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9話 拉致

 俺たちがクエストを終えた日の夕方。

 俺が今日の夕飯の材料を商店街で買って帰る途中のことだった。


 異世界の商店街は大通りで沢山の屋台が並び、いつも人で賑わっている。

 これは元の世界となんら代わりかはない。

 違う点と言えば、街や物よりも人の方がよく目立つ。

 そして、エルフやドワーフといった妖精族に犬や猫、そして狼などの獣人族が人間と同様に平然と街に馴染んでいる。

 物語では、人間以外の種族は奴隷として扱われたりする事もあるが、この世界ではそんな事はないらしい。

 実に平和な世界観だ。


「えっと……これで全部だな」


 俺はネフェリムに渡された買い物メモを確認しする。

 メモにはジャガイモ、ニンジン、タマネギ、ミノロースにカレーの源泉種。(ピーマンは絶対買わない事)と書かれている。

 厳密に言えば本当はこのメモが読めないのだが、ネフェリムがさっき口で言っていたので覚えている。

 バッグの中には、ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、ミノロース、カレー源泉種、そしてピーマン。

 よし、全部買ったな。


「おい、兄ちゃん。グルキネシル焼きはいかがかな? 今日はとても新鮮で活きのいいやつが入ってきたからね!」


 突然、屋台方から声を掛けられた。


「グルキネシル?」


 聞き慣れない単語が出できたな。

 活きがいいってことは生き物なのか?

 少なくとも元の世界には存在ものだろう。


「一つ下さい」


「はいよ、毎度あり」


 物は試しだ。俺は一つ食べて見ることにした。

 見た目は普通に生地で巻いた物を焼いたみたいだが、これはどんな味かするだろう。


 ――ガブッ


 …………これは、トマト? いや違う、ヨーグルトの味だ。

  それで…………炭酸だと!? なんだこれは!?


 食の新天地だ、元の世界ではまず出会えないであろう、未知の食材だ。

 美味しいか美味しくないかで言えば、正直分からない。

 多分、美味しくないに分類されるかもしれない。

 なにしろ、食の新天地を無理やり開拓されたような感覚だ。


 おっといけないいけない、あんまり寄り道しているとネフェリムに怒られてしまう。 早く帰ろう。


 商店街から出て、家へ向かおうとしたその時だった。


「おい、お前。妙な格好してやがるな」


 突然、顔を布で覆われた男に話しかけられた。

 よく見ると手には刃物が握られていた。


「え? な、なんの用だ!?」


「黙れ! お前こっちへ来い!」


 俺は口を封じられ、抵抗することも叶わず、路地裏へ連れ込まれてしまう。

 なんなんだコイツは…………!

 路地裏には俺を拘束した奴以外に二人が待機していた。


「へへ、いい荷物持ってんじゃねぇか!」


「いえボス、これ野菜です。ジャガイモにタマネギ……これカレーですね」


「…………まあいい! 金目の物はなかったがカレーの具材は手に入った」


「お前ら! 離しやがれ! それは今夜の晩飯だ!」


「うるせえ! このカレーは俺らのもんだ!『スリープ』」


 魔法によって、現れた煙に俺は意識を奪われていく。


 くっ、クソッ——! ネ、ネフェ……リム。

 俺は何も出来ずにこのまま意識を失った。





 目が冷めると俺はとある部屋で目が覚めた。

 床や壁などは木製ようだ。それでもってかなり古びている。

 街の建物は石製が多いから、ここは街の外か?


「目覚めたか」


 足に冷たく、重い感覚がある。

 下を見ると足に鎖が掛けられ、逃げることが出来ない状態だった。


「おい! ここはどこだ!」


「俺達のアジトだ。俺らは盗賊でな、お前を連れてくるよう言われてんだわ」


 目の前には、俺を拉致した覆面の男に路地裏で待機していた二人、合計三人がアジトの中にいた。


「俺を……? 自慢じゃないが、俺はグリモワールも持ってないし金は銅貨一枚たりとも持ってなければ文字すら読めない、俺なんかには何の価値も無いぞ!」


 自分で言ってて悲しくなる現状だ。だが、実際俺の存在など無価値なはず。


「ああ、確かにお前に価値はねぇ。だがな、お前持ってた飯の分量を見るに一人じゃねぇ筈だ。つまりはお前は人質なんだ金なら後でたっぷり頂くぜ。へへへ……」


 こんなのって、有り得ねぇ!

 まずい……誰か、助けてくれよ。ネフェリム……なんかすげえ頼りねぇけど。


「ああああああああもう駄目だだあああああああ! 誰かあぁああああああ助けてええええええ!俺は童貞のまま死にたくねぇえええええ!」


「うるせぇ! 黙りやがれ!」


「むぐっ!」


 ヤケになって叫ぶと、盗賊のボスが俺の口を力づくで押さえつける。


「ボス、どうします? 人質とったはいいですけど、逃げる手段とか金を奪い取る方法とかあるんすか?」


「丁度今、それを考えてんだよ!」


「オイラ、なんだかカレーが食べたい気分です。カレー作りましょうよ。そうすれば何かいいアイデアが浮かぶかもしれないっス。丁度この小僧は具材持ってることですし」


「それは意味わかんねぇよ」


 今まで黙っていた小太りな盗賊が突如間抜けな事を言い出した。

 見た目通り食い意地が張っているらしい。


「カレーか……たまにはいいかもな」


「俺も賛成です! どうせしばらく暇ですし」


 他のまともそうな二人も賛成してしまった。

 いいのかよ!?てか、何しれっと俺の買った材料使おうとしてんだ!

 小太り盗賊にカレーの材料の入った袋を奪われる。


「お、おい! それは俺の夕飯だ! 返しやがれ!」


 それを見たボス盗賊がキメ顔で言い放った。


「自分の身より、飯の心配をするとは……いい事を教えてやろう小僧、金品を盗むだけが盗賊ではないのだよ」


「いや全然カッコよくねぇから!」



 盗賊達は、俺を放って呑気にカレー作りを始めた。

 犯罪を犯しているというのに、なんと言う緊張感の無さだ。

 そして、意外と家庭的なんだな。こういう野蛮な奴らは肉を丸焼きにしたものとかを食ってるもんだと思っていた。


「馬鹿か? お前? 普通隠し味と言ったらシルバーナッツだろうが!」


「いや、それはおかしいっス。トレントの樹液を入れた方がコクが出て美味いっス」


「違うな、ここはオークの骨だ。出汁と混ぜたほうが美味い」


 盗賊達はカレーに入れる隠し味談義を始めた。


「カレーの隠し味はチョコレートだろうが!」

 って、そうじゃない! 頼む……誰でもいいから助けてくれ!



評価を頂けると嬉しいです!

私は馬鹿舌なのでカレーに何が入っていようと分かりません。

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