11話 狂気のヒロイン達
——一方、盗賊のアジトでは。
「ふぅー やっぱりカレーは美味いっすね、ボス!」
「久しぶりにいいもん食ったな」
「オイラ、大満足っス!」
盗賊三人組は、俺の材料を使って作ったカレーを平らげ、満足気な表情を浮かべる。
「お前ら二人はコイツを見張っとけ。俺は少しトイレに行ってくる。食べ過ぎた……」
「「了解です! ボス!」」
盗賊のボスはアジトから出ていき、中に残ったのは盗賊の子分二人と俺だ。
「おい! テメェらいくらなんでも舐めすぎだろうが! 俺はどうなるんだ!」
「安心しな! 殺しはしねえよ。でも、奴隷として他国で売り払ったりはするかもな」
「い、嫌だあああああああああああ! 俺まだ童貞なんだ! それに、ここに来てから、心ときめかせてくれるヒロインだって登場してないんだぞ!」
「う、うるせぇ! 騒ぐな! 何言ってんのかわかんねぇが、それ以上ガタガタ言うのなら痛い目合わすぞ!」
ああ、もう誰か助けてくれ。
ボスが部屋を出て、しばらくした時だった。
——バァン!
突如、扉が破られ、バラバラになったその破片が辺りに散らばる。
盗賊達は一斉にドアの方へと振り返り、戦闘態勢をとる。
「無事ですか! ワタル!」
「ああああああ! 私のカレー! まだ残ってるわよね!?」
「レフォン! 助けにきてくれたのか!」
「ちょっと! 私もいるんですけど!」
現れたのは白髪の少女と、半分割れた不気味な仮面の不審者だ。
レフォンが天使に見える。
ネフェリムやメルフェルの何億倍も頼りになるな。
「なんだ、お前ら!? コイツの仲間か?」
「二人ともなかなかの美人じゃないか? オイラ、あの白髪の子が好みっス」
「黙ってろ、ロリコン。ちなみに俺は、あの画面の子がいいかな。緑の目がとても刺さるぜ!」
「ロ、ロリっ! ほう、そんなに死にたいですか、そうですか」
「ちょっと! ピーマン入ってるじゃない! どういうことよ!」
ネフェリムは余ったカレーが入っている鍋からピーマンだけを取り除き、ご飯にかけて食べ始めた。
お前は何しに来たんだ。
「仮面の方はほっとけ。まずは、白髪の女からやる。左右から畳み掛けるぞ」
「了解っス!」
「気をつけろ! レフォン!」
「問題ありません! 『パワード・エンハンス』——!」
魔法によってレフォンの体は光に包まれ、攻撃力を上昇させる。
左右から盗賊達がレフォンに鋭い刃を振り、切り払おうとする。
「甘いですね!」
が、レフォンは自分より高い身長の盗賊達を、ジャンプで飛び越えて凶刃から逃れる。
盗賊の背後を取ったレフォンは即座に振り返り、反撃の構えをとる。
「クソッ!このガキがぁ!」
レフォンに盗賊の強烈な蹴りが入れられる。
「レフォン!」
「その程度では、私は倒せませんよ?」
盗賊の足は杖の細い持ち手で防がれていた。
それに驚いた盗賊達は慌ててレフォンから距離を置く。
「何だこのチビ!力が強ぇ!」
「魔法で身体能力を上げてるんだ! 気をつけろよ、格好からして魔法主体だろう、撃たせる前に押さえつけるぞ!」
「分かったっス!」
小太りな盗賊が、レフォンに突っ込み、その背後を隠れるようにもう一人が接近する。
「覚悟するっス!」
「ふん、悪ぃな、お前は囮だ」
小太りな盗賊がダガーを向けて突進するも、太ってない方の盗賊がデブを踏み台して飛び上がり、上からレフォンに襲いかかる。
デブは踏まれてバランスを崩し、レフォンの足もとへ倒れ込み、顔面を床に強打する。
「ひ、酷いっス!」
「邪魔です!」
「うげっ!」
小太りな盗賊はすぐさま起き上がろうとするも、頭をレフォンに踏みつけられ、身動きが取れなくなる。
ああ、可哀想に。
「死ねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!」
上からレフォンに向かって刃を突き立てた盗賊が降ってくる。
「死ぬのは——お前だあああああああああああああああああああああああァァァ!」
レフォンはそれを杖でのフルスイングによって真っ向から撃ち合う。その一閃は盗賊の持っているダガーを砕き、盗賊の顔面に杖の先端にある宝石がめり込み、バキバキと鈍い音と共に小屋の壁を突き破って、外へ吹き飛んでいった。
「お、おい……今の音、死んだんじゃね?」
「いえ、死なない程度に加減しましたから生きているはずです。…………多分」
「ふう~食べた食べた。あれ? もう終わったの?」
「ええ、大体は」
レフォンの足元に倒れていた豚が起き上がった。
「あ、あ、あの、オイラもう何もしないんで……どうか見逃して——」
「ふんッ!」
言い終わる前にレフォンの強烈な拳が厚い腹の脂肪に埋め込まれた。
魔法によって強化された少女のパンチは岩をも砕くと言わんばかりの威力を持っている。
「————っ! あ、ああ——」
豚は強烈な痛みに床に倒れてのたうち回った。
「大丈夫ですか、ワタル。今、それを壊しますから」
レフォンは俺に繋がれている拘束具を素手で握り潰して破壊した。
「た、助かったよ。ありがとうレフォン」
「無事で良かったです」
「ねぇ、私にありがとうは?」
「お前はただカレー食ってただけだろうが!」
「酷い、私だってここの場所見つけたりして活躍したのに!」
——!
