってくれたよ。これが報酬だ」


「どうも」


「ポーションは意外と簡単に作れただろう」


「ええ、まあ……」


「ちょっと待ってろお茶を出してやる」


「いえ、お構いなく」


「いいのか?」


「はい」


 あの不味いお茶は正直勘弁だ。


「すみませーん」


 玄関の方から男性の声が聞こえてくる。


「む? お客さんか、すまないねちょっと見てくる」


 依頼主は男性の元へと向かった。


「ここですよね?毒舌ポーションが売ってるのは!」


「おお!毒舌ポーションをお求めで!」


「ええ!毒舌は素晴らしい!冷たく罵倒される、あの、ゾクゾク感が堪らんのだ!」


 なんかヤバい人が来てしまった。

 ん?……この声何処かで…………。


「三日前に僕は目覚めてしまったのだ!黒髪の髑髏の仮面をつけた美少女が僕を見て、突き放すように言ったんだ」


 部屋の奥から除くと、前にネフェリムに荷物を届けに来たあの配達員だった。

 なんと、ネフェリムにボロクソに言われて目覚めてしまったらしい。


「ああ、もう一度あの人に会いたい。そして僕をまた罵倒してほしい!」


「ほうほう、いいですねぇ!なんと羨ましい。是非とも私にも紹介してほしいものですな。その美少女とやらを」


「今度食事にでも誘ってこのポーションを盛ろうと思うんです。そしたらまた…………」


 ヤバい男に目を付けられてしまった。

 どうしよう、こんな事になるなんて想定外だ。

 ネフェリムになんて伝えるべきか。

 俺は二人が性癖熱談している間に、こっそりと裏口から逃げ出した。




「――という訳だネフェリム。」


「やっぱりロクな依頼主じゃなかったわね」


「ネフェリム。どうするんです?私がぶちのめしておきましょうか?」


「そうだわ!いい事思いついた!」


 そういうと、ネフェリムは寒い中家を飛び出した。

 外を除くと何やら雪の下に何かを埋めているようだが、何をするつもりなのだろうか。


 その晩のことだった。


「御免下さい!ネフェリムさんはいらっしゃいますか!」


 とうとうあの配達員が来てしまった。


「おい、ネフェリム。やっぱり俺が出て――」


「その必要は無いわ」


「何をするつもりだ?」


「それはね――」


 ネフェリムはニヤリと口角を上げて、心臓の杖を構え、何かの魔法を発動させた。



「あのーすみま」


 ――ガチャン!


「ひぃい!な、なんだ!?」


 配達員の背後で門が勝手に閉じたのだ。

 これで彼の逃げ場は無くなったわけだが、この後の事を思うとちょっと気の毒だ。


 ――アアア、ウウー


「へ?」


 配達員の足元の雪から何かが這い出てくる。

 それは腐った人型の何かだ。

 雪の下から現れたそれらは配達員を囲むかのように這い出て来ていた。


「う、うわあああああああああああああああ!誰か!助けてええええええええええええかかかえええ!」


 配達員の悲鳴は甲高く、冬空の果てに鳴り響いた。


「お、おい気絶しちまったぞ!」

「あーあ、これはやりすぎですね。流石に怖すぎますよ」

「ふん。これでもう二度とこの家には近づこうとはしないはずよ!」


 恐らく、この出来事は彼の心の中に消えないトラウマとして一生残ってしまうだろう。


「さあ、ゾンビ達。この男を家の外へ放り出しなさい!」


 ネフェリムは窓から顔をだして、ゾンビ達に命令した。

 ゾンビ達は兵隊かのように、見事に揃った動きで配達員を家の敷地外へと放りだした。


「なかなかネフェリムも恐ろしい事をしますね」


「あのゾンビ達どうするんだ?」


「あ……そうね。んー適当な場所に放っておきましょ」


「いや、駄目だろ!」


 止める間もなく、ゾンビ達は綺麗に隊列を組みながら、どこかへと向かっていった。

 今が夜でなかったら大騒ぎになる所だった。

 なんとか一件落着?なのだろうか。

 はぁ異世界にまともは人はいないのだろうか。


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