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15話 渾身の一矢(近接技)

 雪が被り、一面白く染まった雪原。

 その至る所で、冒険者達が白い毛の獣と死闘を繰り広げる。

 見た目は狼だが、前足に何層にも連なって生えている鋭い爪がとても現実離れしていて、異世界の生物である事を思い知らされる。


「ふんっ!」


 早速手に入れた職業、【狩人ハンター】として活躍すべく、ギルドで弓と矢を借りて戦っている。


「はあああああぁぁぁアアア――!」


 レフォンは相変わらずの強さを発揮している。

 彼女に飛びかかった、ホワイトファングは数秒後には地面に倒れ伏していた。


「ワタルー、レフォンー、皆頑張れー」


 ネフェリムは…………。

 うん。分かってたよ。

 死霊術士(ネクロマンサー)は戦闘に向かないからずっと後ろ(約五十メートル後方)で声援を送り続ける。

 前に、森でゴブリンと遭遇した時見たいに憑依してぶっ倒れられても只の邪魔にしかならないので何かされるよりかは何もせずに大人しくしてくれた方がいいだろう。


 次々に向かってくるホワイトファングに俺は弓に矢をセットし、弦を思い切り引き絞る。

 ここで基礎魔法『ファイア』を矢に込めれば……!


「『ブレイズ・アロー』――!」


 弦を離し、弓から放たれた矢は炎の矢へと変化した。

 炎の矢はホワイトファングの体を貫き、あっという間に灰と変わる。


「おおっ!凄い!」


 これだよこれ!俺が求めてたのは!

 初めてまともにかっこいい事が出来た気がする。


「ワタル!大変です! ホワイトファングが沢山こちらへ向かってきます! ワタルは援護をお願いします!『パワード・エンハンス』!」


 レフォンは自信に魔法を掛け、モンスターの群れへ突っ込んでいった。

 モンスターを殴っている時のレフォンは本当に生き生きしているなあと思いながら、二本目の矢を引き絞る。いつか生き物を痛めつけることに興奮を覚えるようなサイコパスになったりしないか少し不安だ。いや、今でも少しそれ感じさせるような一片は見受けられる。

 ネクロフィリアとサディスト……ちょっと勘弁して欲しいかな。


「『ブレイズ・アロー』!……『ブレイズ・アロー』…………『ブレイズ……アロー』……ハァッ、ハァッ、『ブ、ブレイズ……アロォ』…………」


 弓ってのは結構力が必要なんだな。これは想定外だ。数本物打っただけでもう腕が動かない。

 ただ矢の火力は馬鹿にはならないもので、トレントだろうと一撃に葬る事が出来ていた。

 にしても、歳下の女の子に前衛をさせて、自分は安全な後方から矢を撃つだけというのは、なかなか酷い絵面だ。


「ワタル!そっちへ行きましたよ!」


 流石のレフォン一人では、大量のホワイトファングを仕留め切れずに、レフォンをくぐり抜けてこちらへ向かってくる。


「うわああああああああ! ワタル、なんとかしてえええええええええ!」


「ネフェリム! お前は静かにしてろ!」


 しかし、もう矢を撃つ体力なんざ残っちゃいない。だが、手が無いわけではない。


「フッ……かかったな!」


「流石ワタル! 役に立つじゃない!」


 ホワイトファングが踏んだ地面から魔法陣が浮かび上がり、突如落とし穴が出現してそのままモンスターは穴へと落ちていく。


 狩人(ハンター)は弓だけでなく罠魔法を使うことができるのだ。

 こんな事もあろうかと、モンスターが接近してきた時の為にあらかじめ、正面に罠を張っておいたのだ。

 すると見事に落穴魔法『トラップ・フォール』が発動し、ホワイトファングが地面の底へと埋もれていく。


 穴の中から這い出てこようとするホワイトファングを矢で突き刺して仕留める。


 ん?待てよ。そうだ!最初からこうすれば良かったじゃないか!