俺はふと重大な事を思い出した。
「そうだ、まだ残ってるんだ!」
「ん?」
俺は掴み掛かってきたネフェリムを払い、まだリーダーが残っていることを説明する。
「まだいるんですか! なら早くここからおさらばしましょう!」
グリモワールと盗賊のボスに出会ってしまった時のために、脂肪君のダガーを拾い、急いでこの盗賊のアジトから立ち去ろうとする。
だが、遅かった。
「随分、派手に遊んでくれたなぁ」
盗賊のボスが戻ってきたのだ。
「よくも、俺の部下たちを……許さん!」
その奥にもう一人、ドアの外に誰かがいる。
もう外は暗くなっていて姿がよく見えないが、声で女性であることしか分からなかった。
盗賊のボスはダガーを取り出し、こちらへ迫ってくる。
「なんですか? あなたも同じ目に合わせてあげましょうか?」
レフォンは杖を持つ手をに握りしめる。
その瞬間、レフォンを包み込んでいた光が消えて行く。
「しまった、魔法の効果が!」
「喰らえ!」
レフォンに向かって盗賊のボスが切りかかってくる。
やばい、レフォンが殺される。
俺は、タガーを片手に盗賊のボスに真正面から向かっていった。
「馬鹿め!俺に勝てると思っているのか!?」
それを見た盗賊のボスは標的をレフォンから俺に変え、ダガーの刃が俺の顔前まで迫ってきていた。。
対する俺は奪ったダガーの刃先を向けて、不器用にもただ突っ込むだけだ。
恐怖心のせいで俺のダガーにはまるで殺意など込められてはいない。
ヤバい。勝てるわけない。
一方的に殺られる事を覚悟した、その時だった。
「全く面倒ね。『ポルターガイスト』――!」
激突寸前の盗賊の頭上にに突如、テーブルが飛んでくる。
「ごふっ!」
盗賊のボスはそのままテーブルに潰される。
「何をしやがった! 何ッ、椅子が!」
テーブルだけじゃない、椅子や棚、鍋などが空中を縦横無尽に動き回り、盗賊のボスに襲いかかる。
「ぐっ、痛え! ぐへっ、止めろ! 誰か! 助けてくれ! お母さああああああああん!」
家具の嵐に襲われた、盗賊は体のあちこちをぶつけられながら、情けない叫び声を上げてに頭を抱えてうずくまった。
それでも容赦なく嵐は襲いかかる。
すると、突如嵐は止みはじめてしまった。
「ごめーんもう限界。長くは持たないからこの魔法」
「どうせなら、最後まで倒しきれ!」
「あれ、助かったのか?」
カレーの入っていた鍋を頭に被ったボスはゆっくりとその場から起き始めた。
「く、クソう。やって……くれたな」
「おらぁ!」
よろよろと歩く奴に俺は鍋に思いっきり蹴りをいれ、盗賊は頭に被った鍋ごと床を転がり回った。
やっぱり人間を殺す度胸は俺にはなかった。
「ああ、俺のカレー……」
「また買えばいいじゃないですか」
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レフォンちゃん頼りになりすぎる……