10話 ワタル大捜索
一方その頃——
「おっそいわね! 買い物するのにどれだけ時間かかってるのよ!」
いつまで立っても、使用人が戻ってこない。
相変わらず駄目な使用人ね。私には平気で歯向かうし、文句も言うし、これは少し罰を与えるべきだわ。
グゥウウウ…………。
一人しか居ない家に、虚しく腹の音が鳴る。
「お腹すいたわ。ああもう! 全く、どこで油売ってるのよ! 後で覚悟しなさいよワタル!」
つい、空腹を我慢出来ずに家を飛び出してしまった。
えっと、商店街はどっちだったかしら……
多分……こっちね。
ワタルはこの街に来てまだ日が浅いらしい。
ワタル、きっと迷子になったに違いないわ。全く、しょうがないわね。可哀想だから探しに行ってあげましょうか。私ったら、なんて優しい主なのかしら。
ところで、さっきから店の一つも見当たらないのだけれど、もしかして道を間違えた?
家から出て結構な距離を歩いたけど、未だに商店街にだどりつけない。
それどころか、今まで来たことの無い場所まで来てしまった。
さっきまで大通りにいたはずなのに、いつの間にか細い路地にいる。
沢山いた人もここでは誰一人としていない。
困ったわね。そうだわ!人が居ないならゴーストに聞けばいいじゃない!
近くのゴーストに商店街まで案内してもらいましょう!
……と思ったけど、ゴーストが近くに居ないわね。
さっきはそこら辺にいたのに……。
人もゴーストもいないなんて……このままじゃ帰れないよう!
「ワタルぅぅぅぅぅ! どこにいるのよー! 迷子になったから家まで……じゃなくて、迎えに来たわよー!」
大声で叫べばきっとすぐに見つかるはず!
叫びながら、街を走り回ったこれならきっと向こうから気づいてくれるわ。
「うるせえ! 何時だとおもってるんだ!」
「ひぃ! ごめんなさーい!」
はぁ、はぁ、まさか起こられるなんて、非常事態なんだからしょうがないじゃない!
歩けば歩くほど、見慣れない景色が広がってくる。
私、もうお手上げよ。
「ワタルぅ……おーい……誰かぁ……居ないのぉ……」
どこいったのよもう……おなかすいたよう。
細い道を延々と歩き続ける、すると、道の角から小さな白髪の少女が目の前を横切った。
「あ、あの……助けて……」
「……?」
声をかけたあの子ってもしかして……
その顔には見覚えがあった。
「……? その髑髏の仮面……ネフェリムじゃないですか! どうしたんですか? こんな所で?」
「レフォン!?」
よかった! レフォンちゃん、なんていいタイミングなのかしら!
目の前のレフォンが天使に見えた。
何とか家には帰れそうね、助かったわ。
「偶然ですね、こんな所でどうしたんですか?」
「実はその……ワタルが迷子になっちゃって……探してあげてたところなのよ。レフォンちゃんもどうしてこんな細い道に? 怖いおじさんとか出たら危ないわよ?」
「私の家はこの近くになんです。それに、私に手を出すような不埒なやからは、この杖で殴り殺してやりますとも!」
レフォンはどこからでもかかってこい、と言わんばかりに杖を振り回す。
レフォンちゃんって、見た目小さな女の子なのに、過激な性格してるのね。
「私も手伝いますよ、ワタルがどの辺にいるか検討つきますか?」
なんていい子なの! ワタルより何億倍も頼りになるわ!
「商店街のほうよ、でも商店街がどっちだったか……」
「商店街って……全然違う方向じゃないですか……迷子なのはワタルじゃなくて、ネフェ——」
「さあ、行きましょう! きっとワタル、寂しくて泣いてるかもしれないわ!」
「はあ……行きましょうか……」
なんやこんやでレフォンのおかけで商店街に辿り着くことができた。
「商店街に着いたわ! 助かったわ! ありがとね!」
「…………どういたしまして」
何とか商店街には戻って来れた。レフォンが居なかったら、もう帰れなかったかもしれないわ。
「さて、後はワタルを探すだけですね」
「全く、どこでなにしているんだかわかったもんじゃないわ!」
元はと言えばワタルが帰ってくるのが遅いせいよ!
「そうだ! いい事思いついたわ! 二手で探しましょうよ!」
「それは……止めた方がいいと思いますよ……?」
「えっ? どうしてよ?」
「ほら……! ここは人通りが多いですし……迷子になるかも……」
なぜか、二人で行動した方がいいと言うレフォン。
二手で探した方が早いと思うのに。
「しょうがないわね! レフォンが迷子にならないように、私が一緒にいてあげるわ!」
「あはは…………」
「でも、この人の数よ、探すの時間かかるわね……」
もう暗いというのに、商店街にはまだ結構な人がいるのね。ここは周りにいるゴーストたちに協力して貰おうかしら。
「私に任せて下さい。いい方法があります」
レフォンはそう言うと、杖を構えて魔法陣を作り始めた。
「『ジャンプ・エンハンス』——! とおっ!」
魔法を発動させたレフォンは、空高く飛び上がった。
これで空から探すのね! さっすがレフォン、頼りになるわ!