 俺は弓を放り捨てて、両手に矢を持ちレフォンの近くへと移動する。


「レフォン、強化魔法を頼む!」


「えっ!?何してるんですか!あなたは後衛でしょう!『パワード・エンハンス』!」


 レフォンは俺の行動に驚きながらも律儀に攻撃増幅魔法をかけてくれた。


「おらあああああああああ!」


 俺は群がるモンスター達を矢で突き刺して回った。

 モンスター達は面白いくらいに燃える、燃える。


「そんなの、狩人の戦い方じゃないでしょう!邪道ですよ、邪道!前衛は私に任せておけばいいのです! その獲物は私が狙っていたやつです! 横取りするのはやめてもらいますよ!」


「ならどっちが沢山仕留められるか勝負だ!」


「望む所です!」


「二人とも頑張れー」


 それからしばらくして――


「よし、大体片付いたな」


「特に何事もなく終わりそうですね」


 ホワイトファングの群れの討滅は終わった。ちなみに、俺とレフォンの勝負は俺の惨敗だった。

 途中で矢が折られてしまい、レフォンに助けを乞うと言う情けない醜態を晒したのだ。


「やっと帰れるの!? 帰ったら何か美味しい物でも食べましょうよ!」


 何もしてない奴がよくもまあそんな事を言えたものだ。

 その肝の座り方には関心だ。


「ネフェリムは何もしてないでしょう」


 俺が心の中で思っていた事をレフォンがぶちまけてくれた。


「わ、私だってやればできるわよ!」


「なら次クエストに行く時はお前一人で何とかしてくれ。俺とレフォンは後ろで見てるから」


「え? いや、待ってよ、そんな――」


「あ! 来ましたよ!」



 俺たち三人、白い息を撒き散らしながら言い争っていると、再びホワイトファングの群れがこちらへ向かってくる。


「よし、ネフェリム、任せたぞ。普段は役立たずなお前の貴重な活躍シーンを一つくらいは作ってくれ」


「えっ?」


「期待してますよ!ネフェリム!さぁ!」


「えっ、ええ!み、見せてやるわよ! 『ネクロリザレクション』!」


 心臓の杖を天に掲げたネフェリムはしばらくそのまま硬直する。



 ………………。

 今度は倒れなかった。


「ネフェリム。今のはなん……え!?」


 先程、俺とレフォンが仕留め、地面に転がっていたホワイトファング達が一斉に動き始めたのだ。

 体を大きく切り裂かれ、内臓が飛び出たもの。

 頭部が大きく変形し、顔なのかどうかもわからないもの。

 もはや、動いてはいけないものが動き始めたのだ。

 突然だが、かなりグロテスクで思わず目を背けてしまう。


「おい!なんだよ!どうなってんだよ!」


「ネフェリム!何をしたんですか!やばいですよ!」


 ネフェリムもレフォンも死体慣れしているだけあって、グロ耐性は持っているのだろう。


「さあ、行きなさい! アンデット達、ホワイトファング達をやっつけるのよ!」


 ネフェリムの命令でゾンビ化したホワイトファング達は生きているホワイトファング達に襲いかかる。


 腐肉、血飛沫を撒き散らしながら生前の仲間を食らう姿はなかなか、残酷なものだ。

 にしても、アイツもやる時はやるじゃないか。


「ネフェリムも条件さえ揃えば、凄いじゃないですか。条件さえ揃えば」


「そこを強調してやるなよ……」


 ゾンビ化したホワイトファングは生前の力を上回り、ホワイトファングを一掃した。

 そして、死んだホワイトファングもまたゾンビと化し仲間を増やしていく。


「アンデット達、もう戻ってきていいわよ」


 ネフェリムの掛け声でホワイトファング達は綺麗に一列に並んでお座りする。


「どうよワタル。私だってやればできるでしょ!」


「ああ、驚いたよ。そのホワイトファング達はどうなるんだ?」


「適当に離しとけばそのうち死ぬんと思うから大丈夫よ」


 そう言うとネフェリムはホワイトファングを解放した。

 ゾンビ達は遠くへ駆け出していった。

 突然、グロテスクな姿のモンスターの群れが襲ってきたら失神しそうだが大丈夫だろうか。

 どうか、他の冒険者達と遭遇しない事を祈る。


「私達は十分戦いましたし、戻りましょう。寒冷耐性付与魔法もそろそろ切れますし」


 辺りにモンスターが居ないの確認した俺たちは街に戻る事にした。


 後日、ゾンビ化したホワイトファング達が冒険者達の脅威となる。




 

そりゃあ、唯の高校生が弓で無双……なんて無理ですよ。

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