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12話 取り戻した平穏?

 

 俺が盗賊に拉致された翌日、盗賊は逮捕された。


「はい、これ。持っておきなさい」


「これって……」


 ネフェリムから手渡されたのは一冊の黒い本だ。


「グリモワールよ。今どき持ってないなんて有り得ないし、使い方もちゃんと覚えなさい」


「あ、ああ。ありがと……」


 試しに中を開いてみると。


「読めん……」


 まぁ、分かっていた。


「あっ、ワタルは文字が読めないんだったわね。表紙の魔法陣に手を当ててみて」


「こ、こうか?」


 本を閉じ、表紙に書かれている魔法陣に手を当てると、じわじわと光り出した。


「それじゃ本を開いてみて」


「おお、おおおおおお! 読める! 日本語だ!」


 なんと、先程まで訳の分からない異世界文字が全て日本語に翻訳されているのだ。


「日本語? どこの国? それは使用者の一番理解している言語に自動翻訳してくれるのよ。あと、その本絶対無くさないでね。身分証みたいなものだから」


 いつの間にか本の表紙には自分の名前が刻まれていた。

 クエストの登録時に必要と言っていたのはこういう事だったのか。


「あ、ああ! 無くすわけないだろ!す、すげぇ感動だ」


「えぇ……大袈裟ね」


 これが魔法の力なのか……。どれどれ。

 グリモワールのページを捲ると今日のニュースと書かれたページがあった。それ以外は何も書かれていない。

 が、しばらくして次第に文字が浮かび上がってくる。


【間抜けな盗賊三人組を逮捕】という見出しが浮かんできた。

 盗賊の一人はカレーの鍋を被った状態、別の一人は嘔吐し、気絶。最後の一人は小屋から十数メートル離れた先で顔面複雑骨折の重症で発見されたと記事には書かれていた。

 まぁ因果応報……にしちゃ報いがデカすぎる気がするが。


 グリモワールはこの世界の必要品。持ってない人はいないという。

 これ一冊さえあれば最新のニュースを見られるし、書籍にもなる。更には財布にもなる。挙句の果てに検索機能までついてる。

 これは昨日クエストでネフェリムが使ってたやつだ。



 事件からしばらくたった日の朝。


「んっ……ぐっ……」


 妙に呼吸がしずらい。

 まだもう少しだけベッドで寝ていたいという欲求を根こそぎ吸い上げられるかのようだ。

 仰向けで寝ている所を、両脇から鼻に圧力がかかる。

 息が出来ない。


「…………………」


 目を開くと白髪の少女、そう、レフォンが俺の鼻をつまんで俺のベッドの脇に立っていた。


「ぷはっ! 何すんだよ! 死ぬだろうが!」


「やっと起きましたか。揺すっても、叩いても起きなかったもので。グリモワールのアラームはセットしていないのですか?」


「え? これアラームまで着いてるのか!? ……って、そうじゃねぇよ! レフォン、お前なんで俺の部屋にいるんだ!?」


「今日から、ワタルとネフェリムのパーティに入ることになりました。これからこの家で一緒に暮らしますのでどうぞよろしく」


「ええっ! マジかよ!」


「マジです、まだネフェリムは寝ていますし、早速ですが、少し付き合って下さい」


 俺は言葉を返す間もなく、引っ張られて家の外へ駆り出された。


「それで、どこへ行くんだよ」


「これです」


 レフォンはローブのポケットから一枚の紙を取り出して見せてきた。


「ゴブリンの群れの討伐? なんでわざわざ……レフォン一人で行けばいいじゃないか」


「いいんです。とにかく行きますよ!」


 俺の手を力強く握りしめながら、ずかずかと草原を歩いていく。


「レフォンってネフェリムとは違った魔法を使うよな」


「それは当然でしょう。ネフェリムは死霊術師ネクロマンサー、私は付与魔術師エンチャンターですから」


付与魔術師エンチャンター……それって味方を強化したりする支援専門じゃないのか?」


「一般的にはそう思われているようですね。私は違いますけど。だって仲間を強化だけなんて退屈じゃないですか。私だってモンスターを殴りたいっ!と思った時に閃いたんです。自分を支援して、自分で殴ればいいと。どうです? 完璧でしょう!」


「そ、そうなのか? 戦いたいなら最初から剣で戦えばよくね?」


「でも、私の年齢じゃ危ないからって、お母さんは剣を持たせてくれなかったんです。その代わりに杖を持って「これで皆を助けてあげてね」って言ってくれたんです。私はお母さんに感謝してますよ。このお陰で付与魔術師に慣れましたから。それに、私が前に立てば他の人を助けられますし」


「レフォンのお母さんはきっとそんなつもりで言ってないと思う」



 街から出てしばらく歩いた後、クエストの指定地に到着する。


「いましたねゴブリン。ワタルはここで見ているだけでいいですよ」


 レフォンは例の如く、『パワード・エンハンス』を唱えると颯爽さっそうとゴブリンの群れへ突っ込んだ。


「はあああああぁぁぁぁァ! 死ね!死ね!死ね!死ね!死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ねエェェェェェエ――!」


 とても少女が発する言葉とは思えない程に物騒な事を叫びながら、レフォンはゴブリンを次々に虐殺していく。

 鬱憤うっぷん晴らしに使われるゴブリン達に同情してしまう程の惨状だ。

 ゴブリン達が宙を舞う。


「死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!」


 返り血を浴びながら、レフォンはゴブリンどころか周辺の木々もなぎ倒しながら、しばらくの間ずっと暴れ続けた。


 しばらくして


「はぁ~スッキリしました!」


 自慢の白髪を返り血で赤髪にイメチェンした、レフォンがようやく笑顔を取り戻した。

 その笑顔は年相応の明るさがあり、また返り血を浴びたサイコパス感もあり……

 怖いんだが。

 さっきまで死ね死ねと叫びながら、虐殺していた少女はどこへ消えてしまったのだろう。


 戻ってきたレフォンの表情は出発前とは比べ物にならないほど、柔らかくなっていた。

 そして、草原の美しい草花は一面赤く染まっていた。


「それじゃ、ゴブリンの討伐証明部位の回収、お願いします」


「その為に俺を連れて来たのかよ!お前もネフェリムと同じかよ!」


「何を言っているんです? ネフェリムが言っていましたよ、『ワタルはレフォンの使用人にもしていいわよ』って」


「あのクソネクロマンサー! 帰ったらシメてやる!」


「えっと、四十四匹か。これで当分赤い木の実は避けられるな」


「早速美味しいものでも食べに行きません? 美味しいお肉とかが食べたいです!」


「よく肉なんて食えるな……」


 生き物を殺した直後とは思えないセリフが飛び出してきた。

 レフォンもネフェリムに負けないくらい、頭のネジが飛んでいそうだ。


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