暫くして、レフォンが地上に舞い戻ってきた。
「いませんでした。商店街にも、その周辺にも。黒髪は珍しかったので居たら目立つと思うのですが……上から見て分からなかったらどこにいるのか検討も……」
「そうだわ! 聞き込みよ! 黒髪で変わった顔立ち、これだけ特徴があれば誰か覚えてるかもしれないわ!」
「いいですね! それならきっと何か手がかりがありますよ!」
私とレフォンは早速商店街で聞き込みをした。けれど……
「そんな奴、俺は見てねぇ」
「そうですか……」
「ごめんなさい……私も見てないわ……」
「ああ、そいつならさっきピーマン買っていったぞ」
「本当ですか!」
「ええ!? ピーマン!?」
「ああ、二時間前くらいかな……」
「二時間……随分立ってますね。これでは今どこにいるのかさっぱりです」
「あれだけ買わないでって……言ったのに……」
「もしかして、すれ違ったのでは?」
「はっ! あ、ありうる……」
「戻ってみましょう。流石に家の方向はわかりますよね?」
「わ、わかるわよ! レフォンったら、私をそんな馬鹿だと思ってるわけ!?」
「そういうわけじゃ……もう! 早く行きますよ!」
私はレフォンを連れて、家へ戻ってきた。
「ただいま! ワタルー! もう帰ってるー! 居たら返事してー!」
「どうですか……ワタル、居ましたか?」
「駄目ね、居ないわ」
「まさか、盗賊に襲われたとか?最近この辺りで目撃されています」
「ないない、きっとどっかで迷子になってるのよ。それに、あんなステータスの低い男を襲う価値なんてあると思う?」
「まあ、それを言われると……」
「そういうこと、つまり迷子よ」
「じゃあ、どうすれば……」
「商店街に戻りましょ。レフォン、案内お願いね」
「商店街の道くらい覚えて下さいよ!」
そして再び商店街へと戻ってきたが……
「やっぱり居ないわね……」
「もう、いっその事クエストを発注するという手も……」
「嫌よ! お金かかるじゃないの! せっかくクエストクリアして、美味しいカレーが食べられるのよ! そんなお金残ってないわ!」
「ああ! もうどうすればーーーーーー!」
レフォンも私ももう諦めかけていた。
…………?
「ちょっとあの人に聞いてみるわ」
「あの人? どの人です?」
私は路地裏に漂う挙動不審な一人のゴーストに聞いてみることにした。
「あの、黒髪の珍しい顔立ちをした、男の子見ませんでした?」
「————へ? もしかして俺に言ってるのか?」
「ええ、貴方よ」
「俺が見えるのか?」
「ええ、ばっちり見えてるわよ」
「ほう、嬢ちゃん、死霊術師か。その仮面似合ってるぜ」
「このカッコ良さが分かるなんて、なかなかいいセンスしてるじゃない」
理解が早くて助かるわ。
私は直ぐにワタルの特徴を説明した。
「あの……ネフェリム? 突然壁に向かって話しかけて、どうしたんですか?」
「俺はとんでもないもん見ちまった……」
ごくり……この人、きっと知ってるわ。
「さっきここで若い男女が腰を振っ——」
「『ネクロ——」
「じょ、冗談だ! だから、杖を下ろしてくれ! あんたのさっき言ってた、坊主が盗賊に連れてかれたんだよ!」
とんでもない事を言い始めた、ゴーストを杖で脅すと素直に語り始めた。
全く、女の子に対して何を言おうとしたのかしら?
「盗賊? それ本当でしょうね?」
まさか、レフォンの言った通りだとは。
「ほ、本当だ嘘じゃない」
「それでどこへ連れて行かれたの?」
「街から少し離れた小屋だ。案内できるぞ」
「——! お願いするわ! 連れてって!」
「分かった、こっちだ」
私は男のゴーストの協力を仰ぎ、ワタルの居場所を突き止めた。
全く世話の焼ける使用人だわ。
「…………ネフェリム、大丈夫ですか? 一度教会で神官に頭を見てもらった方がいいのでは? さっきからずっと壁に話しかけて……」
レフォンがなぜか心配そうに私を見つめている。
「ワタルの居場所が分かったわ! 着いてきて!」
「え……?」
評価を頂けると嬉しいです!
レフォンやワタルにはゴーストは見えていません。
ネフェリムだけが見えています。