16話 不穏な冷気
謎の大寒波により、本来は秋である筈の異世界も今は一面銀世界。
街の外にも雪は積もり続け、モンスターや動物達は冬眠を始め、討伐依頼のクエストを殆ど無い。
あるのはこの過酷な環境下でも堂々闊歩する、強力モンスター達。
当然、俺達が適う相手ではない。
クエストが受けられないということは当然、金を稼ぐ手段が無いと言うこと。
今の俺達が一番回避しなければ行けないのは、そう餓死である。
「くそぉ……金がねぇよ」
「アンタ、使用人なんだからなんとかしなさいよ! ほら、お金だして! 私を飢え死にさせる気!?」
「使用人だからって金は出せねぇよ。それにこの寒波が続く以上は節約しなければいけないんだよ。お前のお菓子代は当分の間ゼロだ!」
「はっ、はあ!? ふざけるんじゃないわよ! 私の生き甲斐はお風呂に入る事と寝る事、そしてお菓子を食べる事なのよ!」
「離せ! 首が……締まる! レフォン……た、たすけて」
「はぁ、仕方ないですね」
レフォンがネフェリムを引き離してくれたお陰で一命は取り留めた。
現在俺達の貯金は底を尽きかけていた。安定したモンスター討伐の報酬が貰えていたのだが、どこかの馬鹿が散財してくれたおかげでパァだ。
「普通にバイトでもするか……」
「ええー! 私バイトなんてしたくない!」
「うるせえ! 誰のせいでこんな事になったと思ってんだ!」
「バイトなら早い内に受けておきましょう。きっと仕事は争奪戦になると思います」
この誰も予想できなかった寒波は俺たち冒険者だけでなく、街全体が大打撃を受けた。
クエストを受けられない冒険者達は、仕事を求めて殺到する。早い者勝ちだ。
もし、仕事を見つけられなければ、残された道は死を覚悟で雪原の戦いに挑むか、餓死するまで奇跡を願って、仕事を探し続けるかだ。
移住と言う選択肢もあるが、外に出るのはリスクも高い上に、なにより金がかかる。
ここは日本じゃない。生活保護もなければ、社会保険もないのだ。
「そうだいい事思いついたぞ。ネフェリムお前、自分の容姿に自信はあるか?」
「当たり前よ! 生まれた国では街一番の美少女なんて呼ばれてたくらいよ!」
「そうかそうか、それは良かった! お前ちょっと水商ば、ぐへぇ!」
「はぁ、ワタル。それは流石にあんまりですよ。ネフェリム、貴方の腎臓一つ売ってきて下さい。結構な額で売れると思いますよ」
「二人ともあんまりよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ネフェリムは泣き出した。
「悪ぃ悪ぃ、冗談だよ。なぁレフォン」
「えっ……ええ!そうですよ!す、少し言い過ぎました」
「ほ、本当に?…………ちゃんとこっちを見て頷いて欲しいんだけど……」
半分本気なんて言ったらまた泣かれるので黙っておこう。
レフォンの目が泳ぎまくってるが、まさか腎臓を売れなんて本気で言ってた訳じゃないよな?
「仕方ないわ。ここは三人力を合わせてこの寒波を乗り切りましょう!」
お前が言うな。
「討伐が駄目なら、国家ギルドのクエストを受けるというのはどうでしょう?」
「国家ギルド?」
体を揺さぶってくるネフェリムを払い除けて、グリモワールを取り出して、国家ギルドに着いて調べる。
「『検索ッ!――国家ギルド』」
《国家ギルドに関する情報はこちらになります》
――国家ギルド
街から出て、モンスターの討伐やアイテムの採取といったクエストを扱う冒険者ギルドとは異なり、一般人からの依頼や商人らが利益を保証するという目的で設立された。
要するに、何でも屋ってことか。
これなら危険を冒して、街の外へ出ることも、戦う事も無いな。
というか、ネフェリムは何故首をかしげているのか。
初めて聞きましたって顔してやがる。
「それじゃ、行ってみるか」
「ええ、戦うよりかはいいでしょう? まあ、私は戦っても良かったのですが……」
「ふーん。行ってらっしゃい」
「「ネフェリムも来るんだよ!」」
国家ギルドにて――
「うっわ、すっごい人ね」
「普段はこんなに沢山人は居ないのですが……」
一般人以外にも、冒険者は結構いる。
皆考える事は同じなのだろう。
報酬は安くても、安全な方を選ぶ。当然の考えだ。
俺はクエストボードへ向かって、クエストを確認した。
『ポーション作成の手伝い』『屋根の雪かき』『病気の母の看病』
なるほど、確かに庶民的だ。
ポーションの作り方は知らないが、誰でも出来そうなものばかりだ。
「レフォン、ポーションってどうやって作るんだ?」
「ポーションですか? 種類によりますけど、この手のクエストは渡された材料を指示通りに鋳造するだけなので難しくは無いですよ」
よし決めた、ポーション作りのクエストを受けよう。